だから愚かな恋はなつかしい



 あの時、手を離さなければ良かったのか。
 些細な事で生じたずれが段々と大きな歪みになって、小さなすれ違いや下らない喧嘩が摩耗させる、心の痛みに堪えきれないと諦めて仕舞ったのは誤りだったのか。
 結論を急いだのは多分お互いにだった。
 急いで、誤って──、そうして離れた手を。放した手を。悔いても、悔いても。
 時は決して逆しまには戻らないし、望んだところで、行く先にそれを悔やまぬ日々があるとも思えない。
 あの時手を放さなければ。離れなければ。諦めずに手を伸ばし掴んで引き留めておけば。
 そうしなかったからこそ訪れた、予定調和の明日を、きっといつまでも悔い続けずに済んだのだろうか。
 ──……否、恐らくは変わらない。起きた事は、どうした所で、起こった事だ。それが全てを変えて仕舞った現象であれば、手を取ったか放したかで結果なんて恐らく変わりはしない。然程には。
 ……否、これとて所詮はただの慰み言。
 全ては空言と繰り言。
 だから、終わらぬこの日々を、救いのない後悔を、これからも延々と繰り返すのだろうと銀時は自嘲する。
 
 見上げたカレンダーの虚しい数字の並びを見つめて、後悔の中に沈んだ、棘にも似た悔恨をただただ羨む。
 待つのは迂遠。望むのは永遠に程近い何か。保証がなく後悔もない、ひとつの心の行き着く先。