肢で伝いし 掌に触れた温度に、無意識の侭で指を折り畳む。だが、捕まえようとした指先からその温度はするりと解けて離れて行って仕舞う。 惜しくなって目を薄らと開けば、再び掌の上に温かな温度が戻って来て、まるで手相でも辿る様に指の腹が掌の上でくるりと踊る。 もう一度掌を、今度は少し強く折り畳むと、狭間に捕らえられた指がぴくりと揺れた。引いて行こうとするのを更に力を込めて留める。 「……何してんの」 「ん、」 眠気に重たい目蓋が閉じかかるのを堪えて問えば、捕らえた指の主もまた眠たげな吐息で答える。掌中に捉えられた指は暫くの間抜けだそうとでもする様に緩く藻掻いていたが、やがて諦めた様にその指を折った。 「何してんだって」 くたりと力の抜けた指先を引っ張れば、出会った指同士が甘く絡む。 仰向けに横たわっていた頭を転がして、隣に座して居る土方の顔を見上げてみれば、彼はどこかぼやりとした眼差しで、引かれる腕と、捕らえられた自らの指とを見下ろしていた。 「何。もっかいする?」 問いながら、絡めた手指は解かず銀時は上体を起こした。座して向かい合う形になるが、土方は相変わらずどこか寝惚けた様に煙った眼差しを、絡み合った指同士へと向けている。 互いに鍛えられた男の掌同士だ。指は節っぽくて固いし、摺り合わせた掌の間で剣胼胝が擦れ合う感触など特別気持ちの良いものでも無いのだろうに。 「土方ー?」 顔を覗き込むと、伏し目がちの眼差しが銀時の姿をひととき捉えて、それからゆっくりとかぶりが振られる。 掴む手の中で指が抗う様に動くのを強く押さえて、銀時は土方の肩を引いた。ころりと容易く布団の上に転がされながらも、土方の瞳は猶も互いの手指の狭間を見つめて離れない。 横伏した土方の隣に銀時が座すと言う、先頃までとは逆の体勢になる。それでも一点をひたりと見つめた侭動かない土方の注意を惹きたくて、銀時は絡まった掌同士を軽く揺すった。 「なぁ。何見てんの。つかお前寝惚けてる?」 「寝惚けてねェ」 「そこははっきりしてんのな。…で、何してんの」 溜息混じりの問いに、土方は「いや、」と小さく答えてから、絡まって離れない掌を自らの顔の方へと寄せて、指の狭間へと唇をそっと寄せた。物憂げな吐息が触れた唇から吐き出されて、ふわりと一時温かな温度を伝えて来る。 「…………てめェの手は、嫌いじゃねェ」 だから。 ──……………………良かった。 「………」 形にならぬか細い吐息だけで紡がれた言葉に、銀時は密かに目を眇めた。 そして、答える代わりに、柔く絡み合った指先にそっと力を込めた。握り潰さぬ様に怯える心を隠して。 この侭、掌同士がぴたりとくっついて仕舞えば良いのに。 そんな事を、固い指の節や剣胼胝の浮く掌を思いながら、身勝手にも願った。 『触れた』てのひらが、余りに温かくて、幸せだったから。 。 ↑ : → |