Mellow / -



 おまえは、どうしたい。
 
 投げかけた問いは、酷く残酷な決断を迫るものだった。選択を委ねておきながら、選び取れる答えの少なさは解りきっていた。
 だからこの問いは問いと言うよりは確認を取る為だけのものに近い。決断を促すものと言っても良い。
 意味の無い優しさの果てには何も無い。何もかもが無い。彼はそれを知っていた。だから彼はただそれを拒絶しようとした。
 それは単なる現実逃避や子供の癇性めいた仕草を以て表され、それだけ彼には躊躇の猶予も選択の自由も無いのだと示してもいた。
 それでも。
 それが必要だった。
 それは、能動的な受容であれ消極的な諦めであれども、この決断を肯定するには必要な『答え』であって、紛れもない『選択』となるものであったから。
 
 卑怯──否、卑劣な、ものだと思う。
 その是非を問う事、優しげで慕わしげな顔を形作る事、憐れまず寄り添う事、共犯者のふりをして欺く事。
 ……その責を負うと、誓う事。
 
 怒りにか悲しみにかそれとも絶望にか、彼の表情筋がぐしゃりと歪められた。
 その悲壮さを愛おしいと思う。その悲哀ごと抱きしめてやりたいと思う。
 どれ程詛いの言葉を吐かれようが、どれ程憎まれようが、この想いは褪せず消えもしない。
 即ちその恋の果てへと至る為に、今一度、残酷な決断を迫った。
 
 「おまえは、どっちが良い?」
 
 震える首は頷かない。左右に振られもしない。
 然し確信していた。
 その決断が是であっても否であっても──、
 

 この想いは満たされるのだろうと。







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