愛する人よ(真実は)誓わずにいよう / 00



 「    」
 
 吐いた筈の呼吸が上手く出て行かず、喉がひゅう、と乾いた音を立てる。
 
 「         !」
 
 「  、」
 
 「  !」
 
 声が。悲鳴の様な、声たちが。頭の上で叫んでいる。
 よく聞こえない。でも解る。
 呼ぶ声に、大丈夫だと応えようとして笑えば、ぱくりと裂けた喉からまた一つ無駄に息が漏れた。
 もう心配は要らないのだから、大丈夫だ。
 少しでもそう伝えたくて、唇の端を無理矢理に持ち上げた。
 空を仰ぐ。
 落ちて来そうだ。
 何処までも覆い尽くす薄暗い雲の層。
 いつだって胸の底まで貫いて来た様な、鮮烈な色彩と同じ空模様。
 鈍の癖に切れ味だけは矢鱈に良い、刃にも似た耿り。
 お前の、色。
 届いたと思っていた。でも、実際には決して届く事の無かった、男の色彩。
 堪らなく欲しくなって、今からでも届きはしないものかと手を伸ばした。
 息が絶えても、これだけは望み続けていたい。
 お前に、お前達に、どうやっても届く事もなく引き千切られた、無惨な魂の残骸しか後には遺らなくても。
 生が跡絶えても、これだけは。
 紅く濡れたてのひらが、ぼやけた視界の中をのろのろと彷徨う。
 そこに届く事の出来るものは最早何も無かったけれど。触れるものは何ひとつ無かったけれど。少しでも近づきたくて、夢中で、手を。
 炎と煙との向こう。分厚い雲が重たく圧し掛かる、濁った空一面は雨を湛えた重たい曇天。
 
 「……    」
 
 それは、とても綺麗な、銀色だった。







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