誰も知らないひとつの叫びのために世界はある



 銀時が土方に『道連れ』を頼まれたのが、果たしていつの──何回前の事であったかは、もう憶えていない。

 ただ、その最初ははっきりと憶えている。
 数日前に土方に告げた一世一代の告白。それは土方の裡で、真選組の副長としての立場や使命との天秤に恐らくは掛けられた挙げ句、断って寄越された。両思い、通じ合うものがあるだろうと言う確信が実の所内心あった銀時としては大層複雑な断られ方だったのだが、土方が何故断る事を選んだのか、と言う理解はなんとなく出来てはいた。
 故にどこか「やっぱりな」と思う気持ちがあったのは事実である。ただ、そこから諦念を得る事はどうしても叶わなかった。
 実際に土方に思いを告げて、だから何か、と言う訳でもない。具体的に何をどう。恋人同士としてデートでもして、などと考えていた訳では無い。
 ただ。もしも寄り添う感情を何処かに内包した、所謂両思いなのだとしたら、自分の方から門を開いてみれば土方にも新しい途が何か見えて来るのではないか、と、僅かの期待はした。
 結局、銀時はその賭けに負けた。土方は個人として銀時を選ぶのではなく、真選組の副長である事を選び、己の感情を肚の底に呑み込んで仕舞った。
 そんな一件から暫くの間。どうしたもんだろう、と鬱々と悶々と過ごしていたある日の昼下がり、銀時は土方の名の書かれた手紙で突如ターミナルに呼び出された。
 訝しみながらも向かった先には土方が居た。なので、どう言う風の吹き回しなのだと問いてはみたが、土方自身は銀時を呼び出したその理由を良く思い出せない様でいた。どころか、己がターミナルへ来た理由も定かではないと言う。
 二人はその侭ターミナル占拠事件に巻き込まれた。
 そして、解決に奮闘した挙げ句、定められた通りに近藤が死んで。
 そこで土方は全てを思い出した。繰り返す中で運命を変える助けにならないものかと、なんとか銀時を巻き込む様に、空白の記憶を使って動いた。運命の岐路が増える様に。出目が変わる様にと、賽子を二つにする事を考えた。恐らくは藁にも縋る思いで。
 それでもその目論みは失敗に終わった。銀時の介入一つでは運命は全く変わりもしなかった。
 だが、それで諦める筈もなく、土方は、銀時に依頼をすると言った。
 「お前は、俺の事を好きだと言ったんだよな」そう前置いて。
 
 「……これは、依頼だ」
 
 どうか、道連れになってくれ、と。
 仮にも好いた相手に、己の想いを楯に取引や脅迫の様にそんな事を言われ、傷つかなかった訳でも憤慨しなかった訳でもない。
 だが、土方をそこから再び活かす方法を、今に至るまで銀時は見つける事が出来てはいない。
 叶わないならまた一人で戦うだけの話。銀時が居ようが居まいが、土方は拘わらず繰り返すのだから。一定の、運命を拒絶するだけの不毛の時間だけを、生きようとするのだから。
 「巻き込んで悪かったな」そう言って去ろうとする土方に、銀時は付き合うと宣言をした。万事屋として、依頼を請ける事を決めた。道連れとなる事を、選んだ。
 一度能動的に『巻き込まれ』戻る事を選んだからか、銀時の記憶の欠落は土方ほどではない。寧ろ殆どを憶えている。ただ、毎回パターンは不定で、起こる出来事も決まってはいない。今回の様に、犯人が生きており近藤の死因になる事もあるかと思えば、犯人はあっさり死んで仕舞い近藤の死因とは無関係に終わる事もある。その変化や変更は、銀時の僅かの行動の差異だけでは到底制御し得ないのだ。
 因って、知るのは飽く迄結果だけ。土方を庇った事もあれば、逆に斬りかかられた事もある。
 過程にどれだけの犠牲や痛みを孕もうが、銀時と土方が負傷ないし死ぬ事で、19:46と言う刻限に近藤の死を見届けなければ、この『繰り返し』は前提から覆る。故に、それだけが銀時の遵守せねばならないルールだった。
 一度面倒がって──と言うよりは自棄になって──初めから近藤にも土方にも沖田にも暴露してかかった時には、事件に介入するどころか危うく身動きの取れない牢に放り込まれる所だった。そうなれば近藤の死の刻限に土方が『やり直し』を選んだとしたら、牢の中の銀時のいる、近藤の死を通り越えた未来はその侭変わらず進むのかも知れないし、或いは銀時も『道連れ』の輪から外れて再び何事も無かったかの様に繰り返すだけなのかも知れない。試す機会があったとして、そんな可能性を試してみたいとは到底思えない。
 それが土方の望んだ『道連れ』となる事だった。銀時の選んだ覚悟だった。過分に赦されない可能性の出目を探って、賽子を遠慮がちに転がす。土方の望む出目が揃うまで、淡々と繰り返す。繰り返しの叶う目へと導く。
 ──だが、もう一つの可能性に気付いていない訳ではない。
 実の所、この五時間、土方をどうするも銀時の自由なのだと。
 ターミナル占拠事件に向かわぬ様に留め置いて、近藤の死も知らぬ侭に囲って、『やり直し』なぞ出来ない様にして仕舞う事も叶う。
 ……土方とて、それに気付いていない訳ではないだろう。
 やり直し、己の生きる理由を見出す為の、五時間。それが、銀時の気の向く所ひとつで終わるかも、始まるかも知れない事を。
 銀時の『手助け』を──介入を選んだのは、果たしてどちらを望んだ故なのか。
 縋る藁よりもか細い『道連れ』に銀時の存在を選ぶまでに、土方が何度『また』の失敗を繰り返したのか。何度近藤の死を見たのか。何度絶望したのか。何度目にこの手段に踏み切ったのか。銀時は、それを知らない。
 だが、一つはっきりと知れている事がある。恐らく土方は己でこの執念を手放しはしない。そんな事は出来る筈がないからだ。
 なれば、選ぶのは、銀時なのか。
 選んでも良いのか。
 だからこそ言う。お前から請けた依頼は『人助け』であると。それを『どう』助けるべきなのか。未だ掴み倦ねて。
 互いにその可能性に気付かぬフリをして、茶番の様な迂遠にまた身を浸す。
 
 五時間と四十分前。14:06に向けて、ゆるりと戻りはじめる、こわれた時計の蓋を閉じて。
 銀時は今回も五時間と四十分と言う歪な永遠の中、雑踏を歩く土方の姿を探し出す。
 





最近流行りのタイムリープネタ。変則ながらやりたかったんです一度くらい。結局ターミナルのトンデモシステムで片づけてすみませんでした。粗と言うか色々ご都合だらけですみませんでした。お読み下さりありがとうございます。
と言う訳で銀土のぎの字もない感じですみませんでした…。

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蛇足。
説明とかなんかそういうのどうしても苦手なんで、どうでも良い方はやっぱり黙って回れ右推奨。

英題(裏タイトル)通りこのループもいつか銀さんが疲れて破綻する筈。
謀については端から重視してないんで適当にしか書いてませんが、多分一橋さん系。トンデモだしいいかなと大分端折っt
……あ、一応『始点』に戻ってリトライを選ぶ為に費やす秒数だけ、戻って使える時間は減るので、五時間四十分からリトライ毎に少しづつ短くなってると言う事で。きっと最初はもっと長かったのでしょうということで。