第一回・本当に極めきっているのは誰だ選手権 三〜五回戦



 「駄目だ。一日もかけて勝者が出ないなんて有り得ない」
 翌朝。目の下に未だ隈を残しながらも目覚めた、マサオミの第一声である。
 昨晩リクはいつもの自分の就寝時間頃に眠り、起きたのは七時頃だった。その頃ユーマとマサオミは未だ眠りから醒める気配無く、ヤクモは既に起き出していたものの疲労からか頭の回転が鈍い様で、ぼーっとした侭リクの書き残した勝敗結果の紙を見つめては不服そうに息を吐いていた。その後風呂上がりでも呆っとした侭だった辺り、単に寝落ちと言う己の敗北理由に自分で不甲斐の無さを感じずにはいられないだけなのかも知れない。
 それから一時間。勝敗結果よりも何よりも真っ先にそう云ってマサオミは起き上がった。余りの唐突さに当初リクもヤクモもマサオミが寝惚けているのではないかと疑ったのだが、どうやら正気の様だ。途中で意識が途絶えた事は憶えているらしく、勝敗結果の書き付けを見ても別段驚きも悔しがりもしない。
 ちなみにユーマはマサオミの起きあがる十分程度前に目を醒まし、散々「納得がいかない」と云う旨をぶちぶちと呟いた挙げ句、今は頭をすっきりさせる為に入浴(と云うより行水)中である。
 「……いきなりどうしたんですか、マサオミさん……」
 「勝負方法が単純過ぎたんだ。もう一日と半分を費やしていると云うのに、これはいかんだろう。もっと厳正に勝負方法を定めた方が良い」
 いつもより悪い顔色で、同じ様にどこか疲れた様子のリクとヤクモとを交互に見遣り、マサオミは真剣な表情で何やら頷いて云う。
 確かにこの二日で行えた種目は二種類。うち真っ当に勝敗が分かれたのは(条件はさておいて)カバティのみである。しりとりは完全に時間の無駄と云えたかも知れない。
 ちなみにしりとりについてのマサオミの誤算は、苦手だろうと思いこんでいたユーマが一番の強敵だったと云う事だ。ユーマは幼い頃より色々と人間関係に揉まれており、更には一応はミカヅチグループの跡継ぎになる可能性があった事もあってか存外に幅広い知識や語彙力を持っていたのだ。無論弟ソーマとの遣り取りでの影響もあるだろう。
 常が直情的な質であるが故に、頭の回転も直線的なのではないかと勘違いをしていたマサオミの方の一方的な間違いである。
 語彙の量だけで見ればヤクモの方が難敵と云えたが、こちらの敗因は規則正しすぎた生活に因る。
 「…………まだやる気なのか。別に構わないが。
 確かに単純過ぎて長引くゲームは勝敗結果までも曖昧になると云う事は良く解った。もっと明確に短時間で勝敗差が分かれるものが良いだろうな」
 妙に意気込むマサオミを暑苦しそうに半眼で見返してから、ヤクモは溜息混じりに、然しなんだかんだと同意の意思でいる。矢張り勝負事となると妥協が無い性質故か。
 「白黒はっきりつくものの方が良いって事ですね。
 あ、そう云えば昨日マサオミさん達が眠っちゃった後で、こんなものを見つけたんですけど…」
 云いながらリクは部屋を横切り、備え付けのロッカーの中から掌サイズの箱を取り出して見せた。
 透明なプラケースに収められていたのは、赤い、よくある幾何学模様で裏面を飾られたカード──トランプだった。
 
 *
 
 「と云う訳で次の種目はトランプゲームな」
 「望む処だ。で、何をやるんだ?」
 風呂上がりのユーマは唐突なマサオミの提案に然しあっさりと頷き、タオルで髪の毛を拭いながら再び椅子へと腰を下ろした。
 好戦的なユーマの性質から云って今更辞退するとは誰もが全く思っていなかったが、こうもあっさりと乗られると、再びの勝負の予感に皆身構えて仕舞い、室内の空気が僅かに緊張の色を帯びる。
 「えーと、ババ抜き、ジジ抜き、七並べ…」
 「ポーカー、スピード、ブラックジャック」
 「「「「神経衰弱」」」」
 奇しくも声は綺麗に唱和された。
 記憶力と運とを頼みにしたゲーム。ルールは単純明快、勝敗も単純明快。ジョーカーを加えれば54枚27組。奇数組ならば全員が同着となる事も有り得ない。
 「確かに……記憶力ばかりではなく、闘神士には運の要素も時に必要になるな」
 ぽつりと呟くヤクモの言葉に、そう云えば最強闘神士決定戦をしていたんだっけと当初の目的を思い出すマサオミである。最早最強闘神士が誰かと云う問題よりも、勝負事として負けたくはないと云うのが誰もが第一に抱えている気がする。……勝負事に余り積極的でもないリクを除いて。
 「よし、じゃあ次は神経衰弱って事で」
 トランプの蓋を開けて云うマサオミに、一同は是と頷いた。
 
 *

 トランプは四人で代わる代わる切って、並べるのも整列ではなく無作為に撒く事にした。
 流石に腹が減っては戦は出来ぬと云う事もあり、勝負の前にサンドイッチを運んで貰う。持ってきた秘書は相変わらず何も云わなかったが、屍の様な様相となった四名とは頑なに視線を合わせようとはせず事務的にさっさと退室。
 余程傍目に壮絶な有り様なのだろうかと窺わせる、あからさまに「関わりたくない」と云った姿勢だった。
 ともあれそんな事は既に気にならなくなっている四名。それぞれ手を伸ばしサンドイッチを黙々と片付けながら、トランプ捲きを四人順番に回して行う。万が一のイカサマ防止の為である。この中にその様な不正を働く者がいるとも思えなかったが念の為。
 毛足の短い絨毯の上に四者が円座に向かい合う場へと、トランプが次々に撒かれて行く。その様子を見ながらヤクモがふと呟いた。
 「一人一度に二枚を裏返す。人数は四名。つまり一巡で最大八枚が表に返される事になる」
 「…? ああ。そうだな」
 一応相槌を返すマサオミの方を見もせず、場に撒かれる赤いカードの裏をじっと見つめるヤクモの横顔。
 「五十四枚/二十七組。ジョーカーは除いても数字札も絵札も共に同じものを四枚持つ。神経衰弱とはその名の通りに札の配置を全神経を費やし記憶する事がメインとなるが………先程のしりとりの結果を加えても、記憶力に関してはここに居る皆が優れていると云えると思う」
 そこまで呟くと、ヤクモは不敵さの加味された苦笑を浮かべた。
 「運が物を言う勝負になるだろうな、これは」
 
 
 「……ば、莫迦な……」
 「こんな事が……あって堪るか……!」
 「予想外…だったなぁ、これは……」
 十五分ほど後。ヤクモ、ユーマ、マサオミと順番に、彼らは引きつった声を漏らしていた。
 「えーと…こっちかな。あ、合ってた。次は…あ、これで全部もう返せますね」
 ぱらり。ぱらり。ぱらり。
 「はい、これで終わりです」
 残ったカードは一度表を見たものが殆どであった為か、躊躇いなく順序通りに正解が引っ繰り返されていき──気付いた時には場にカードは一枚も残っていなかった。
 正真正銘の上がりである。
 「……えーっと、俺が六組。ユーマが四組。ヤクモは……戦果無しか」
 ぐるりと各々の手元を見回すマサオミ。云う迄もなく残りの十七組は全て、リクが返して取得している。
 …………実に圧倒的な結果であった。
 「イカサマなどしていないだろうな太刀花リク…!」
 「そ、そんな事してないよ!ただ、ちょっと運が良かっただけで……」
 そう。正に運だった。そもそも札を返す順番からして四番目と、最初から情報を充分に頭に入れて行けた所に加え、何故かリクの返す最初の札の殆どが既に場に何れかの組が提示されたものだったり、リクの前のヤクモが二枚目に返した札がリーチだったりと云う偶然──否、幸運が続き、気付けばリクの独壇場だった訳である。
 反対に運に全く恵まれなかったのがヤクモで、あらゆるタイミングの悪さも相俟って今回は札組を一枚も取れず最下位となった。
 果たしてリクが無欲なのが良かったのか、日頃から妙に運が良いのか。恐らく両方である。
 そんな訳で三者は、圧倒的勝者の前にがっくりと頭を垂れたのであった。
 
 
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 三回戦・神経衰弱
 一位:太刀花リク、二位:大神マサオミ、三位:飛鳥ユーマ、四位:吉川ヤクモ
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 七並べ。
 次の勝負を、と果たして誰が提案したか。部屋中に満ちる瘴気めいた邪悪な空気に、マサオミは密かに溜息を吐き出した。
 万能ジョーカーのルールは無しの52枚。四人で13枚ずつ分けた後、7のカード四枚を抜き出した。のだが、この時点で既に運の天秤が傾いていたのか──四枚共何故かリクの手元に勢揃いしており、リクのみ初めから手札9枚と云う幸運ぶりを早速発揮した。
 予め抜いてから分配していれば各々12枚だったと云うのに、と残った三者の誰もが遠い目で思ったが、既に始まって仕舞った勝負に難癖をつける程に彼らの自尊心は低く無い。単純に意地っぱりなだけとも云う。
 9枚と13枚と云う歴然差があれど、この手札が彼らにとっての鍵であり扉。悪魔であり天使。切り札であり弱点。慈悲であり──無慈悲。
 ちなみにパスは二回までである。三度目のパスは容赦なく脱落。


 「……マサオミ、お前だろうスペードの5を止めているのは」
 「俺じゃない、誤解だ!」
 「あ、すいません…そこ僕です。まだ出す訳にはいかないので……ごめんなさい」
 「…………リク、いちいち正直に云わなくて良いんだぞ…。ともあれヤクモ、人を疑うのは良くないなぁ?」
 「済まなかった。だがクローバーの9はお前だと思うぞ」
 「(ぎくり)何を根拠に…」
 「……顔に出ている。成程犯人はお前か…」
 「矢張り貴様だったか。早く出すが良い、俺の手札の殆どは絵札だ、この侭では進まんぞ」
 「「「………………」」」
 
 加えてこんな遣り取りである。己の手札や戦法を隠し切って、切り札を最後の最後に出すのが醍醐味である七並べでは、この様に誰がどの札を所持しているか、と云う事が判明して仕舞うと──

 「………」
 「くそっ、もう次は出す札がないぞ!早く出さないか!」
 「………」
 「今のユーマ君が出したハートの4で僕は暫く進めるから……ごめんなさいヤクモさん、まだスペードの5は出せそうにないです」
 「………」
 「マサオミ、お前に人の心は無いのか?」
 
 この様な感じに、誰がどの様な『止め方』をして、その被害が誰にあるのかまでもがあからさまになって──結果室内は加速度的にどす黒い空気に包まれていったのである。
 そして同じ様な状況にあれば、のほほんと邪気をかわすリクよりも、暗躍のイメージが誰の記憶にも濃いマサオミの方が否応なく非難の矢面に立たされるのは云う迄もない。
 こうなれば最早公開処刑も良い所だ。
 「おのれ……1パスだ…。憶えていろ大神マサオミ…!」
 「──見損なったぞマサオミ。1パス」
 「解った、わかりましたよ!出しますってば!!」
 心の中で涙を滂沱と流しつつ、マサオミはヤケクソの様に両者リクエストのクローバーの9を場に叩きつけた。ユーマはともかくヤクモの絶対零度の声色は恰も絶縁状を叩きつけるかの様で、正直怖くて堪らない。どうせ同じ唆すのであれば色仕掛けでもしてくれた方がなんぼもマシである。
 「ふん、漸く観念したか」
 云いながら、リクが一人ハートの3を置いた次に、ユーマがクローバーの10を並べる。ヤクモがそれに続いてジャックを。
 (て云うかこの状況からすると俺もかなりヤバいぞ…。あっちもこっちもそっちも……止めているのはリクだけなのか…?)
 見渡すカードの並びはまだあちらこちらが虫食い状態にある。リクの様子からしてスペードの5を止めているのは確実で、ユーマは当人曰く絵札が殆どらしい。ヤクモの手札については知れてはいないが、早くもパスを使った辺り少なからず何カ所かを止められ辟易している様子だ。
 それからも互いに何故か莫迦正直に手札の内容を述べて仕舞ったり(主にリクとユーマが)しつつも戦局は概ね順調に運ばれ──
 「はい、スペードの5。上がりです」
 全く邪気のない笑顔で最後の『鍵』を得意そうに開き、リクが手札の全てを出しきる。当初から枚数が他より4枚少なかったとは云え、見事なぐらいに詰まった様子が見受けられなかった。
 「こ……これも運…、なのかなぁ……?」
 「……だろうな」
 「ふん、運の良い奴め…」
 手札に回ったカードの強運と云うべきか。先程に続き実に手際の良い鮮やかな勝利。リク本人の憎めない気質も手伝ってか、殆ど露骨に恨まれていないと云うのも恐ろしい。
 (七並べと太刀花リクの組み合わせは危険過ぎるんだな……)
 何処か達観した表情で、マサオミは残った己の手札を吟味してみる。リクの開けた最後の『鍵』は然しスペードの5以下の数字札を持っていないマサオミにとっては無縁である。後はクローバーの数字札。何れも出せる状況にない為、仕方がないので今まで塞いでいた秘伝のダイヤの4を出すと、ユーマは相変わらず絵札埋めを進め、ダイヤの下を進めたのはヤクモだった。
 「く……出せないな。仕方ない、1パスだ」
 次の順番をマサオミはやむなくパスした。続くユーマはクローバーのキングを並べ、苦そうに表情を歪める。絵札はあとダイヤの列を除いてこれで全て出し切ったことになる。数字札はクローバーのみ。
 然しこの侭では全く埋まりそうにない現状にマサオミは眉を寄せる。その視線の先で、悠然と置かれるダイヤの2。ヤクモの手だ。
 「…………………………2パスだ。……なあ、まさかとは…思うんだが……」
 何となく背筋に冷たいものを感じながら呟いたマサオミの声と同時に、ユーマが苛々と絨毯に拳を打ち付ける。
 「くそ……!もう手詰まりか…2パス!また貴様なのか、ダイヤの10を止めているのは!」
 「待て、今度は俺じゃない!……、」
 「………………ま、まさ、か……!?」
 予想への確信に、マサオミは泣き笑いの様な表情で、ユーマは愕然とした表情で。残るヤクモを見遣った。
 両者の、驚愕、呆然、絶望、憤怒、或いは嘆き──そんな様々な感情に彩られた表情の先にあるのは、再び悠然とした様子で置かれる、ダイヤの1。
 「や、ヤクモ……」
 「貴様、まさか……」
 「──戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ。甘かったな……特にマサオミ」
 ふ、と寧ろ爽やかとも云える微笑を浮かべ、何処かの赤くて三倍な人の様な台詞を云うヤクモの姿を、ユーマとマサオミは最早敗北を悟りきった表情でただ見つめるしかない。
 「そ、そうか……!最初の1パスから既に俺達はアンタの術中に嵌っていた、と云う訳か……」
 「己を犠牲にしてまで勝利を掴むとは…、見事だ……」
 「て云うか、出せる札があるのにフェイクでパスとは…、卑怯、じゃないのかそれ……」
 怒りよりも寧ろ、あっさりと嵌められていた己に後悔しながら、ユーマとマサオミとはがくりと項垂れた。その手から手札が力無く落ちる。
 (七並べと吉川ヤクモも、運ではなく戦術面で凶悪、だ……)
 実のところ頭脳戦や駆け引きに少々自信のあったマサオミである。あっさりと嵌められ騙された事にショックを感じずにはいられない。
 「……とは云え俺も、マサオミの持っていたクローバーの3が無ければこの先上がれなかった訳だからな。二人同時に沈没された以上、二位を名乗るのも烏滸がましいだろう。二位は不在で、三位と云う事にしておいてくれ」
 そう云ってヤクモは己の手札を場に無造作に置いた。ダイヤの10とクローバーの5──勝敗を分けた『鍵』──が山の上でその存在を主張する様に、蛍光灯の光を薄く反射させている。
 要するに手段は選ばず、然し最下位だけは回避すると云う、その為の『戦い』だった訳だ。つくづく恐ろしい人物と云うべきか。
 「解りました。えっと一位、三位、……ユーマ君とマサオミさんは…順番通りに落ちても結局ヤクモさんには勝てないしで、同時四位…と」
 「「……………」」
 すっかり生きた屍の様な様相となっているユーマもマサオミも、特に異論はないのか虚ろに頷いた。
 

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 四回戦・七並べ
 一位:太刀花リク、二位:無し、三位:吉川ヤクモ、四位:飛鳥ユーマ、大神マサオミ
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 「……次はどうする?」
 さくさくと、存外に器用な手つきでトランプを切りながらマサオミが問うのに、嘗てない程真剣に眉を寄せる残る三名。
 余りに単純明快に勝敗が分かれた後にあれだけ熾烈な戦いを経て、これが勝負事であるのだと云う実感が再び蘇り、一同緊張やら焦燥やらに包まれている。
 「運が全てを左右する様なものは避けた方が賢明かもしれないな……」
 何処か虚ろに呟くマサオミに、声もなく頷くヤクモ。神経衰弱の時にまるきり運で敗北したと云うのが余程効いたらしい。
 「次も単純なゲームならば──ババ抜きでどうだ」
 「止めた方が良い。ポーカーフェイスの出来そうにない心当たりが三人程居る」
 次の勝負へともう立ち直り、ハムサンドをもくもくと囓りながら云うユーマに、軽くかぶりを振るヤクモ。内訳は訊くまでもなく、この場にいる彼以外の全員の事である。
 「じゃあ…今度は運でも知力でもなく、反射神経で。スピードはどうですか?」
 これもまたシンプルなゲームだ。簡単に云うと、赤と黒とに分けたカードを対決する二人がそれぞれ自らの手札として、場に出した台札の数字に隣接したカードを次から次に出して行くだけである。時に運も必要とされるが、互いの反射神経と判断力が最も物を言う。
 「……確かに。瞬間的な判断や、的確に印を素早く切る技能を必要とする、闘神士の技倆を量る為のゲームとしては相応しいな」
 リクの提案に、ヤクモが不穏に目を光らせて同意し、ユーマも続き頷く。
 「決まりだな。では総当たりをした後で勝利回数で順位を決めるか。同着が出たらその組み合わせで再勝負としよう」
 「……………なんか厭〜な予感するんだよねぇ……」
 ふ、と先程までの消沈ぶりとは打って代わって好戦的な気配を見せるヤクモとユーマの様子に、マサオミは背筋を粟立てた。
 
 
 「いっせーの…」
 「パゥワァァァァァーーーー!!!」
 物凄い勢いで叩き付けられるカードに、思わず仰け反るマサオミ。然し圧されて堪るかと冷静にトランプの数字を見て次々に捌いて行く。
 
 「「いっせーの、」」
 せ、と云う語尾は吐息に消えた。その瞬間より猛烈な勢いで繰られていく赤のカード、それを捌いて行くヤクモの手元を見て、マサオミは半ば青ざめながらも懸命の速度でそれに追い縋る。
 
 
 「無理に決まってるだろ!?」
 総当たりが終わった時点でマサオミは思わずそう叫んでいた。その横でリクも曖昧に苦笑している。
 結果から云うと勝率一位は、戦闘時の猛烈な印の切り方や瞬時の判断力同様に鬼の様な動体視力と反応速度とを見せたヤクモで、二位は「パゥワー」の気合いが勝利を導いていったのではないかと言う事に過言はなさそうなユーマだった。勢いが凄い割に速度も速いとは一体どんなカラクリなのか。
 なお三位は昔からこのゲームに馴染んでおり、カード巡りの運も良かったリクで、最下位は消去法で不慣れだったマサオミとなる。
 ちなみにユーマとヤクモとが対戦した時のそのパゥワーと速度のぶつかり方は既にトランプゲームのそれではなかったとだけ追記しておく。
 「この人外格闘技共に有利なのも駄目過ぎるって事だな…」
 圧倒された悔しさ故に殊更簡潔にそう言い放つと、凄まじい戦いに因ってすっかり傷んだトランプをケースに戻しながら、マサオミはかぶりを振った。
 
 
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 五回戦・スピード
 一位:吉川ヤクモ、二位:飛鳥ユーマ、三位:太刀花リク、四位:大神マサオミ
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三回戦〜五回戦トランプ篇。反動で短すぎた為にひとまとめ。まだまだ続く。
りっくんは無欲な性質な所為か高ラックと云うイメージが何故か。逆にユーマやヤクモは運が悪そう。マサオミはトランプ自体不慣れと云う事で(手先器用だし直ぐ慣れてそうだけど…)。子供の頃からの経験蓄積みたいなものでは不利なんですきっと(無理矢理)。