貫 / 6



 最初は、人を殺める事、血を見る事に興奮しているのだろうと、そう思っていた。
 木刀や竹刀での鍛錬では感じたことのない、それは確かな手応えと高揚感だった。だからこそ土方は当初それを畏れたし、自己嫌悪も抱いた。
 事情はどうあれ、命を奪う行為に快楽を見出すなど、人道にもとる畜生の所行だと、そう思った。淡々と摘み取る沖田の『殺し方』の方がまだましだと、そう感じた。
 故にこれは『仕事』だと己に課した。一人ではなく一体を粛々とただ葬る。それだけの作業だと。
 真選組として『仕事』で攘夷浪士を多く屍にする様になって、その度に沸き起こる愉悦や興奮の中に、然しどうしても飼い慣らせそうもないものがあると気付きはしたのだが、知らぬふりをして眼を背け続けた。
 
 だが、ある時それは大きな誤りであったと気付く時が来た。来て仕舞った。
 それは見廻組との大がかりな悶着の最中の事だった。土方は不利な戦況にて活路を見出す為にと佐々木の撃った銃弾を、己の身の致命にはならない部位へと敢えて受けた。
 ──その瞬間は、熱しか感じなかった。
 だがその熱は違う意味を伴って土方に奇妙な感覚をもたらした。それを実感したのは、戦いが終わって病院へと担ぎ込まれた後の事だった。
 皮膚を、肉を、貫いて、骨を掠めて、肉を、皮膚を、貫いて、通り抜けた。
 その感触を。
 感覚を。
 灼熱の通り抜けた瞬間の激痛よりも、ぽかりと己の身に穿たれたひとつの空白を。
 それから土方はずっと忘れる事が出来ず、夜毎に夢に見た。最初は慣れない銃弾の傷に怖じけづいて仕舞ったのだろうと己を情けなく感じこそしたが、やがてそれは違うのだと、理解した。
 
 理解と共に土方は、己の作って来た屍たちに、刺殺が多い事を思い出していた。
 
 それはまるで必然の様な発露であったと思う。
 ただ一度自覚して仕舞えば後は容易い。孔を穿つ度、他者を貫き仕留める度、我が身にそれを重ね見ては背を恍惚に粟立たせた。異常だと思っても、止まらなかった。
 あの感覚をまた得たいと言う衝動の促す侭に、己の身に孔が欲しくて堪らなくなった。
 千枚通しの空けた穴を、惜しいと思った。
 もっと深く、貫く程に刺されば良かったとさえ思った。
 
 *
 
 刃が敵の肉を裂いて、進んで、抜ける。手に伝わるその感触に、その度背筋が震えた。
 これが我が身に欲しいと言う願望は、生死の空隙に生じた、恐らくは何かの思い違えの様な酷い欠陥だとは、解っている。
 それでも衝動の侭に勝手に身体が動く。殺す行為以上に『それ』が欲しくて、無意識にそう選ぶ。
 鉛弾が己の肉に孔を穿った時もきっとこの感触がしていた。それをこの身でよく感じられなかったと言うのが酷く残念でならなかった。
 そんな己の性情、或いは性癖の様なものは、多分胸に仕舞われておくべきなのだろうとは理解していた。明らかな、他者には決して理解されざる異常であり、批難されて然るべき質のものだろうと解っていた。
 だから、誰にも気取られない様にして来たつもりだし、これからもそうして行くつもりだったと言うのに。
 どうして、この男に──よりによってこの男に、勘付かれて仕舞ったのか。
 「なァ」
 俯く土方に視線を合わせる様にして、下方から覗き込みながら銀時はわらう。犬歯を覗かせて獰猛に、嘲る様にして口を三日月型に歪めながら。
 「切れ味の悪ィ刃が、ごりごりィッって、骨を削りながら、肉を穿って、神経や血管を千切って、皮膚を貫いて行く感触が、好きなんだろ?」
 「、」
 あからさまに連ねられる銀時の揶揄に、土方は咄嗟に頭に血を上らせはするのだが、否定の悲鳴は出て行かない。戦慄く唇は何と言い訳も出来ずに震えて、ぐっと引き結ばれる。
 血溜まりの直中に立ち尽くす真選組の副長は、己の立場や地位と言ったもの以上に、己でも理解して恥ずべきだと思っている性情を明け透けに形にして来る、からかう様な言葉の鈍い切れ味の刃を前に、人間として当たり前の羞恥心や自尊心をどう護れば良いのかすら解らなかった。
 明らかに異常。明らかな異常。日頃社会的規範を遵守する立場にあればこそ、その欠陥は土方の精神を酷く苛んだ。
 そして銀時は土方が己の『何』を傷つけられ暴かれて行く様に怯えているのか、為す術なく震えているのか、解っていて的確にそこを、酷く無造作に踏みにじって来る。それをこそ自らの悦楽にするかの様に。
 「手前ェの体をそうやって貫いて貰って、もっとじィ…っくりと、味わってみてェんだろ?」
 悦に入った様にしてせせら笑う様な声で言うと、銀時はぐいと掌で土方の両頬を掴んだ。無理矢理視線を合わせる様に顔を持ち上げたかと思えば、その人差し指が耳殻に押し当てられる。
 「変態」
 恐らくはそう言ったのだと思う。だが口の動きを前に声はよく聞こえなかった。
 「な、に、を…、──っ!」
 からからに乾いた喉が呻いた瞬間、銀時の指が土方の耳の穴へと突き込まれた。ぐり、とねじ込む様な動きに、土方は上がりかけた悲鳴を必死で噛み殺す。
 爪の固い感触と、ぞり、と鼓膜の近くで立つ不快な音とに、膚がぞわぞわと粟立って震える。
 「別に大した事じゃねェよ?人殺しそのものを快楽にしちまう奴がいるのと同じ。その工程の何処かに悦楽の芽があったっておかしな事じゃねェさ。そういう奴はいつでもどこでも、偶ぁに居る。別に人殺しや暴力的な行為じゃなくったって居る。普通ってやつと少しだけずれた所に、スイッチがあるだけのこった」
 訳知り顔でそう淀みなく言う銀時の言葉は、耳に突き入れられた指に遮られて土方の耳にはよく届かない。届かないと、思いたかった。
 「お前も、俺も、」
 「ち、げェ…!っから、離せ…!」
 頭を振って、耳への指の蹂躙を何とか振り払った土方は、この侭ではまずいと混乱する頭の片隅で必死に考えた。銀時の様子は先程までのからかう調子のそれとはもう既に異なっている。それで何がどうまずいのかは解らないが、とにかく、この侭ここに居てはいけない様な、そんな本能的な忌避感が沸き起こる。
 「っが、?!」
 だが、そんな土方の行動を嘲笑うかの様に、背中をどんと壁に向かって突き飛ばされたかと思えば、突如木刀が口蓋へと突き入れられた。更には口を閉じられない様にか、下顎を手で鷲掴みにされる。
 木刀が、その血腥い尖端が、土方の舌の上にある。銀時が少しでも手を滑らせでもしたら、力を込めたりでもしたら、この刀の形をした凶器は間違いなく、土方の喉まで貫いて仕舞うだろう。
 恐怖と恐慌とに全身を硬直させた土方へと、木刀を手にした銀時は謳う様に言う。
 「なァ、人体って一本の管だって知ってるよな?やーらかいお口の粘膜から、消化管を通って、絡み合った蚯蚓みてェになった複雑で長ぁい腸を通って、ケツの穴に繋がってるだけの、管だって」
 言う言葉をまるで実践でもしようとする様に、木刀が舌を押し喉へと向かって少しだけ進むのが解って、嘔吐きそうになった土方は固定された侭の頭を、拒絶の意を込めて必死に左右に揺らした。
 然し元よりそんな事をするつもりは無かったのか、銀時はそうやって土方の事を脅かしただけの様で、木刀を少し引くと下顎からそっと手を離した。
 もう口を閉じるも木刀に悪足掻きで噛み付く事も出来たが、土方の口は戦慄くだけで抵抗の一切を行う事も出来ずに居た。
 銀時の指摘と、この今までに見た事も無い様な態度が、怖かったのだろうと思う。
 「どこか余所の国じゃ、大昔の串刺しってよォ、ここから、真っ直ぐ口まで一本の槍で貫いたんだと」
 「!」
 ここから、と言いながら銀時の掌は土方の臀部を掴み、指で括約筋をこじ開けそうな程に強く、着衣越しだと言うのにそうと解る程に押した。
 「当たり前の話だけど、固ァい槍なんてただの棒だからね、棒。腸なんて突き刺さっては抜けて省略して、破りながら胃に刺さって、そんで喉から先っちょが出て来た時には、ぐちゃぐちゃにされた内臓が口から出てるって、まぁひっでェ有り様なんだと」
 臀部に押し当てられた銀時の指が、神経質な括約筋の防衛を容易くこじ拡げて、渦動状に絡んだ小腸の壁を貫いて、喉までせり上がって来る様な──有り得もしないそんな想像に、土方の体は然し無様に震えた。震える歯列が木刀にかちかちとぶつかって音を立てる。
 「ただ、それだけで即死って訳じゃねェから、失血死やショック死するには時間がかかる事もあるんだろうなァって」
 そう続けると、銀時は土方の口から唾液に濡れた木刀をゆっくりと抜いた。遠ざかった無粋な得物の気配に、土方は口を閉じようとするのだが、ずっと強張っていた顎はがくがくと震えて上手く動かせない。
 そんな土方の頬をやんわりと捕まえて、銀時は眼を細めてわらう。矢張り、柔和に。凄惨な話を紡いでいた時と同じ様に、優しささえ漂わせて。
 「なぁ。どんな気分だと思う?てめぇの孔から孔まで綺麗に一本の、固い棒で貫かれんのって。そりゃ痛ェだろうし死んじまうだろうけど、掘り拡げて、通り抜けて、穿っていって、貫通して行くまでの感覚、想像してみ?」
 「っ!?」
 言葉と同時に、銀時の掌が土方の下肢に無造作に触れた。そこで始めて土方は、己の下肢が兆して仕舞って居る事に気付いて仕舞った。膝をがくがくと震わせ、かぶりを振る。
 凄惨な話を聞かされて、然し確かに興奮を得たのだと言う己の信じ難い性癖に、反応に、身の置き所が無い。
 己が、攘夷浪士の体を刀の一突きで貫きながら、骨に触れぬ様然し腑を貫く致命傷を的確に与えるその時。
 手にした刃から確かに伝わる、骨を紙一枚の誤差で僅かに掠る感触、腑を突き破って皮膚を貫いて、通り抜けたと言う感触を確かに得て興奮を憶えていた事実。
 己の身が一発の鉛玉によってそうされた時に、走り抜けていたのは間違い様のない、恍惚。
 隠し通して、誰にも悟られては堪るかと思っていた悪癖。
 指摘されたとして、上手くやり過ごす事ぐらい出来ると思っていた、恥ずべき己の性情。
 他者を貫いて、その感覚で己も貫かれたいと、貫かれていると重ね合わせて興奮を憶えていた、異常に過ぎる性癖。
 千枚通しの空けた穴を、空けた感触を、浅い、と惜しんだ。
 竹輪のまるく歪な孔を、鋭く尖った串が貫いてこちらを向いているのに鼓動が跳ねた。
 顔のすぐ横を貫いていった木刀に、貫かれたと錯覚して膚を粟立てた。
 孔を、貫いて通るものに酷い興奮を憶える。貫かれている孔が己だと想像する事に、酷い恍惚を抱く。
 それが、土方十四郎の異常な性癖。隠して通そうとしていた、異常な願望。
 ずっと秘め続けてきたそれを、果物の皮でも剥く様にして容易く暴いて仕舞った男は、然し酷く優しくわらって土方に言う。
 「ほら、貫いて欲しいんだろ?てめぇのハラワタ。狭い孔をごりごり響かせながら抉られてみてェんだろ?
 今更隠す事ァ無ぇさ。腐れ縁してる長い間で、何度かお前の『殺し方』見てりゃ、そんな事ぐらい直ぐに解る」
 その優しい表情が、理解や共感である事が解って仕舞った気がした。言葉は酷く獰猛だと言うのに、兆した下肢をやんわりとした仕草で撫で回す仕草もまた妙に優しく感じられて──実際はきっとそんな事は無いのだろうけど──、土方は唇を痛い程に噛んで、情けない様な羞恥で居た堪れ無い様な感情に苛まれながら俯いた。
 いっそまだ、いつもの様に小馬鹿にするか、本気で厭うかのどちらかの反応をされる方がましだったに違いない。後者だったらもう関わろうとはしないだろうし、前者だったら図星を隠して怒った振りをすれば良いだけだった。
 然し与えられたのは、理解、共感、納得、達観、許容と言った肯定的なものばかり。
 「竹輪と竹串如きに興奮して、木刀でヤられたって思っちまうぐらい、俺に、貫かれてみてェんだろ?」
 「………」
 恥ずべき性癖の暴露と、それを目の前の男に知られたと言う恥辱。更には、それを理解した上で、赦そうと言う、甘美な囁き。
 「、」
 俯いた侭の喉元に二の腕を押しつけられて、土方は無理矢理に顎を上向かせられる。詰まる息に目を瞠れば、柔和にわらう男の顔がすぐそこにあった。
 「んぐっ」
 「こう言うのは、とっとと認めちまう方が楽になれんだって」
 言葉と同時に口蓋に指が三本押し込まれた。舌を掴まれて弄ばれる苦しさに、頭を捩って逃がれようとする土方の事を嘲笑うかの様に、ぐいと下肢が密着する。壁と銀時との間にぴったりと押さえ込まれて、その逃げ場の無さと息苦しさとが相俟って、思考能力が半端に宙に浮く。
 「手前ェだけで認めてる状態だと、ただの自己完結した趣味嗜好。変態であろうがなかろうが、単なる自慰でお仕舞いだ。
 でも、誰かに言われてより自覚を深めたら、それは受容。手前ェ自身にその趣味嗜好を恥じらう必要が無くなる。つまり、楽になれるってこった」
 三本の指が動き回る口蓋は開かれっぱなしで、だらりとだらしなく唾液を滴らせていて不快だ。喉も押さえられているからより息苦しさが増して行く。新鮮な酸素を求めて鼻を鳴らしたら、何だか酷く甘えた様な情けのない音が出て、土方は泣きたくなった。
 「……強情なのか、聞いてねェだけなのかよく解んねェなァ」
 思わず閉じた瞼の向こうで、苦笑と溜息の気配。続け様、「まァいいか」と投げ遣りな言葉と共に喉を押さえていた腕が離れて行く。
 そうしてその腕が次に向かったのは、土方の臀部だった。衣服や下着越しでもそうとはっきり解るぐらいに、指が孔を探って動いている。
 「ん、ぅう、う、」
 先頃囁かれた、凄惨な串刺しの話が反射的に脳裏を過ぎって、恐怖や拒絶と言った感情の赦す侭に、土方は塞がれた喉の奥で無様な呻き声を漏らした。懇願でもする様に目の前の銀髪頭の顔を必死に見る。
 「──、!」
 応えは、更にぴたりと押しつけられた下肢だった。土方のそれ同様に、銀時のそれも昂ぶって、そこに在る。
 「こんな、血腥ェ、小汚ェ路地裏で、お互いおっ勃ててこの様ってなァ、酷ェ話だと思わねェ?」
 「………」
 はは、と湿った息で笑いかけられる。土方が自由にならない頭の、目をそれでも何とか動かして辺りを見ると、路地裏は土方の貫き拵えた死体と、銀時が貫き倒した死体寸前の様なものが転がり、夜の作り出した不明瞭な闇の中に酷い腐臭を撒き散らしていた。
 麻痺した思考がぐらぐらと揺れる。これが現実なのか、それともただの悪い夢なのかさえも定かでなくなり、血も肉も呪いの様な言葉も滴る欲も鼻をつく死臭も、全てが輪郭を曖昧に崩れさせて融けていく。
 茫然と、酸欠や異常な光景を言い訳に思考を放棄した土方から、無言の肯定を勝手に受け取ったのか、肩が掴まれてぐるりと身体が反転させられて壁を向かされた。上着の裾を捲られてベルトを弛められ、下着ごと着衣が落とされる。
 「──っ!」
 幾ら夜だろうが視界の暗い路地裏だろうが、外で下肢を剥き出しにされると言うとんでもない状況に、土方は反射的に僅かに残っていた理性を働かせようとする。だがそのささやかな抵抗──或いは正常かも知れなかった世界へ戻る最後の機会──は、唾液で濡れそぼった指で後孔の淵をまさぐられると言う、更にとんでもない行動に因って遮られて仕舞った。
 「ってめ、ぇ……ッ!」
 振り向こうとすれば、側頭部を強く押されて壁に頬が押しつけられる。腕も曲がって壁についているから身動きが取れない。臀部を親指の腹で引っ張られて、濡れた剥き出しの後孔が生ぬるい夜風に撫でられひやりと怖気が走った。
 最早どんなに現実逃避をしようが、銀時の一連の動作が性的な意味合いを持ったものである事は明らかで、その訳の解らなさに土方の精神は激しく混乱を来した。犬猿の仲で、つい何分か前まで隣合わせて仕舞った席で益体もない事を喋りながら酒を飲んでいた、その光景から今の状況に全く結びがつかない。
 「俺に、貫かれてみてェんだろ?」
 「──……」
 再びの言葉は、土方の耳へと直接、酷い熱と共に吹き込まれた。言葉はぞわりと粟立った土方の背筋を貫いて、腹の裏を辿って、臀部、後孔に触れた指へと。
 「……ぁ…、」
 貫いて、通った。
 
 その瞬間に、背骨を優しく奏でて抜けたのは、恐らくは恍惚と呼ばれるものだったのだと思う。
 鼻から抜ける様な吐息を漏らした土方は、自分がその時どんな表情をして仕舞っていたのかなど解らなかったが、銀時がそっと忍び笑う気配が返ったので、きっと、肯定或いは受容に類する質のものだったのだろう。
 手が鋭い刃を繰り、骨を削りながら、肉を穿って、神経や血管を千切って、皮膚を貫いて行く。あの恍惚感を。
 小さな内臓の出口に優しく当てられた指が、その狭い孔をこじ開けながら内臓を擦り上げて、体内へ犯し入って貫いて行く、その想像上の悦楽を。
 ごく、と土方は喉を鳴らした。
 恥ずべき、秘すべき筈の誤った性癖が、他者に受容される悦びを。楽になれると言う言葉の意味を、思い知った気がした。
 孔を今にもこじ拡げようとしている指の感触。熱。きっとそれは人体の摂理に背いて、それこそ銀時の言った大昔の串刺しの様に、無理矢理に土方の身体を貫く。貫いて通るのだろう。
 甘美な想像を前に、現実感や倫理観、立場や役職や身分と言ったあらゆる、生きる上で夾雑な、本能を妨げるものたちが呆気なく崩れて行く。
 きっとこれは、指の腹に空いた小さな穴とは違って、ずっと己を穿ち、或いは痛めつけるやも知れない孔や瑕疵になり得る。
 だが、それでも。
 「……俺に、貫かれてみてェだろ?」
 「………」
 重ねられる囁きに、抱えて、恥じて、秘して来たものが、喉から明確な形になって吐き出されそうになって。嘔吐きそうな感覚と共に、土方は必死にそれを堪えながら、小さく頷いた。
 孔を、穿って欲しい。
 貫いて欲しい。
 抜けた銃弾や通らなかった千枚通しや誰かを貫いた刃の様に。この身を。
 「………」
 応える様に、銀時も土方の臀部に腰を再び押しつけて己の明け透けな状態を晒した。口端を僅かに吊り上げ笑うと、土方の後孔へと当てた指に、一息に力を込めて、
 
 
 ──貫いた。





…引っ張った末に本番無しとか銀さんも読んだ人もキレるやつだこれ。

貫通願望のある土方さんと、暴き立てるのが好きなドS銀さん。

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