まつりのあとのまつり。 ぼんやりとした頭。凝った様な空気。素肌に触れる体温。重たい目蓋。 (……あー…怠、) はあっ、と大きく息を吐き出し、土方は上体を起こした。まるで抱き枕を求める様に身体に巻き付いていた腕がするりと解けて落ちる。 枕元の時計は六時前を指しているが、腰の奥の疼痛と気怠さとが、朝の爽やかな気分を台無しにしてくれていた。 取り敢えず時計から目を逸らし、ちらり、と振り返る。昨夜散々土方の事を好き勝手にしてくれた男は、その名残も無い平和そうな表情で寝息を立てていた。布団からはみ出た銀髪が盛大にとっ散らかっているのを見下ろし、土方は盛大な溜息をついた。片手で顔を覆って肩を落とす。 いい加減慣れた光景なのだが、余り慣れたいものでもない。この男と同衾して朝を迎える事自体は既に両手両足の指を総動員して数えなければならぬ回数に達していると言うのに。いつまで経っても何度繰り返しても何処か気恥ずかしいのは、自分が男でありながら女の役割を担わされている所為なのだろうか。そればかりではない気もするのだが。 もっとこう、繰り返しただけ、作業的なそつなさが出て来ても良いのではないだろうかと思う。互いに良い歳をした男同士なのだし、今更恥じらいを感じても仕方がない──のを通り越していっそ気持ち悪いぐらいだろう。 偶には余裕を持って、じゃあヤるか、と布団に入って、さらりと終わって。じゃあ寝ようか、と疲れた身体を休ませて。朝には、お早うさん、と平然と目脂で重たい寝惚け眼を擦るぐらいの、あっさりとした『慣れ』が欲しい。色気とかムードとかそんなのは一切無くて良いから。 正直な所を言えば土方は、銀時とのセックスの際に自分が受け身、詰まるところ女の役割を担う事についてはもう既に諦めている、と言うか──充分に慣らされたお陰で、行為自体を愉しんで快楽を享受出来る域に至っている。些かに不本意な話ではあるのだが。 喜ぶべきか嘆くべきかは解らないが、土方は心身共に環境への適応力が高かったらしい。後は銀時の手管についての良さもあったかも知れない。 ともあれ、最初の三回目ぐらいまでは痛いと罵声を浴びせたし、体内に指や性器が侵入してくる事に嘔吐感を堪えるのに必死だった。前立腺を攻められた所で、射精感を促される違和感に益々気持ち悪さや抵抗感が増して、上手く快楽を拾う事なぞ到底出来そうになかった。……のだが。 四回五回と回数を重ねるうち、気付けば土方の身体はすっかり男同士の性交に慣らされ、今では性器を直接弄られるより、後孔を銀時に明け渡して、銀時を感じさせながら自分も感じさせて貰って互いに達する事に、何よりの充足と快楽を得る様になって仕舞ったのである。……繰り返すが、些かに不本意な話では、ある。 それでも拒むと言う選択肢が何故かいつも出て来ない。散々に男を享受した結果がこの朝の気恥ずかしさと言う為体なのだから、少しは学習すれば良いのに、と思いはするが。 そう。厭なら断れば良いだけの話なのだ。向こうだって土方が明日も仕事だと知っているのだから、無理は強いたりしないだろう。……余程酷く溜まってでもない限りは。多分。 それでも拒むに拒めず──寧ろ気付けば自分の方が「やめてほしくない」と思う様に仕向けられている。悪循環だ、とは思ったが、身動きが取れない程酷く扱われる訳ではないから、まだマシなのだろうか。 同性に組み敷かれ抱かれる事に全く抵抗が無くなったと言えば嘘になる。だが、銀時の好きな様にしてくれる事と、それらをない交ぜにした結果──快楽だけではない充足などの感覚を共有出来ているのだ、と言う事実が、土方にそれを拒ませない大きな一因になっている。……忌々しい程不本意な話なのだが。本当に。 (まあ……、嫌いな…訳じゃ、ねぇ……んだし) 故に胸中の呟きも歯切れが悪くなろうものだ。 浅ましい、とか、情けない、とか。色々と自分に言ってやりたいことはあるのだが、銀時が自分を抱く事で、例えば気持ちよくなれたり、例えば満足出来たり、例えばお互いに心を許しているのだろう確信を見出したり。…と言った諸々が叶うなら、それはそれで別に構わない、と思ってもいる。 ……不本意通り越して、ふやけきった呆れた話ではあると、客観的に思わないでもないが。 然し全く、慣れとは怖いもので、『やりかた』が解れば際限なく貪欲になっていく。こうした方が繋がり易いとか、こうした方が気持ちがイイとか。互いに特にそんな事を語り合った事なぞないが、銀時も無心に腰を振るだけではなく、土方の様子を探りながらより深い充足を『貪欲に』得ようとしている様だった。 慣れ、と同時に、それは正しく、開発、だとか、開拓、だとか──そう言った類の実用的な愉しみなのだろうとは、わざわざ言われずとも何となく、解る。 そうして拓かれて男の形ややり方に慣らされて、最中はそのことだけに専心も没頭も出来るのだが、終わって一晩明ければこの為体だ。 最初の頃に比べれば後日に引くものもそう多くはない。 ただ──生理的な現象故にか。朝こうして目覚めると、昨晩出し尽くした性欲をまた絞りだそうと言う様な腰の奥の重さが、疲れて気怠い身体を容赦なく襲う。 そこに持って来て、このどうしようもない気恥ずかしさや居慣れなさが、酷く気怠くて堪らない頭や身体を更に攪拌するのである。これこそが、直接的な痛みなどより余程堪えるものだった。 「…取り敢えず、風呂行くか…、」 手をついて布団を抜け出そうとした瞬間、ぞわ、と慣れた感覚が内側に走り、土方は赤面した。 「〜…ッ」 解ってはいるのだが、これも慣れない事の一つだ。憶束ない足取りで布団を這い出すが早いか、土方は小走りに風呂場へと逃げる様に飛び込んだ。下着を身につけてはいなかったのを幸いと見るや、白い着流しをむしり取る手もそこそこに取り敢えず浴室に座り込む。 「ん、ッ…」 否応なく息が漏れる。既に内股を伝っていたモノが、力を入れるのを拒む様にどろどろと気色の悪い感触で太股を撫で落ちていく。 慣れたくない感覚にぷるぷると腰が震えるが、なんとか落ち着いて括約筋にそっと力を込めていく。 「う、…」 ごぷ、と音がした。排泄行為に似た感覚に居た堪れなくなって目を強く閉じる。と、浴室の床にどろりと、昨夜の残滓が漸く溢れ落ちた。 一度目はゴムを装着していた様な気がしたが、二度目以降はよく憶えていない。……が、この結構な量を見る限り、想像は容易に過ぎた。 「……はぁ」 色んな意味で溜息をつき、着流しをゆっくり脱いで脱衣所へと放り出すと、排水溝のフィルタを取り外してから、火照った体を鎮める様に温度を低めにしたシャワーを頭から浴びる。 驚く程多い、と感じた銀時のものも、あっという間に水に流されていってしまう。ほんとうはちゃんと内側から掻き出した方が良いとは一応知っていたが、そこまでする度胸は未だに湧かない。 ちら、と見下ろした全身の至る所にも紅い吸い痕が残されていて、──幾ら目立たない箇所を狙ってはいても数で結局目立っている──それもまた土方に溜息をつかせる。 (嫌いな訳じゃ、ねぇ、んだし…) だから何でも赦せる、などとは流石に言わないが。免罪符の様に同じ言葉を諳んじると、土方はシャワーを止めて風呂場から出た。常備してあるタオルで身体と髪を拭いてから、先程脱いだ白い着流しを拡げてぐるりと見回し、昨夜は早い内に銀時は脱ぎ捨てていた筈だから、と汚れのない事を確認してからまた溜息をついて──、のろのろと袖を通して寝室に戻る。銀時はまだ寝ているらしく、布団山に動きはない。 それを何となく確認してから、座り込んだは良いが煙草が手元に見当たらない事に、また溜息。と舌打ち。 布団の中で相変わらず暢気そうに寝息を立てている銀時の姿を見て、人の気も知らずに、と思わず悪態が漏れる。実際言ったら「じゃあ俺が手伝ってやろうか」などと言って浴室までついてきかねない。それどころか、「ちゃんと全部出さねぇとな」なんて宣って指で…、 「──ッ」 リアルな想像に、ぞくりと肌の内側が疼いた。土方は赤くなった侭、 (何馬鹿な事考えてんだ…、) かぶりを振り、鴨居に掛けてある隊服から煙草を探そうと腰を浮かせ、その姿勢が── (「や…、も、……あッ…」) 昨夜の一場面とフラッシュバックした。こんな風に腰を浮かせられ、銀時に後ろから抉られた感触までもが一気に蘇る。 「ッ、〜……う、」 見る迄もなかった。ぞわぞわと背筋を辿る感触は、朝だからか酷く敏感に迅速に、土方のそこをダイレクトに刺激し過ぎていた。 (ヤりてェ盛りのガキでも無ェってのに……、) 収まるまでじっとしていればいいだけなのだが、直ぐそこには銀時がいる。 (…、シ、てぇ、かも……知れな…) そう思って仕舞ってから勢いよくかぶりを振る。昨晩あれだけ好き放題にされておいて、朝になってまたせがむなんて、浅ましいにも程がある。いやそもそもそんな状況恥ずかしくて憤死する。 (言えるかァァァ!そんなん言える訳ねーだろォォ?!) 思い出しただけで反応してしまう自身に溜息やら悪態やらなんやら色々と吐きながら、土方はちらりと銀時を振り返った。布団にほぼ頭まで潜り込んで寝息を立てる男が目を醒ます気配はない。 普段も、こう言った朝は先に起床する自分が起こしているのだから、今日に限って自主的に起きる、なんて事はそうないかもしれない。 (…〜って言うか、野郎にこんな事されるまでァ、こんな悩みなんざ特に…) 真選組の任務、土方にとっては兎に角仕事が第一で、性欲処理だの性への執着は二の次以下だった。恋愛と言うものに対してはどちらかと言えば淡泊な土方だが、普通の成人男性並に性欲ぐらいは持ち合わせている。ただ、多忙な日々ではそんな事をまじまじと考える暇も無いだけだ。夜にヌいてる暇があればその分睡眠を摂る。そう言う生活なのだから致し方ない。 だからこそ、昨晩散々にヤった後だと言うのに、早朝から盛……もとい、こんな事になっているのが信じられずに土方は頭を抱えて泣きたくなった。 (…ば、バレねぇ、よ、な…?) 我慢すればいいだけなのに、何故かその『我慢』が出来ない。三十代間近の男の、況してや精も根も尽き果てた筈の気怠すぎる朝だと言うのに。これは何という為体だろうか。 銀時と寝る様になって、不定期とは言え通常以上の性行為に耽る様になった事で、身体が思いの外に欲深になって来ていると言う事なのかも知れない。浅ましいことこの上ない話だ。 眠る銀時の方をもう一度だけ振り返ってから、土方は覚悟を決めた。潔いのは己の長所だと自負している。美徳かどうかはさておいて。 (すぐ、終われば…問題ねぇな) すぐ、と言うのも男のプライド的に問題がある気はしたが、自慰を余りゆっくり持て余す趣味はない。溜まればさっさと抜く。楽しむよりも、これは排泄行為の様なものだと割り切っている。 厠などに行く事も少し考えてはみたが、万事屋の生活圏内で銀時と『こう言う事』をする空間の外──居候のチャイナ娘や従業員の眼鏡も平然と出入りすると知れる場所で、そう言った行為をするのは憚られた。それを言えばこの寝室も含むだろうから、本当に、なんとなく、の程度ではあったが、意地の様なものである。 ひとつ息を吐いてから、土方は、ぺたりと腰を下ろした。立てた足の間に手を伸ばす。朝の白々とした陽光の中と思えばなんとなく見ていたくなくて、顔を横に逸らした侭、手探りで自らの性器に触れる。 「、」 早くも兆し始めているそれに、思わず呆れと自己嫌悪とで手が止まりそうになるが、はぁ、と深呼吸──と言うより溜息に近い──をして握り込む。 そう言えば銀時と付き合いを初めてからは自慰なぞに耽った事はとんと無かった気がする。そんな事を考えながら、銀時の手の動きを思い出しつつ辿々しく指で記憶を手繰ってみる。自分のいいようにした方が良いだろうと思っているのにも拘わらず、何故か頭に浮かぶのはそこで暢気な寝息を立てている男の手ややり方だった。 反射的に布団の中の銀時へと視線を向けて仕舞い、はみ出ている銀髪が目に留まった瞬間かっと土方の頭に血が上った。銀時の方を見ながら銀時の『やりかた』を思い出して自慰に耽るなど、まるでオカズにしている様ではないか。 沸き起こったのが羞恥心だったのか罪悪感だったのか興奮だったのか最早解らない。土方は顔を再び横に思い切り逸らした。顔の熱さよりも、握り込んだ手の中で己の性器がしっかりと反応している事こそが何よりも正直で、そして雄弁だった。 ちくしょう、と声無き声で悪態をついて、指で作った輪で幹を何度か扱いた。一番堪え難いのは、これだけ居た堪れない心地になりながらも、この行為を止めようとはしない己だったのかも知れない。 「っ、…」 ぞわ、と背筋で凝っていた感覚が脳に上がって弾けた。触れている所からちりちりとした感触が這い上がってたちまちに腰中に拡がる。 (声、出ねぇ…よう、に) 先が気持ちよいのは知っている。すぐイきそうになるのも知っている。だから出来るだけ先を刺激して早く終わらせようとするのだが、 「──ッん、ッ…」 ぐりぐりと親指で先端を刺激すれば、痛い程の刺激に腰が跳ねた。咄嗟に纏った着流しを噛んだ事で声は辛うじて漏らさなかったが、腰を中途半端に浮かせた侭、喉まで全身が弓なりに反った。 普段銀時は土方を追い詰める時しか先端を集中して弄る事はしない。長く愉しもうとしているからだろうか。 繋がっている時に弄られると、中から外から追い上げられて堪らなくなるぐらいなのだし、気持ちが良いのもそうされるのが弱い事も解っている。 繰り返す内、先走りがこぼれて手の間で濡れた音が混じり始めた。土方の背は仰け反った侭、凭り掛かった壁を滑って仕舞っており、まるで局部を突き出している様な格好だと一瞬思うのだが、手が止まらない。そんな事など気にならない程に、夢中になっていた。 (きもち、い…、) 「ん…、ふぅ、」 早くイきたいと言う目的に、寝ている男の横で自慰に耽る事に対する興奮も手伝って、土方は着流しを噛み締めた侭で先端をとにかく重点的に弄った。銀時のやりかたや手の感触を思い出して幹を逆の手で辿り、若い頃でもここまで夢中になった事があっただろうか、と何処かで考えながらも無心に手を動かし続ける。 ちら、と部屋の真ん中の布団を見れば、その下で眠っている銀時の事を意識せずにいられなくなり、後ろが物足りなくなって切ないのか気持ちよいのか解らなくなる。 「ーっ、ふ…、、」 性器を余さず弄くり回していると言うのに、後孔も掻き回して貰いたいと言う信じられない衝動が湧いて来る。伸ばした指で一瞬後孔に触れてはみるが、収縮しキツく閉じたそこをこじ開ける勇気までは湧かず、期待にヒクつく動きには気付かない振りをして続けるしかない。 「……、ん、ッ、」 後ろが物足りなくて切ない分、先端をぐりぐりと強く刺激して誤魔化す。そうする内に強すぎる快楽の波が全身を駆け巡り、土方は目を思い切り閉じた。銀時の手の動きや囁く声を必死で思い出しながら、下肢で蟠る感覚だけに集中する。 息が苦しくて、「は」と息継ぎをした拍子にくわえていた着流しが口からぽろりと落ちた。 腰の奥が疼いて性器が更に張り詰めるのに、もうじきイケる、と理解して、後は夢中になって一気に追い上げた。 「っあ、は…ッ、」 (くる、) 思った瞬間、それを調節して愉しむ様な余裕はなくなっていた。ぶるっ、と全身が大きく震えて、折り曲げた膝から下が宙を蹴って止まる。 「っ…ぁ、、ーッ!」 硬直した全身と同じくらい固くなっていたものから勢いよく精液が吐き出されるのを感じた。痙攣する様に腰を震わせながら土方はそれを全て出し切るまで扱き上げた。 抑えた掌をとろとろと滴る体液が熱くて、体内に蟠っていた欲や浅ましさと言ったいやらしい熱が全てそこから放散していく様だと思う。 「っはぁ、…は、ぁ……」 突っ張っていた全身がくたりと弛緩し、床に背が落ちた。壁を背にして座っていた筈が、いつの間にか寝転がっている状態になっていた様だ。 「は…、」 整わない呼吸を何度も繰り返しながら、太股で強く挟み込んでいた自分の手に気付き、おずおずと力を抜く。 「…………ぅ、」 朝の明るい光の中に晒される、手にある濡れた感触が今更の様に罪悪感や羞恥心を呼ぶ。吐き出すと冷静に醒めて仕舞う男の性が全力で後悔を促して来るのに、取り敢えずティッシュを、と土方が気怠い頭をころりと横に向けたその時。 「相変わらずイくの早えなぁ、お前」 布団の上に身を起こして、じっとこちらを見てにやにやと笑いを浮かべている銀時と、目が。合った。 「〜…な、ッ?!、なんッ」 土方の全身が急速に冷え、同時に急速に血が昇った。真っ赤になって、がば、と起き上がると身構える様に銀時の方を見る。 早いんじゃなくて早くイこうとしてやってたんだ、と思わず頭の中で抗議は出るものの、この状況でその反論は開き直りを通り越して間抜け過ぎる。と言うかそもそも論点が違う。 混乱の余り適切な反論も、言葉も──言い訳も出て来ない。 「いやぁ…土方くんもオナったりすんだ?まあそりゃするか。それにしても朝からイイもん見してもらったねぇこりゃ。──てか」 「って、てめ…ッ、いつから、」 「割と最初の方から?」 土方の抗議などどこ吹く風。銀時は「よ」とかけ声をあげると、穴があったら入りたい思いで一杯の土方の前に歩いて来た。膝を付いてにやりと笑う。 「ヤりたいんなら言やいいじゃねぇか。一人で見せつけてくれちゃってないでさ?」 「〜ッ!」 びく、と身構える土方の肩が掴まれ引き寄せられたかと思えば、ぐるりと布団の上に転がされ、その上に銀時は平然と馬乗りになってくる。 「ちょ、待…ッ、何考えてんだ、」 「いやホラ、こんだけ見せつけといてお預けってのは酷ェと思います。…アレ?作文?」 「見せつけてねぇし作文でもねぇ……〜じゃねーわ!だから、これは、その、」 真っ赤になって猶も言い募る土方に口接けを落として、銀時はにやりと口の両端を吊り上げた。にんまり。擬音にすればそんな感じで。 「だぁから。オメーも、まだ物足りねぇって事だろ?仕事って言われてたから銀さん昨日は慎ましくしてたしィ?」 「慎ましい野郎が何馬鹿言ってんだ、今日は午前中から会議が、」 「まだ六時だろ?時間あるし平気平気」 軽い調子で言うなり先程まで土方が自分で触れていた所に伸びて来る銀時の手。達したばかりで敏感になっているそこに触れた新たな刺激に、ぶる、と体が震えるのを感じながら、土方はどこか諦めに似た心地で目を閉じた。 絆されて、つくりかえられて、受け入れて、慣れて。身体ばかり浅ましくなって行く事には不満、と言うか不安や自己嫌悪、不本意さは確かに、ある、のだが。 (嫌いな訳じゃ…、ねぇ、か、ら) 乱れた生活は嫌いだし、朝の怠さや疲労、変えられた己の心身を思い知らされて憶える居慣れなさも嫌いだ。だが、気持ちの良い事は嫌いな訳じゃない。銀時に欲情した目や声を向けられるのも嫌い、ではないのだから──そう思えて仕舞う様になったのだから──仕方がない。 そう。困った事に、『嫌いではない』のだから。何とでも言え。惚れた弱味と言う奴かも知れない。 待ち望んだ刺激を甘んじて受け入れる様に、土方は笑い混じりに降って来た口接けに応えて、あとは銀時の好きな様にしてもらおうと、そう思った。 好きとはいわない。 。 |