与え能うる愛しき日々の / 3



 風呂から上がった土方を、着物を着ようとするのもそこそこに手を引いて、寝室へと連れ込んだ。
 朝から敷きっぱなしの煎餅布団に両肩を押して座らせれば、まだ濡れている頭を、少し呆れ混じりに傾けられる。
 「……いきなりサカってんじゃねェよ」
 「結構にご無沙汰だったし、時間も時間だし、良いじゃねェの別に」
 下心が全てで『お泊まり』に誘った訳ではないが、まあ少なく見積もって五割程度の比重があるのは間違い無い。良い歳して、とは銀時とて自分で思うのだが、風呂上がりのこのタイミングでなければ味わえないものがあって、それをむざむざ逃す手も無い。
 「いーい匂い」
 肩口に顎を乗せ、項に鼻を押しつけてすんすんと犬の様に匂いを嗅げば、土方は大仰な溜息をつきながらも銀時がやり易い様に首を反らしてくれる。
 「テメェん家の石鹸の匂いだろが」
 「ああ、」
 鼻を綺麗な襟足の近くに押しつけながら首元の皮膚を唇で食めば、ぴく、と土方の身体が揺れた。
 「いつものお前の匂いも堪んねェくらい好きだけど、俺と同じ匂いがするって所に興奮すんだよ」
 口にする通りの欲を顕わに見せる意図で態と匂いを嗅ぎ廻る様に鼻息を荒くしながら、片手で土方の耳朶をやわやわと擽りつつ舌を這わせて鎖骨の窪みまでを舐め回す。舌先に触れるのはしっとりとした皮膚の味と、熱で匂い立つ様な石鹸の香り。これは風呂上がりの瞬間しか味わえないものだ。
 「変態くせぇな……。大体、いつもの匂いって何だよ?」
 「煙草とかー、汗とかー…、まあなんつうか、お前の匂いとしか言い様のないもの」
 問いに、くつくつと笑って答える。その吐息がこそばゆいのか、「物好きな奴」と二度目の悪態をつく土方の肌が僅かに粟立つのを、銀時は見逃さない。
 喉仏を舐め上げれば、土方はほんの少し身を固くしながら喉を仰向かせた。銀時の腕を掴んでいた手がするりと落ちて、傾く自らの上体を支える様に布団を掴む。
 「仕事してた副長さんも、もう俺の好きにして良いんだなーって言う感じっつうの?きっとさっきまで何でも無ェ面して部下を叱咤したりしてたんだろうなって思うと凄ェゾクゾクすんだよ。
 で、こうやって石鹸の匂い撒き散らしてんのも、俺のテリトリーのものになって、俺にマーキングされてくれてるみてェで、どっちも堪んねェ」
 仕事の気配を漂わせた侭の土方を自分の元へと引き込むのも、自分の元へと落ち着いた土方を堪能するのも、どちらも何とも言えない愉悦があると言う事である。にやにや笑いで然し真剣にそう告げる銀時に、土方は渋面をふいと横へ向けた。
 「……変態め」
 「変態で結構ですゥ」
 本気で言っていると言うよりは、恥ずかしくて居た堪れが無いと言った所だろうか。まあ犬の様に匂いを嗅がれて喜ぶ人間と言うのもそういるものでもない。土方は別段体臭になど気を遣う質ではないのだから余計か。反らされた首筋に口接けを落としながら、銀時は土方の両肩を押して、布団にその背を押しつけた。
 着物の袷を鼻で掻き分けて、石鹸とお湯とで濯がれて張りのある肌の上を、匂いを嗅ぐ様にして辿って行けば、土方はむずがる様な表情で目を瞑った。舌で唾液の跡を残しながら辿る途で息を吸えば、冷たいのか、時折身体がびくりと震える。
 また変態と罵られそうなので敢えて口にはしないが、綺麗になったばかりの身体を自分の匂いや気配で汚すと言うのも、堪らなく好きな事だったりする。
 「っ、ん」
 胸の頂の濃く色づいた部分をくるりと舐め回し、未だ控えめな乳首にふう、と唇を細くして息を吐きかけてやる。直接は触れない。周囲を唾液でべたべたにしながら息を弱く、強く、吹きかける度に土方の眉間には悩ましげな皺が寄せられた。
 焦らす意図しかない愛撫に、遂に堪えきれなくなった土方の腕が、ぐい、と銀時の後頭部を掴んだ。引き剥がしたいのか、押しつけたいのか。どちらにしても、稚い動作は銀時の満足感と征服欲を煽った。
 緩慢な刺激でぷくりと膨らんだ乳首は、普段の控えめな男の肉体から見れば、いっそ滑稽ですらあった。銀時が時間を掛けて、セックスの度に弄り回して快感を拾わせて作り替えた、実に解り易い証でもある。
「イ、!、っあ、」
 自らの調教の成果に満足げな笑いをこぼして、銀時は更なる刺激を待ち望む乳首を二本の指でぐり、と摘み上げてやった。紙縒を作る様にくりくりと指の腹で転がし、舌先でこじる様にして舐め回す。そうしながら上目で見上げれば、堪えきれず嬌声を上げる土方の眼差しは熱に揺らぎ始めていた。
 銀時の施す愛撫に顕著な反応を示す部位は愛おしく可愛らしい。もっと重点的に可愛がってやりたい所だが、余りやり過ぎると次の日服が擦れて痛いと殴られる羽目になる。
 また後でな、と唾液でじっとり濡らされた乳首にふっと吐息を掛けてやってから、銀時の指は土方のなだらかな腹筋の間を辿り、臍の回りでくるりと円を描いて戯れる。
 「んッ、よ、ろずや、ッ、」
 脇腹を摘んで擽れば、土方の身体が布団の上で大仰に跳ね上がる。擽られるのは苦手な土方は、抗議めいた声を上げてからおずおずと膝を立てた。そろそろ直接的に弄って欲しいのだろう、解り易いお強請りに、銀時の股間もじわりと重たくなる。
 脇腹を弄っていた手をするすると滑らせて、張りがあって弾力には乏しい太股を爪の先で辿りながら、立てられた内股に手を掛けた。女の様に豊満ではないが、机仕事が多い所為でか脂肪の少し乗った臀部が、布団の上にしどけなく開かれた脚の先に在る。
 枕を掴んで土方の腰の後ろに挟み入れると、電灯の作り出す陰影にも遮られずに秘所があからさまに晒される。
 「──っ」
 部屋の電気が皓々と点いた侭であった事に気付いた土方が、顔を羞恥の色に染める。併せて、肌の全体がほんのり色づいた様に見えて、その放熱が益々に体臭以上に石鹸の香りを立ち上らせた。
 銀時は態と土方の目に見える様に、淫靡な仕草で舌なめずりをしてみせると、閉じかかる膝裏をぐいと押し開いて土方の秘所を更に光の元に晒してやる。
 「な。ここもさ、やっぱ抱かれる前は念入りに洗ったりしてんの?」
 腹へと持ち上がった性器と、その下で密かに息づく後孔の方へと顔を近づけてそう態とらしいねっとりとした声で問えば、土方は苦しい体勢になるのも構わず両腕で自らの顔を覆った。
 「変態、臭ェこと、きく、な、馬鹿…!」
 羞恥にぶるぶると全身を薄ら桜色に染めて震えてはいるが、持ち上がって腹へと滴を零している土方の性器に萎える気配はない。その様は、土方にある被虐嗜好を実に如実に顕している。本人に指摘すれば違うと言い張るだろうが、土方はこうして銀時の目や口で自らの痴態を晒け出される事に性的な興奮を抱くきらいがあった。
 日頃清廉で居る人間や、身分の高い人間ほどそう言う無意識の願望を抱くものだとはよく言うが。土方の場合は銀時の手で自らを常日頃から覆っている、自尊心や強すぎる理性と言った殻をそっと剥がされ、ただの発情した肉体へと貶められる事に安息を得ているのかも知れない。そして銀時もまた、土方が己にしか赦さないだろう、そんな様を晒け出す暴力を赦してくれる事に、慥かな愉悦を憶えている。
 性器の付け根、重く張り詰めた陰嚢に鼻先を近づけて匂いを嗅いでみる。その息遣いや視線を感じて土方は大仰な程に身じろいだが、本気で逃れようとする様子はない。
 「やっぱしっかり洗ってんだな」
 石鹸の匂いと汗ばみ始めた体臭とが混じり、得も言われぬ臭気が銀時の鼻孔を擽った。必要以上に匂いを嗅ぐこの行為は、ただ土方の羞恥を煽りたいだけと言う所が大きかったのだが、想像以上に己の裡に沸き立つものを感じて、銀時は自らの唇を軽く湿らせた。
 「あ、ぁ…ッ、待っ──、」
 銀時の指が会陰をつう、と辿って、ぴたりと閉ざされた後孔の縁へと到達する。直接的な刺激に土方の身体は逃げを打つ様に揺れたが、枕から滑り落ちて仕舞う前に銀時はその腰を掴んで止める。
 「こっちは?」
 欲を孕んだ、揶揄にも似た響きの篭もった声に、土方は「ひ」と息を引きつらせた。銀時の指の腹が後孔の縁をくるりと辿り、ひたひたとその入り口──正しくは出口だが──を叩くのに、いやいやとかぶりを振る。
 「やめろ、よろずやぁッ…!頼むからやめ、」
 ぐ、と膝裏を掴んだ手に力が籠もり、銀時の鼻先が後孔に近付く。土方は酷い羞恥の余りか泣きそうに潤んだ声を上げて、やめてくれと必死で懇願してくる。内股に力を入れて脚を閉じようとしているが、間に銀時が居るからそれもならない。
 聞き入れてやろうか、押し通してやろうか。暫しそんな趣味の悪い思考を楽しみ土方を戦かせながら、銀時は後孔に触れさせた指をやわやわと、マッサージでもする様に動かした。
 「んー…、なんか湿ってるし、ふやけてんのか少しやらけーし……、やっぱココ、洗ってんだろ?」
 俺の為に。言いながら、ふ、と顔を近づけて息を吹きかけてやれば、悲鳴とも嬌声ともつかぬ声を上げて、土方の膝から先が宙を蹴った。
 「ほら、ちゃあんと石鹸の匂いするし」
 態とらしく鼻を鳴らすと顔を近付けて、銀時はぎゅっと閉じている窄まりをぺろりと一舐めした。緊張感で汗をかいているのか、舌先が触れたそこはほんのりと塩味がした。
 「ひ、」と声と呼吸とを同時に噤んだ土方の身体が哀れな程に震えて、続け様に膝が容赦なく銀時の身体にがつがつとぶつけられる。
 「っば、馬鹿、馬鹿、この…ッ、」
 へんたい、と罵る声が感情的に歪んで消えるのに、銀時は堪らない心地になってくつくつと笑い声を上げた。羞恥で今にも憤死しそうな癖に、本気で拒絶する様な真似も出来ないとは。それどころか、酷い辱めに土方が身体を熱く火照らせているのは明らかで。
 「お前ね、今更舐められるぐらい何だっての。今まで散々指なり銀さんの息子さんなりココでしゃぶりついてんじゃん」
 「そ、いう、問題じゃ、無ぇんだ、よッ、馬鹿、〜ッこの、しね馬鹿天パ…!」
 抗議する土方の声は、泣いているのか怒っているのか最早よく解らない。がつ、と膝に脇腹を叩かれて、銀時ははいはいとお座なりに答えながら、再び掴んだ両足を大きく開かせた。自らの右の人差し指と中指とを舐め上げ、湿った指の腹を後孔に当てる。
 「痛くても泣くなよー?舐められんのは嫌だって、お前が言ったんだからな?」
 意地悪げに口の端を歪めて嗤いながら、銀時は怯え顔の土方の、微細な震えを指先で愉しんでから指で後孔をぐいぐいと押した。揉みほぐす様に暫しの間縁の襞をなぞって、それから徐に孔に当てた指先に力を込める。
 「──ッ!」
 土方が息を呑んだ。ぐぬ、と音がしそうな括約筋の引き絞りを、銀時の中指が強引に押し広げていく。爪は立てない様にしながらただ力だけを込めれば、第一関節までが入り口を通り抜け、体内へと吸われる様に潜り込んで行く。
 ローションは押し入れに入っていた筈だが、取りに行く気は銀時にはさらさら無かった。土方の身体を傷つけたい訳ではないが、今は泣かせてみたい欲の方が勝っている。やがて土方が痛みに堪えかねて羞恥に震えながら、ちゃんと解して欲しいと懇願するだろう姿を夢想しながら、然しそんな願望はおくびにも出さずに、淡々と指で括約筋を拓こうとする。
 ひく、と土方の喉が鳴る。必死に力を抜こうとしているのか、肺が忙しなく上下して、涙を纏わせた目は硬く瞑られた侭でぶるぶると睫毛を震わせていた。
 そこは体内の出口であると同時に、普段は閉ざされている場所だ。括約筋がその力を何とか抜いた所で、その先の狭道はみちみちと固く襞を連ねて銀時の指の侵入を拒む。指を動かせば内臓が拡げられはするが、そうするには滑りが足りない。
 そうでなくとも、かれこれ一ヶ月以上は軽くセックスに及んではいないのだ。久々に無理を強いられて、土方には心底に苦しい事だろう。
 「ほら、力抜けって。指食い千切られちまうだろ」
 銀時の指の、丁度節のごつごつとした部分が括約筋で止まっている。無理に拡げられて薄ら赤くなったそこは酷く引き攣れる様な痛みを生んでいる筈だ。可哀想、と思うが、銀時は敢えて自分からは譲歩の色を見せず、土方が陥落するのをゆっくりと待つ事にした。
 「っよろずや、よろず、や、ぁッ…、」
 すすり泣く様な土方の声が耳に心地よい。がくがくと震える手指が銀時の腕を掴んで、抜く様にと促して来るのを無視して、「何?」声ばかりは優しくそう問いてやる。
 頼むから。痛い。もう抜いてくれ。辿々しくそんな言葉達を訴えて来る土方の手を取って嗤う、銀時の退く気のまるで感じられない表情から土方も段々と、銀時が『何』と言わせたいのかを悟り始めたらしい。痛みを堪える様な表情が恨みがましさを込めた抗議の色に染まり始める。
 「さい、ていだ、、てめぇ、」
 しゃくり上げながらの罵声に、銀時は逆にとろける様な笑顔を向けてやった。
 「この侭指で頑張る?それともいきなりブチ込んだ方が良い?」
 ぐり、と土方の内股に、着衣越しにも勃起している事の軽く知れる自らのモノを擦りつけながら銀時が囁くのに、土方はかぶりを振った。ぐ、と噛み締めた歯の隙間でかちかちと震える音がする。羞恥と屈辱との狭間で、然し葛藤の正体はそれでも快楽への期待を諦める事の出来ない己に向けられているに違いない。
 「……っ、ほ、ぐし、て…、くれ」
 ひとつ、何かを堪える様な息を呑んで、蚊の鳴く様な声の懇願が、震える歯の隙間からこぼれて来る。
 「指で?」
 今も猶括約筋で固く止められた、滑りも殆ど無くなった乾いた指を軽く動かしてやれば、引き攣れる様な感触と共に「ぃ、!」土方が短い悲鳴を上げた。指でこの侭どうこうすると言うのは無理だろうと言うあからさまなアピールに、土方の視線が恨みがましく銀時を睨んだ。
 「……っ、……っ、」
 一時の自らの羞恥と、身体を裂かれる苦痛と、何もされない空虚感とに、土方の躊躇いは最早無い筈だが、理性となけなしの自尊心とが、正直に願望を唱えるには、余りに強すぎた。
 然し見下ろせば、一本の指を苦しそうに食む孔の上では、萎える気配の無い性器が土方の臍の辺りに水溜まりを作っていた。土方の精神と肉体とは嫌がりながらも、羞恥や屈辱を感じながらも、そうされている事に興奮と愉悦とを憶えているのだ。
 「な……、、めて…、ほぐし、て」
 ぎゅ、と固く瞑られた瞳と裏腹に、わなわなと震える唇は綻んでそう口にした。ぴくん、と土方の腹の上で性器が震えて、痛い程に指をくわえた後孔はぎゅうと窄まる。羞恥と、それを棄てた解放感とに、土方の精神は何処かで悦楽を憶えたのだろう。全く、素直ではない癖に実に正直な身体だと、銀時は密かにほくそ笑む。
 「ん。最初から素直にそう言やイイのに」
 寸時、更に焦らそうかと考えたが、流石に意地が悪すぎるかとそれを振り払い、銀時はなけなしの自尊心を棄てた土方を労う様に、括約筋に固く捕まえられた指は抜かない侭、そこに顔を近付けた。
 「っひあ、ぁ、──ッや、あ!」
 指を一杯に食んで震えている孔の縁を、たっぷりと唾液を乗せた舌で舐めれば、痛みで敏感になったそこへの微弱な刺激に、土方の足先がびくりと宙を掻いた。内股が痙攣する様に震えるのを抑え込んで、銀時は唾液の滑りに任せて指をつぽりと抜いた。代わりに舌で孔の縁を舐め回す。
 「いッ、あ、あ!ぁ、!」
 生ぬるく、軟体動物の様な滑る動きを見せる舌先に、土方は短い切れ切れの悲鳴を上げて腰をのたうたせた。銀時は構わず、孔の縁を指で軽く左右に拡げると、ぢゅる、と態とらしい音を立ててそこに唇ごと吸い付いた。
 男であろうが女であろうが、尻の孔など頼まれたって舐めしゃぶりたいものでは無い。だが、羞恥に震えて身体を、後孔を綻ばせて噎び啼く土方の姿は酷く淫蕩で、銀時の征服欲を満たし、そそるものがあった。そうでなくとも、無理矢理に意地も羞恥も自尊心も投げさせて懇願させたのだ。ご褒美の様に思う存分に可愛がってやりたいと思うのが人情である。
 やはり風呂で多少は洗うのか、後孔を囲う皮膚は体臭以上に石鹸の匂いがした。土方が銀時に抱かれる事を思ってそこを少しでも綺麗にしようと洗浄している姿と言うのは、想像するに酷く倒錯的に感じられるものだった。
 「あ、ひィ…ッ、ん、あ、あ…」
 銀時の強要に自らの意地を棄てた、土方を労う様に、愛おしむのが伝わる様にと思いながら、銀時は熱心に舌での愛撫を続けた。そうする内に、拒絶の気配の強かった土方の声は緩やかに溶けて、脚もだらりと左右に力なく開き始める。
 土方の表情はもう悦楽に揺蕩い出しており、腹についた性器からも絶え間なく先走りの蜜がこぼれ落ちていた。土方自身も己の肉体の堕落を感じてはいる様だったが、その浅ましさやはしたなさの実感がこそが快楽になっているのだ。
 やがて銀時は、たっぷりと唾液で濡らした後孔から顔を起こすと、舌の代わりに再び指をゆるりとそこにくわえさせていった。舌と違って固い指だが、今度はちゃんと滑りがある所為か指は比較的容易く根本まで呑み込まれて行く。一杯に入った所で、指の根本は動かさない様に、内壁だけを関節の曲げ伸ばしでぐにぐにと拡げた。柔らかな内臓は何度かそれを繰り返す内に、段々と拡げられる事に馴染んで来る。頃合いを見て、括約筋をマッサージしてやりながら、二本目、三本目と指を使って行く。
 「は、ぁ、、っ、んん、ッ、ン、」
 土方の体内は少しづつ異物を受け入れる事を思いだして綻び始め、指の三本を目一杯にくわえ込んで、それに因る快楽を受け入れた。
 「っよろず、や、…ッ、も、もう…っ」
 腑をまさぐられる感覚は背徳的な悦楽を齎すらしい。濡れた音を立ててばらばらに蠢く指に翻弄される様に土方は身を捩り、その度に腹の上についた性器がふるりと震えていた。銀時とて正直もう早い所直接的な快楽を性器に得たいと言うのが本音だったが、折角とろけ始めた土方の理性を、折角だからもっと崩してみたいと思い、ずるずると抜きかけながら、陰嚢と性器の丁度裏辺りで指の関節をぐにゃりと曲げた。
 内臓が押し上げられるのと同時に指の腹に、こり、とした感触が伝わる。途端、
 「っひぁッ!あッ!あぁッ、あ!あーッ!!」
 抑えた手の下で土方の腰がびくりと跳ね上がり、仰け反った喉が明瞭ではない悲鳴を吐き散らす。膝から下ががくがくと無意味に宙を蹴り、力の入った括約筋が内部で蠢く銀時の指へとぎゅうと吸い付く。
 ぐりぐりと指先で何度もそこを押し上げると、目を白黒させ、がくがくと震える土方の腹の上に、性器から勢いよく精液が噴きこぼれ落ちた。
 「ッ、あ、あッ、あ、あ、ぁ…、」
 強すぎる快楽の余韻に、身体を水揚げされた魚の様に震わせている、土方の後孔から指をゆっくりと抜き去ると、銀時は脱力してびくびくと震えているその片足を肩に担ぎ上げた。自らの前を寛げ、ぐい、と下肢を密着させてから、いい加減我慢も限界に張り詰めた性器を片手で掴んで、充分にほぐれた孔へとそっと宛がう。
 「舌や指なんかじゃ、まだ満足出来てねェだろ?」
 舌なめずりをしながら言って、銀時は土方の応えを待たずに一気に腰を突き入れた。
 「──っあぁッ…!」
 土方の背骨が綺麗に弧を描いて仰け反る。焦点の合わない瞳が涙をぼろりとこぼし、嬌声を撒き散らす唇はわなわなと震えて。土方は全身で銀時の事を受け入れていた。
 潜り込み割り開く様な内臓が、酷く熱い。銀時は「は、」と悦楽の篭もった溜息を吐き零しながら、ゆるゆると腰を動かして土方の体内を蹂躙し始めた。
 達したばかりで敏感になっていた土方の身体はまるで電流を流されたかの様に微細に跳ねて震えて、無意味な悲鳴を撒き散らしながら、銀時へと己が全身で感じている快楽を伝えようとしている。
 「土方、」
 声を掛けながらも夢中で、銀時は次第に動きを早くして行く。深く、浅く、早く、奥の更に奥に押し込む様に腰をねじ入れて、土方の感じている快楽と己の感じている快楽とを一体化させて、ただ貪る。
 「きもち、い?」
 問えば、がくがくと頷きが返った。堪らなくなって、銀時は土方の身体を更に折り曲げて覆い被さり、その背を掻き抱いた。すれば土方の腕も銀時の背に必死で絡みついてくる。
 男女の行う本能での交わりではない。本能に反した、ただ悦楽と情愛だけを求める性行為は酷く歪だったが、互いに与えられ能えて充足し、そして求め合える心が無ければそれも叶わないものだ。だからこそ、この非生産的で無意味で浅ましい行為には、意味がある。
 短く喘ぎ声をこぼす土方の唇へと、酸素を奪う様に吸い付きながら、銀時は腕の中の男の身体と存在とに耽溺している己をまざまざと思い知って、快楽と同質の酷く満たされた心地を憶えた。
 「土方、ひじかた、」
 「よろずや、あ、も、ッ、もぅ、も、」
 口接けの合間に呼ぶ名が、その名である存在が、男であって、侍であって、己の手に届くものである事に心底安堵して。銀時は絶頂の訪れを拙く伝えようとする土方の腰をぐっと抱え上げた。変わった角度に前立腺を抉られて、銀時にしがみついた侭の土方の全身にぎゅうっと力が込もった。
 「も、いく、い、ぃ、あぁ──ッ!」
 銀時の背に絡んだ手と足とが、びくびくと痙攣する様に震える。引き絞られる様な力に抱え込まれて、深く送り込んだ腰を小刻みに震わせてた銀時もまた、全身の力をひととき込めて放出の快楽と支配の悦楽とに身を任せる。
 「は、ぁ、っ、あ、…、ひじか、た、」
 自らの性器が土方の体内に無遠慮に精液を撒き散らすのを感じながら、銀時は猶も腰をぐりぐりと動かして、最後の最後まで征服欲に似た快楽を貪った。
 その侭二人は暫くの間、荒い息をついてお互い重なり合った侭、動かなかった。





…アレ、EROだけで終わった。愛が下衆い。

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