雨待ち人の鉢 / 3 (そうだな。最初の印象は……最悪だった) 唐突に飲み屋で出会った男がぽつりと投げて寄越した、とんでもない爆弾を前に、土方は未だ平静ではいられていなかった。 「俺さぁ……お前に惚れちまってるみてェなんだけど」 そんな風に、何でもない事の様に繋げられた言葉に、思わず「は?」の一音すら失った。 だが、長い様な短い様な沈黙の後、煩悶する様な表情を作った銀時が「やっぱ今のは、」と、恐らくはそれを否定すべく何かを言いかけたのを見るや否や、土方は思わずその続きを封じる様に首肯していた。 「解った」とだけ、短く。 「…………え?」 銀髪頭がことりと傾き、次の瞬間には卓に身を乗り出して来た。その勢いで倒れかかる徳利を思わず掴んで止めれば、思いの外近い位置に相手の顔があり、少し驚く。 「い、いやあの。一度は言っちまった事後悔しといて何なんだけどよ…、ソレ、肯定か否定か、はっきりさせて貰ってもイイデスカ?」 そう、勢い込んで迫る銀時の顔に思わず、酔いや冗談の成分は無いだろうかと探り見てから、土方は嘆息して銀髪頭を「近い」と押し退けた。 自分と同じでほろ酔いの気分には未だある様だが、八割方醒めたと言った所か。醒めた原因が土方の『頷き』にあるのだとしたら、男は元より余り酔っていなかったのかも知れない。気分で酔っぱらっていただけで。 (……はっきりしてェ、って事ァ……、少なくとも冗句で済ませる気は無いらしいな) 思って呻く。土方が応えさえしなければ、恐らくは銀時の方から「今のは冗談」とでも切り出したに違い無い。そう思えば、何故千載一遇の好奇──冗談、で良かった唯一にして最後の機会を逃してまで、それを止めて仕舞ったのか。 失敗だったとは思わない。 だが、タイミングだった、とも思えない。 実の所、迷うだけの、悩むだけの理由は土方にもあった。 銀時にこんな爆弾を投げられるより以前から、土方にもそれなりの『自覚』はあったからだ。 得体の知れない銀髪頭を、指す時には気付けば『侍』と表していた。巫山戯た土産物の木刀とか、我流らしき剣術の荒々しさとは無関係に、坂田銀時の魂は紛れもなく、土方が憧れ胸に抱いた『侍』の有り様そのものだった。 町で遭遇して下らない言い合いをする度、ツレの眼鏡やチャイナ娘には「子供の喧嘩」の様だと評され、近藤や沖田には呆れる様な諦める様な表情をどこか微笑ましく(一部忌々しく)向けられる、そんな日々。 憧れは瞬時に悔しさに変わり、遠く届かぬものではなく、近くて慕わしいものになった。 そうして、気付いた時には、肩肘を張らずに、ただ馬鹿な事を言い合える相手になっていた。埒もない罵詈雑言は挨拶ほどに軽く、その都度苛立ちを持ち帰りながらも寸時前の悩みを忘れる程には心地よく。 実も無く意味も無く、計算も無く、打算も無く、腹の探り合いも無い。 あったとしたら、それは殺意だけだ。 坂田銀時さえ居なければ、奴の、攘夷戦争に関わっていただろう過去など気にせずに、自然と手を伸ばせていた。 坂田銀時が居るから、奴の、攘夷戦争に関わっていただろう過去を気にして、指先ひとつ動かせない。 前提のおかしい、矛盾した思考が弾き出すのは、忌々しいと心底思う本心。 坂田銀時と言う男そのものにではない。心底思わずにいられない程に、惹かれて落ちた土方自身の本心。 斬れば答えは得られるのだろうと、そんな理解をして仕舞ったからこそ、土方はそこからただ目を逸らす事を選んだ。 斬って殺すのも、取り戻しもつかない程に落とされるのも、どちらも御免だ。そう言えるだけの理性ぐらいはある。 偶さか遭遇した飲み屋で、平然と相席する男を射殺さんばかりの思いで睨めど、銀時は土方の悪態も気にする風情無く、ぽつぽつとどうでも良い話を投げてきた。 そんな相手に無視を決め込む程子供ではないのだから、と苛立ちを呑み込んで、どうでも良い世間話に応じる事にすれば、その時間は存外悪いものでもなかった。気付けば漏れそうな殺意を忘れて笑いかけそうになり、店に新たな客が入ってくる事で我に返る。 流石に刀に手は掛けなかったが、どれだけ酔ったところで即座に抜刀出来る自信はある。目の前で卓を挟んで、TVのお天気お姉さんの話などをしている銀髪頭を叩き斬るのに必要な秒数など、瞬きひとつに満たないだろう。 嘗て負かされた相手に、今でも勝てる気のしない筈の相手に、おかしなものだとは思う。 だが、銀時がここで、仮令土方に刃を向けられたとして。立て掛けた木刀で難なく土方を打ち払い、喉元に鈍いその切っ先を突きつけると言う姿が何故か描けない。 恐らく──しないからだろう、と言う得心が胸に落ちた時には、自分もしないからなのだ、と。唾棄したくなる様な可能性に気付いていた。 斬らなければ、答えは得られないだろうに。 「……あの、ナマゴロシにした上、物騒な目ェしねーで欲しいんですけど」 「あ?」と意識をふと戻せば、先程の、卓に半分身を乗り出したその侭の姿勢で凝固している銀時の姿が目の前にある。 (ああ、はっきりするとかしねーとか、そういう、) 場面だったか、と、思い出した土方は眉を寄せた侭周囲の席をそれとなく伺ってみる。が、酔客だらけの店内で、奥詰まった座敷のひとつをわざわざ気にしている様な物数奇もいなかったらしい。誰の注目も関心も集めていない事に一応安心し、土方は態とらしい咳払いをすると何となく居住まいを正した。銀時にも、顎でしゃくる様な仕草を向け、席に戻れと促す。 「…で?」 渋々と座り直しながら、そう短く投げて来る男からは最早、先程冗談めかして否定しかけた様なしおらしさは欠片も残っていない。まるで焦れている様だ、と思えば、可笑しさと同時に怖さに似たものが過ぎる。 何故この男は、こんな時に、こんな場所で、こんな事で、こんなに必死なのだろう。 (しかも、俺らはどっちかってェと犬猿の仲で、俺がアイツに…、俺を負かしたアイツに執着なり恨みなり何なり抱くものがあったとして、その逆ってのは……) 考えもしなかった。銀髪の、年中死んだ魚の様な眼をした男の心の裡になど、少したりとも触れてみようなどとは思わなかった。そこに自分が住んでいる可能性など、考えもしなかった。しかも曰く「惚れている」などと言う。 ほんの少しだけ入れて貰えた彼の男の世界に、自分が何かの意味を持って存在しているなどと。誰が想像出来ただろうか。 ふと突きつけられた苦い思いを噛んで、煙草に逃げたくなるのを堪える。 (……斬りてェ、って答えるのは……何か違うだろ) 思って前髪を苛々と掻き上げる。全く『鬼』の副長とは良く言ってくれたものだ。自分がここまで他者を省みる事の出来ない人間だとは思いもしなかった。 他人に触れる事と触れられる事と言うのは、こんなにももどかしいものだっただろうか。 心に触れたいと思う事は、こんなにも面倒臭くて忌々しいものだっただろうか。 「なぁ…、」 焦れて堪えられなくなったのか、それとも呆れたのか。不意に差し挟まれた銀時の声に、不覚にも一瞬肩が震える。 惚れている、と言われた。 大凡、こんなのはお前が惚れる様なモンじゃねーだろ、と言いたくなる様な男に。 羨望や反射的な嫌悪などの感情の手助けが少なからずあったのかも知れないが、一度は焦がれた憶えのある男に。 相容れはしないだろうと。感情ごと握り潰して、斬り捨てたいとさえ思った男に。 「、っ?!」 深い黙考に沈み、ぐ、と膝上で握りしめていた拳の上に掌が突然触れてきた。思わず顔を起こせば、卓の下をこっそりと通って来た手が、土方の手を包む様に収まっていた。 余りに土方が周囲を見回していたからか、お前は周囲に知れるのが厭なんじゃないかと。そんな事を言いたげな、どこか憮然とした表情に、振り解く動作を忘れ、逆に呆気に取られた。 指が存外長く器用そうな手だなと、そんな事をぼんやりと考えて仕舞うのは果たして現実逃避なのか。 「もし冗談だとか酔った勢いだとか思われてたらアレだから……その。もっぺん言うな」 膝の上で硬直した侭の拳を覆ってきている銀時の手指の、先まで。ぐ、と込められる力と熱とを見下ろした土方は寸時、自分は選択を誤っただろうかと躊躇い、いや、と直ぐに打ち消した。この期に及んで諦めが悪いのはどっちだと、自身を詰りながらゆっくりと視線を持ち上げる。 「惚れちまってるっていうかぶっちゃけ好きです。付き合ってクダサイ」 「…………んで中学生ぽくなんだよいきなり…」 途端に真顔でそんな事を言われ、土方は背筋の脱力と共に卓に額をごつりと落とした。だが、その卓の下で、視線は離れたが手は離れない。寧ろ更に力が込められた気さえする。 (必死過ぎんだろ、このヘタレ天パが…) 反射的にそんな悪態をつくが、思えば自分とて似た様なものかと気付いて仕舞えば益々顔を上げられなくなる。 銀時の方が必死そうであれど、土方の内に秘めた感情に奴は気付いていないのだから別に開き直って良いのではないかと己の冷静な部分が囁きかけてはきているのだが、駆け引きや戦術ならまだしも、こう言った私的な感情の遣り取りで上手い事相手を誤魔化せる気がしない。戦いならば些細な事象でも己の利になると思えば容赦なく用いる『鬼』らしからぬ姿だと、呆れ半分失望半分に大きく息をついた。 「……何で俺なんだよ」 在り来たりの問いだとは思うが、どうしても訊いてみずにはいられなかった。 だってどう考えてみても解らない。銀時には銀時の護る世界があって、そこには彼の『家族』らが居て。細かい事情は知らないが、万年金欠で犯罪者予備軍の様な法ギリギリの仕事をしつつも、いつでも彼らは明るく楽しそうにしていて、遠目にそれを見る事しか出来ない土方からすれば、その姿は幸福の肖像の様に見えた。 仮に。自分が銀時と同じ状況に置かれたらどうか、と考える。考えて、結論は三秒で出た。 (決まってる。俺が真選組以外のもんを欲しがって、その所為で組を考える『副長』である事が疎かになるなんざ、) 言語道断だった。 銀時ならば、手前の護るもの以外の世界に誰かを求めた所で、そのどちらもが疎かになる事など無いのだろうか。 そうして手を伸ばしてみた相手が、自分の巣以外から出れない様なものであっても? 元攘夷志士の身を、状況が変われば簡単に斬り捨てられる様な鬼であっても? 「俺ぁ男だし、真選組以外にゃ心も砕けねぇ。てめーに何の得も益も与えてやれねーし、いつてめーに剣向けるかも解らねぇ。てめーがそんな必死な面して追い掛ける様なもんじゃねぇだろ、こんなの」 そう、投げ遣りに口にして仕舞えば、あっさりと胸中に得心が落ちた。 ただ自分からは、焦がれ、慕情としか言い様の無いものを抱いた心を棄てる事が出来ないだけなのだ。だから、お前の方から諦めてはくれないだろうかと、浅はかで手前勝手な思いを投げつけている。 (クソ、叩き斬ってやりてぇ) 自分の思いをか、それとも、気付けばこんなにも手前の裡を占めていた銀髪頭をか。 それとも、これだけ膿んで仕舞う前に傷口を切り落とせなかった、傷口に気付きもしなかった自分自身をかも知れない。 「その辺ツッコまれっと正直困り果てんだけど。何で、って言われてもなぁ……」 俯いた土方の耳に、ばりばりと男が己の後頭部を掻いているのだろう音が聞こえる。それから「うーん」と呻く様な声。なんだか態とらしい気さえするそれに、膝上の拳がまた少し強張るが、上に重ねられた手の動く気配はない。 「…………お前がお前だったから、……かねぇ」 少しの間の後、頬を掻きながらそう、ぽつりと答えを寄越した男を、土方は少し持ち上げた顔で思い切り睨んだ。 「言うに事欠いて、最近流行りのどうとでも取れそうな玉虫色の答えかコラ。続編作れたら作ろうみてェな曖昧なエンディング並にタチ悪ィぞ」 「あー、アレ確かにタチ悪ぃよな。てめーらで解釈したのが正解なんですよ、みたいな………って、お前にしちゃそういう茶化すっぽいのって珍しい返し方じゃね?」 「茶化してねーわ、大マジだよ」 吐き捨てる様な土方の物言いに、ひょっとしたら茶化したら乗ってくれたのかもしれない、銀時の目があらぬ方角を泳いでから戻ってくる。逃げ道を作ってくれた心算かと本気で思った訳ではないが、苛立ち紛れに煙草が欲しくなる。だが、煙草を吸う為には膝上の手に触れている、男の手を除けなければならなくて。 その程度の事にも躊躇いを憶える自分が心底厭になり、土方は結局動く事の出来そうにない手前の様に大きく舌打ちをした。 「つーかさ。お前は俺に一体何て言って欲しいんだよ?」 とんとん、とノックする様に、土方の拳の上で銀時の人差し指が跳ねた。逆の手では卓に頬杖をついて、憮然としているとも困っているとも取れる様な顔がじっとこちらを見る。 「それ俺に訊く事か?質問してんなァこっちだろーが」 「何て答えてやりゃお前のお気に召すのか、俺にゃ解んねーんだから仕方ねーだろ。大マジなら尚更だ」 開き直った様な銀時の言い種に、土方は再び露骨な舌打ちを返す。茶化されるのは御免だと言っているにも拘わらず、要求する答えに添う様な言葉を用意してやるとは何事だ。否、何様だ。益々以て解らなくなる。 「……………俺は。てめェの本心が何処にあんのか、それを訊きてェだけだ」 だが、そう返しながらも土方の胸の奥には僅かな罪悪感めいたものがある。何と言う答えを貰えれば納得出来るのかなど、自分が一番知りたい。そもそも、納得出来る答えなど用意されていないのではないだろうか。 「ここに」 とん。と。頬杖をついていた銀時の手指が、土方の胸を不意に指した。肌に触れてはいないが、寸前で止められた指が、まるで気付かぬ内に差し向けられた凶器の様な錯覚を寸時憶え、背筋をぞわりとした怖気が這い上る。 「お前の事が好きだ」 揶揄も衒いも躊躇いも韜晦も無い、真剣の立ち会いの様な一撃に、怖気と共に上って来たその感覚を何と表すれば良いのか。 「…、っ」 それこそ切り伏せられた様に、土方は息を思わず呑んだ。眼前の男の、死んだ魚の様だとよく言われる目は、今は酷く真摯な色をしてそこに居る。 「お前が『何で』かって訊くのに、俺ァ正しい答えは持ってねぇ。だからお前の意に添う様な言い方は出来ねぇ。嘘だけは付きたかねーからな」 まるで、銀時の答えを採点し駄目だと断じようとしていたのだと、土方の卑怯な心理を見抜いた様な言葉に、強く握り締めた拳が後悔や罪悪感を包んで強張る。だが、そこに置かれた手はやはり変わらずにいる。 宥められている様だ、と思った時、土方は先頃背筋を駆け抜けて脳髄を叩いた、その感覚の正体に思い当たった。 「何つーか。…俺はお前に惚れちまった。それだけは本当だからよ」 そんだけ信じてくれりゃ良いから。と続けると、銀時は収まり悪くそこかしこに跳ねている自らの銀髪を軽く掻きながら、毛を逆立てた野良猫に向けて笑いかける様な表情を浮かべた。柔らかく置かれた手が、強張っている土方の拳を撫でて、その指を開かせていく。 (安堵と、歓喜……、だ) 節々まで強張った指をなぞって、包み込む様な優しい仕草が、土方の心の奥深くにある何かを溶かしていく。 多分。多分この男は、そんな事にはこれっぽっちも気付いていないのだろうけど。 自分で諦める事の出来ない感情を、男の側に諦めさせようと考えていた怯懦な心を掬い取って、男は未だ其処に居てくれた。 きっと互いは噛み合わなくて、手前の主張はどちらも曲げなくて、ちょっとした事で言い合いになって、情を交わしたところで無意味な、何も変わらない様な今までの時間がきっと続いて、その中でほんの少しだけ、坂田銀時の世界に踏み入る事を許されて。 (きっと、テメェの護るもんが──テメェを護って、テメェに護られている奴らごと、俺は羨ましかったんだろう) 銀時の言う『自分の武士道』が、最初に焦がれて、堪らなく欲しくなったものだった。その信念も、力も、手に入れられなかったからこそ羨んだ。なまじ似た気性の癖に決定的に違っている魂にこそ憧れたと言うのに、それすら認めず逃げ回った。 (やっぱり、叩き斬りたくならァ) 不承不承掘り出した己の本心にこそ悪態をついて、土方は少し後ろめたさの残る曖昧な笑みを浮かべた。士道不覚語は切腹、と言う自分自身の声が聞こえた様な気がして、情けない様な満たされそうで足りない様な心地で口を開く。 「試す様な事言って悪かった」 「……アァ、…うん。俺もなんか今になって恥ずかしくなって来たんですけど。お前の顔見らんねーんですけど」 土方の、滅多にない真正直な謝罪に気を削がれたのか、銀時は頬を掻きながら目を泳がせた。口元は笑っている様に歪んではいたが、居たたまれ無さの色が濃い気もして思わず苦笑が漏れる。 見下ろせば、密やかに触れているだけの手の温度に出会う。微妙な位置にある筈なのに、ただ手と手が触れている、それ以上の意味のまるでない行為。 ああ。なんて下らないことが、何でこんなにも。 「……子供かてめーは」 く、と喉で一つ笑って、己の左手に重ねられた相手の右手を、穏やかな笑いが熄む前にそっと握り返した。 折れる事が叶うのはここまでだ。気付いて良い所は疾うに通り過ぎて仕舞ったけれど。 忌々しい、斬り捨てたい、そんな感情や、真選組の不利益になりはすまいかと言う汚い打算を、全部己の裡に仕舞い込んで、この手を取ってみたいのだと、思った。 思って仕舞った、のだと気付かされれば、酷い罪悪感の様なものが胸に満ちる。 だから『思った』。多分、これが最初で最後の、真選組以外に向けられる我侭。 この男が──一度は焦がれた男が、自分をただ見ている、そんな心地良さに触れてみたいと思った。 握り返す事が出来た指五本分。利き腕ではない左手ひとつ。 「てめーの言った事だ。ちゃんと責任は取って貰うぞ」 く、と銀時の小指に自らの人差し指を絡め、繋ぐ様に軽く折り曲げる。指切りとは到底懸け離れたそんな土方の動きに、銀時が恐る恐る疑問符を浮かべた。 「な、ナニコレ?何すんの?」 「警察式の拷問でな、こう指を一本ずつ手の甲に付けて行くって言う」 「お巡りさんごめんなさい、手が偶然当たっただけなんです」 卓の下を通って手を繋ぐと言う器用で妙な自分達の体勢を思って、土方が笑いながら物騒な冗談を返せば、まるで痴漢の言い訳の様な悲鳴が返って来る。 わざと、捉えた銀時の指一本の根本に力を込めながら、土方は笑った。 「てめーが俺に夢中なのは良く解った。……落ちてやるから、落としてみろよ」 大凡甘さなどとは掛け離れたそれが、始まりになった。 。 /2← : → /4 |