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与え能うる愛しき日々の / 4 げし、と音を立てて頭の上に踵が振り下ろされるのを、半ば諦めの心地で受け入れる。 諦めているとは言え、寝込みにそんな事をされたら痛いものは痛い。脳天を直撃した踵を何とか押し退けて上体を起こせば、踵の先には布団の上に気怠げに横たわっている土方の姿があった。 座った侭踵を、眠っている銀時の頭の上に叩き落とすとは、器用──と言うより足癖が悪すぎる。とは言え、銀時もその程度の反撃は覚悟しつつ床についたのだから、正に『諦めの』心地であった。 「……おはよう?」 頭のこぶをさすりつつもにこやかに声を掛ければ、ぎろりと音がしそうな勢いで睨み付けられた。もう一度踵を落としたい所なのかも知れないが、銀時が起き上がっていてはどんなに足を持ち上げた所で届くまい。 「煙草」 掠れて乾いた声が指の仕草と共に要求するのに、「へいへい」頷いて、銀時は脱衣所から寝室まで縺れ合いながら剥ぎ取った土方の着流しから煙草とライターとを探り出し、言われた通りに渡してやる。土方は酷く胡乱な表情の侭でそれを受け取り、無言で差し出される火を点けると大きく息を吐いた。 寝煙草、と思ったが、まあ灰が落ちない様に見ていれば問題無いだろう。 銀時の白い着流しを肩から羽織って前を軽く合わせただけの姿で、枕に肩を預けて横たわった土方は、酷く婀娜っぽい。裾からはみ出た足は、先頃銀時の脳天へ天誅をくれたものとは思えぬ程にしどけなく投げ出されていた。 セックスが終わって、熱が互いに冷めて、眠りから覚めれば大概いつもこうである。土方は己が女の役を担わされている事については最早何も言わなくなったし、寧ろ諦めじみて享受している節があるが、素面の時には矢張り思う所があるのだろうか。情事の最中に見せるどこか殊勝な態度は何処へやら、不機嫌な鬼へと変貌して仕舞う。 それは銀時が最中の勢いで土方の理性を散々に崩して、悪趣味な事にもそれを愉しんでいるから、と言うのが原因では多分にあるのだが──、実際そう問いたとしたら「じゃあもうすんな」と一刀両断されそうなので、敢えて土方の不機嫌な態度に物申した事はない。 まあ土方とて、銀時の行為や言動から己の被虐的な性癖に火を点けられているのだから、お互い様、と言った所なのだが。互いに敢えて野暮な事は言い合わないのが、恋人同士の円滑な関係を保つ為の秘訣である。 ぼりぼりと頭を掻いて、銀時はその辺りに放り棄ててあった自らの下着に足を通すと、立ち上がって居間へ通じる襖を開いた。窓から差し込む外の光源は未だ薄ら昏い。時計を見遣れば、まだ夜明け前の時刻だった。普段の銀時の起床時間には大分遠い。 「寒ィ」 「あ、悪ぃ」 未だ朝食を作るにも早いからいいかと思いながら、銀時は襖をぱたりと閉ざすと、土方の足下に布団を掛けてやった。目に毒な白い脚は視界から隠れたが、煙草が未だ残っている以上、気怠げにしているその全身を隠して仕舞う訳にも行くまい。万一火でも点いたらコトだ。 布団の上に何となく正座して仕舞う銀時の目の前で、土方は手を伸ばして灰皿を煙草でとんと叩いた。崩れる灰の量は多い。灰皿と口の往復ですら億劫なのかも知れないが、いちいちそんな気怠げな所作を見せられては、銀時の肚の底もじわりと疼いていけない。 誤魔化す様にぺろりと唇を湿らせれば、土方が銀時のその動きをじっと見咎めていた。そして何かに苛立った様に舌打ちをして、煙草を灰皿で乱暴に揉み消す。 「何」 一応問いてみれば、土方は気怠い重さを纏った腕で自らの髪をぐいと掻き上げ、それから「け」と吐き捨てた。あからさまに嫌悪を示す様に顔ごと目を逸らされれば、流石に銀時も顔を顰めずにいられない。 「ひーじーかーたー」 「ンだよ」 甘える様な声を出して躙り寄れば、逸らされた顔は存外にあっさりと戻って来る。然し顔面に『不機嫌です』と大書きされている様な表情は元には戻らない。 (嫌だった訳じゃねェよな。もう二度と御免だっつー事はコイツちゃんと言うしな…) 不機嫌の原因は昨晩のセックスなのは言うまでもないが、今までの経験上、銀時が迫って土方が心底に嫌だと思う事は、後からきちんと、嫌だと釘を刺される。具体例として思いつくのは、尿道に専用のバイブを挿れてみた事、など。である。 (ちょっとした出来心だったけど、あん時はスゲー泣かれたっけな…。んで後で踵どころか昇竜拳食らった) 新しい扉が開けやしないかと、ちょっとサディスティックな己の欲求に忠実になってみた結果だったのだが、地獄への扉が開かれそうになったのは寧ろ銀時の方であった。まあ報復はともかく、幾らドSとは言え、恋人に本気で怯えて泣かれるのは興奮する以上に少々堪えるものがあった。そんな辛口の思い出。 ともあれ。だ。そう言った抗議を言って来ないと言う事は、少なくとも『二度とするな』とは思っていないと言う事、だろう。多分。 眉間に寄った皺を宥める様に、銀時は土方の額にそっと口接けた。横たわった侭の土方は特に何も言ってはこない。少し神経質そうに片目を眇めたのみだ。 その侭何度か顔やその周囲に唇を落として行くが、土方は黙って銀時のそんな行動を受け入れている。両頬を捉えて唇同士を摺り合わせてみても、「ん」と小さく喉を鳴らして目蓋を閉じるのみ。 (…………え。珍しくね?不機嫌な時に、これって珍しくね??) 思いはするが、一度『そう言う』気分になって仕舞えば、ブレーキなぞ易々掛けられないのが男の性である。 良いのかな、と何処かで問いながら、銀時が深める口接けを、土方は大人しく唇を開いて享受した。互いに舌を差し出し合って、音を立てて吸いつく。 重たい動きで、土方の腕が銀時の背に回された。強請る様な愛撫の動きを緩慢にして来るのに、銀時は据え膳と言う言葉を呑み込んで、有り難く2ラウンド目を頂戴する事にした。 袖に、肩から落ちた着物を引っかけた侭、熱を孕み始めた土方の片足を割り開き、銀時は何時間か前まで散々に蹂躙していた後孔へと早々に指を這わせた。 「あ、」 期待の様なものに息を呑んで喉を震わせる、土方の明け透けな情欲の色にほくそ笑みながら、銀時はほんのりと腫れている後孔に指をつぷりと差し込んだ。流石に未だほぐれた侭で柔らかい括約筋を宥めながら押し広げて、二本の指を体内へくわえ込ませる。その内側は銀時の吐き出したものでどろりと濡れていた。 「ぃ、あ、ッ、あッ、ぁ!」 もう拡げる必要はないかな、と思い、指をぐぽぐぽと音を立てて抜き差ししてみれば、酷く卑猥な粘る水音を立てて指はすんなりと出入りして、内壁を擦り上げられる感触に土方は奔放に声を上げる。 「すっげ、中ぐちゃぐちゃ」 愉悦と興奮に上擦った声で嗤って言えば土方は、 「テメェが、っん、、中に出しやがるから、だろう、が」 と弱々しく抗議の声を漏らした。顔は顰めているものの、素直に快楽を享受する気はあるらしく、体内に差し込まれた銀時の指の動きに感じ入る様にしている。 「そりゃ、ここ、中に出して欲しそうにキュウキュウ吸い付いて来てたし?」 「っ、馬鹿、言うな、テメェに堪え性が無ェだけ、だろ」 あからさまな揶揄の言葉に土方の顔がかっと紅く染まる。ちらと見れば、今銀時の指を三本くわえたそこは、括約筋の収縮で慥かに吸い付いているとしか言えない状態である。土方自身もその感覚はあるのか、酷く羞恥を憶えたらしい。 「舐めて解したからかね。いつもより…なんつぅの?自然って言うか」 重ねて羞恥を煽る為だけにそう囁いてやれば、土方は真っ赤になった顔を泣きそうに歪めてそっぽを向いた。 (……あー。やっぱソレが尾引いてんのか) その解り易い反応から、好いた男に尻穴なぞを舐められた事が、土方の羞恥と理性とを酷く打ちのめしたのは慥かな様だと銀時は一つ得心した。故の不機嫌だったのだろうと察する。 しかも、きっと──恐らく、だが。それは『悪くなかった』のだろう。直接的な感覚か、背徳感か、羞恥心か。何を土方が感じたのかは知れないが、本来排泄の用途に使う孔を性器の様に扱われるばかりか、舐め回された事が土方を未だに困惑させている様だった。 (やめて欲しいけど、もっとして欲しいとか。恥ずかしいけど、気持ちがいいとか) 土方は己の性的な部分を晒け出す事を好まない。だから、良い、とも、悪い、とも、口には出せずにいる。そしてそれ故に身の置き所を益々に失って仕舞うのだろう。 そして残っているのは、ただひたすらに恥ずかしくて堪らないと言う羞恥心と、それを果物の皮でも剥く様に少しづつ剥がされ押し通されて行く事に対する、被虐的な愉悦であると言う訳だ。 (ああもう…、堪んねェわ) 舌なめずりをせんばかりの勢いで生唾を飲むと、銀時は土方の体内から指をずぽりと抜いた。 「っ、ひァ、!」 排泄感にも似た感覚に土方が戦くのを見ながら、言葉だけは穏やかに銀時は囁く。 「今日はお前休みだろ?折角だし、この侭一日中甘やかして可愛がっててやっから」 衝撃をやり過ごす様に肺を上下させて、土方は「抜かせ、馬鹿、」と呻いた。 「いやあ、だってこれから三日間……ああもう二日か?たっぷりあるんだしな。何ならずっとシた侭でも良いかなーとか思ってんだけど」 「……は?」 飽く迄穏やかに、そしてにこやかに続ける銀時に、土方は訳が解らないとでも言う様に瞬きを繰り返している。頭が上手い事働いていないのか、解りたくないだけなのか。まあどっちでも良いかと思いながら続ける。 「温泉の代わりって訳じゃねェけど、お泊まりバカンス的な?三日分食料も買い込んであるし、抜かりねェから大丈夫」 新八と神楽と定春、そしてお妙を温泉旅行に送り出してから、銀時がまず行ったのは、折角の土方との時間を何にも妨げられぬ様にする為の下準備だった。だから当然、夕飯時に土方に言った、起床時刻が遅かったと言うのは全くの嘘である。どうせ食事など摂る暇は無いだろうと、金曜の夕刻頃忙しくしている姿を遠目に見て、抜かりなく遅めの夕飯を準備していたと言う訳だ。 金曜に連れ帰って、土方の非番の土曜は一日中一緒にダラダラと過ごして、日曜は出勤を見送って、仕事から帰るのを出迎えて夕飯を突き合って。 三泊四日。そのプランを万事屋の家で、土方に対して実行する気満々の銀時の考えを漸く理解したのか、土方は流石に狼狽えた。 「い、いやそうじゃねェ、なんで、そうなってんだ、俺ァ日曜も月曜も仕事、」 「だーかーらァ、それは万事屋(うち)から通えば良いだろ?半日ぐらい仕事にお前を奪われんのは癪だけど、まーそれは仕方無ェし」 うん、と一人頷く仕草をしてから、銀時は、青天の霹靂と言った表情を浮かべている土方の顔を真っ向から覗き込んで、言う。 「…………三日も、家、誰も居ないんだぜ?正真正銘、二人っきり。さながら、副長サンの万事屋宅、三泊四日旅行」 だから、お泊まり会。そう続けてみせる銀時の顔を土方は暫し茫然と見上げていたが、家に一人きりだの、二人きりの時間だの、温泉旅行の代わりだの、と言う言葉にじわりと押され、抗議の言葉を探す様にぱくぱくと開いたり閉じたりしていた口をぐっと噤んだ。反論を諦念で呑み込む様に。 「…………………………馬鹿だろ、てめぇ」 「馬鹿でイイだろ?」 「…………」 効力も無い様な、否定でも肯定でもない悪態をこぼすと、土方はどこか諦めた風に息を吐き出した。宿泊券の件からしても、どう考えても己の方が分が悪いと、早々に白旗を選んだらしい。 ……それとも、或いは。 その理由の中に、満更でもない、と言う意味が含有されている事を、銀時は見抜いている。恐らくは正しい理解として。 「偶には思う存分、な」 それで良いだろうと答えを待たずに、いつの間にやら完勃ちしていた自らの性器で、予告もなしに銀時は土方の体内へと腰を押し込んだ。 「あ、、っァァ!」 滑る体内へと無遠慮に侵入すれば、唐突なその行動に、土方は焦点のまるであっていない瞳を宙に投げ、喘ぎ声をこぼしてぶるぶると全身を震わせた。涙と、開きっぱなしの口から唾液を伝わせている、その面相は日頃の凛々しさとは掛け離れていたが、実に本能的であった。 「一日くらい全部忘れて思う存分、可愛いとこ見せてみ?」 誰にも言わねぇから、と、ともすれば揶揄にしか聞こえない様な言葉を投げながら、銀時は土方の脱力した身体を胡座をかいた脚の上へと抱え上げた。深くなる結合にどちらともなく息を呑んで、間近の唇に口接けをする。 真選組の副長である事をひととき投げ出して、銀時に愉悦を与えて、快楽を貪る事に躊躇しながらもそれを望んでいる土方の、自身でも気付いていない欲求を満たしてやる事。それが銀時に酷い安息感をもたらす。独占欲とか征服欲とか、そう言った解り易いもの以上に顕著に。 「っあ、馬鹿、だ、本当、にッ、おまえ、ッん、」 強烈な快楽に翻弄されながら、土方は銀時の背に両足を絡めて、首には両手を回してしがみついた。繋がって体重の掛かっているのが結合部分だけになり、その深い交合と感触とに互いの背筋に甘い快楽が走る。 馬鹿だ、と繰り返しながらも、土方の声は苦笑めいた甘さを潜ませている。 「温泉と、お前が両立しねぇなら、温泉よりお前が良いからね、俺」 銀時が一緒に行けない事に少なからず落胆した新八と神楽には悪いが、これも賢しい大人なりの願望である。まあ、そもそも他人からの贈り物で皆してぞろぞろと出掛けて、贈り主は──ゴリラであれ土方であれ──仕事に忙しいと言うのも癪なものだ。 多分、また朝には踵が頭に降ってくるのだろうけど。発情期の犬か猿かと悪態を吐かれるんだろうけど。それでも今日は丸一日土方の事をこうして独占し続けて、明日も、明後日も、いつもよりは多くの時間を共に過ごす事が出来るのだからまあ良い。 ぎゅう、と土方の背を抱き寄せれば、頭に強くしがみつかれる。銀時は、ふ、と快楽と笑みと両方の乗った吐息を吐き出した。 「そうだ。温泉、とは行かねーけど…、後で一緒に風呂、入ろうな」 ちゃんと隅々まで洗ってやるからと銀時が囁いてやるのに、土方は「くふ、」と喘ぎながら喉を鳴らして背を震わせて笑う。 「せっまい風呂でか、よ」 「いいんじゃね?一日中、鬱陶しいくれェべたべたくっついてようぜ」 「っ、ふ、ぁッ、…、ばか、みてェ、だな、」 甘やかに言って腰を跳ねさせれば、土方は喉を反らして忍び笑った。悪態ではあったが、反論が無いのは是と言う事だろうと勝手に解釈して、銀時は土方の腰だけを抱え上げた侭で上体を屈めた。再び布団へと押し倒す様にのし掛かる。 土方の両の腕は銀時の後頭部から離れようとはしなかったから表情は見えなかったが、紅くなった耳元を食みながら言ってやる。 「お前も」 馬鹿だの何だのと言いつつ、銀時の仕向けた通りにされようとしているのは、それを厭がっていないと言う事だ。 確信を込めた揶揄に土方は頷きはしなかったが、代わりに手と足が更に力を込めて縋りついて来たから。まあいいかと思って、銀時は衝動と熱とに身を任せて動き始める事にした。 別に土方の意志が控えめな訳でも、恥ずかしさから身の置き所を失っている訳でもない。銀時に『好きに』される事を言い訳に望むだけの、ただの被虐に似た思考。そして嗜好。 だから、望む侭に与えてやろうと思った。望まれる侭に与えられてやろうと思った。 はい、ただのえろップルでしたとさ。以下一日と半分はもう省略。 さてどちらが与えられてるのでしょうか。 ← |