誰も知らないひとつの叫びのために世界はある / 12 そもそも、山崎が入国管理局に転職…もとい、潜入したのは、件の連続天人襲撃事件に因る。 それはここ最近江戸で頻発している、天人の商売、催し物、重鎮、大使館、一般人。とにかく標的を『天人』に類するものとして無差別に起こされた(主に)爆破テロの総称である。 明確な犯人像も浮かばぬ捜査の進捗も、対テロとして存在する真選組の立場も、天人に阿る幕府の外交も。正直宜しくはない事ばかりしか現状には無く、徒に時間経過と地道な調査が続けられていた。 土方はそんな捜査の日々の中、幾つかの情報から一つの可能性を見出す。 それは、外務省──入国管理局が、犯人たる何者かに内部情報をリークしているのではないか、と言うものだった。 実際、事件の中には内部の人間でしか知り得ない様な、何星の何某のプライベートな行動スケジュールを追う形で犯行が起きたケースが幾つか存在した。とは言え、これに関して入国管理局に直接その是非を問い質す訳にも行かない。内部情報なぞ無関係の無差別標的のケースも起きているのだ。推測は根拠にも証拠にも足りない以上、単なる言いがかりにしかならない。 相手は警察とは畑違いの組織。外事はどちらかと言わずとも真選組ではなく見廻組の持ち回りだ。組織間の連携が円滑とは行かない現状、互いに捜査協力なぞ見込める筈もなく、捜査協力を求めるに値する程の確信や証拠がある訳でもない。 そこで、山崎の潜入プランである。 入国管理局に、電子機器などの備品を納品している外部の業者に入り込んだ山崎は、日々『営業』と称して局内部を探り、証拠を掴んで来ると言う無茶振り良い所の『副長命令』を受けた。なお、ルビは『成功するまで帰って来んな』。 『証拠』の情報なぞ、ドラマにある様に偶々廊下で悪巧みの相談を立ち聞きするぐらいしか得る手段がない。が、そんな『偶々』が起こる可能性なぞ当然皆無である。入国管理局内部に攘夷派の人間が務めているのであれば猶更だ。相手も当然自らの身を守ろうと立ち回っているのだから。 因って無難なのは、管理局内部で不正な情報の閲覧や抹消記録がないか、PCのデータを正に言葉通り『盗み出す』方法だ。……が、これもまた当然、言う程には簡単な話ではない。外部の人間が入れる所に、ログデータまで保持されたHDDがほいほい置いてある筈なぞない。 警備の時間やルートを憶え、セキュリティチェックを突破する鍵をこっそり複製し、ダクトの中や天井裏に至るまでの『道』を確保し、コンピュータールームに侵入し、データを盗み出す。それが一応のプランである。 まるで映画のスパイの様に。これだけで小説が一本ぐらい出来そうな勢いだ。 毎度の事ながら難題の気配漂うそんな任務で、山崎は地道に内部の人間の信用を獲得すると言う足場固めを終え、情報を盗み出す準備に入っていた。 そこに、本日のターミナル占拠事件である。内部が混乱している今は好機であると同時に、最も警戒が厳しくなるタイミングとも言える。 どうしたものか、と山崎が思案していた所に、土方から無茶振りの追加注文が入った。それは、ターミナル占拠犯の犯人グループの、ターミナルへの潜入方法が、輸送船舶の積荷に潜むと言うレトロな手段であった事から、その当該船舶についてを調べろ、と言うものだった。 ところが。逆に、調査のアプローチを変える形となったその事が切っ掛けとなり、山崎の『勘』は、当該船舶についての不審さを気に掛けて寄越し、──結果。 専門技能を持った部下を手引きする形で発掘した情報は、 「入国管理局はどうやら、今回の犯人グループを手引きした内々の存在を認知している様です」 そんな不穏に過ぎる出だしとなった。受話器の向こうで近藤が息を呑む音。 それはそうだろう。何しろ国家の保全に努めるべき公的機関が、幕府にとっての最重要施設でもあるターミナルの襲撃などと言う事態を看過、或いは手引きしたと言う事になる事態なのだ。 本当か、とは近藤は質しはしなかった。山崎に確信があるからこその、惑いの挙げ句の報告なのだと理解しているから、なのだろうか。或いは、近藤も土方とは別の角度で『何か』を嗅ぎ付けていた様に思える様子からして、ある程度の予想ぐらいはついていたのか。 幾つか考えはしたが、構わず山崎はその侭続けた。止められなかったからと言うのもあるが、何より、儼然たる事実は幾ら頭を捻った所で変わりなどしないからだ。 「それだけじゃありません。連日の天人襲撃事件の幾つかは、ほぼ確実に管理局からの内部情報を元に引き起こされています。ただ、残念ながらその、内部情報を攘夷派にリークしていた職員は一週間前に懲戒解雇、その後の消息は不明で、家族から失踪届が出ています」 重い心地で、然し躊躇いなく断定する。 これで、山崎の得た確信は、概ね土方の放った調査目的と合致する形となった。詰まる所、入国管理局に攘夷派に通じる人間が居て、その人間のリークした情報を元に何件かの天人に対する襲撃が行われた。そしてそれを掴んだ入国管理局は内々にその人間を『処分』したと言う事だ。 「当該職員を内々に処理した理由は恐らく、無用な警察の介入が入る事で内部調査などの手が入る事を避ける為でしょう。ただでさえ天下りと不正に汚職、管理局(あそこ)に良い噂はありませんからね」 不愉快な内心その侭に、吐く息に乗せて言うと、山崎は携帯電話を肩と耳とで挟んで固定した。隊服の隠しに潜ませてある、件の話の証拠になり得る可能性の高いデータをコピーしたフラッシュメモリに軽く触れる。 入国管理局ないし外務に携わる省庁が不正や違法行為に触れ易いのは、その職務が天人絡みの事であると言う実に単純な理由からだ。この国は天人の話になると色々な意味で甘い。彼らが侵略者ではなく比較的に対等な友好関係を持ちかけて来ていなければ、今頃江戸から人間は駆逐されていたかも知れない、と言う歴史的背景や幕府──天導衆の行ったプロパガンダも原因の一つだが、畢竟、権力と財力とを持つ者ほど法を犯すのが常である。 天人や地球外の物品との交流機会が多ければ多い程、地球では未だ認可されていない違法薬物や希少生物に触れ、手に入れる機会も多くなる。外務関係の人間の間では、税関を通さずに違法物品を直接横流し・横領する官僚が後を絶たないのが現状である。その為にターミナルを公的機関から独立した民営化を行うに至ったのだが、結局は職員に渡す小銭が増えただけと言う話だ。抑止も何もめぼしい成果は得られていない。 警察でもそれらの情報は噂話程度には認知されている。が、組織間の問題、外事に介入出来ない法の構造もあり、公然の悪事でありながら手を出す事はそうそう出来ない。実にもどかしい話である。 とまれ。そんな連中が身の内に、攘夷派と言う刑事法に当たる『裏切り者』を発見したとて、それを警察の裁きになぞ委ねる訳にはいくまい。身内を法の裁きの下に突き出すと言う事は即ち、他機関からの内部調査を行ってくれと言っている様なものだからだ。 そこに来て、土方の懸念通りに、ターミナル占拠犯達が潜んで来たとされる輸送船舶イリジウム号の積荷データは"Unknown"扱いだった。つまり、『積荷は存在していない』と公文書には記録されているのだ。最初からそうだったのか、慌てて消去したのかは解らない、が。 こうなればほぼ確実だろう。ターミナル占拠犯達は──入国管理局に潜む、他の攘夷派に通じる人間か、はたまた、先の職員を内々処理した事に関して『何者』かに圧力を掛けられ『便宜を計る』様に命じられたか──意図的に誰かの手引きを受けて、ターミナルに易々侵入した、と言う事だ。 可能性としては前者より後者の方が高い。厄介さ加減も。 何故ならば。どうあっても、この事件には幕府──或いは天導衆──に対する政治的な意図が絡んで来るからだ。 (はっきり言って、警察(俺達)の手に負える内容じゃない、ってのに…、) 何となく辺りを窺いながら、山崎は己の潜む機械室の壁から背を浮かせた。舌先で唇を湿らせて、携帯電話を持ち直す。 「局長。どこへ転んでもこれは良い状況とは言えません。この件は一旦松平のとっつぁんに預けて、真選組(うち)は早い所ターミナルから人員を引き揚げるなり確保するなりした方が…」 《………》 電話の向こうの近藤は黙した侭答えない。促しも問い質しもしない。迂闊に口を開く訳にも行かないだろう事情は解る。だから山崎も辛抱強く答えを待った。 今現在ターミナルの地下に居る負傷者や要救助者や行方不明者、そしてターミナル周囲で待機をしている真選組は、その周囲殆どを暫定『敵』に囲まれていると言っても良い。否、正確には『敵』にされると言うべきか。 政治的な意図、の可能性は幾つか浮かぶが、何れも現段階では不透明だ。そして畑違いだ。だが、ターミナルと言う閉ざされた『筺』は、幾らでも偽装の叶う理想的状況に他ならない。今、ターミナルに真選組が強引に踏み入ったとして、最終的には『全員殉職』などと言う事にされかねない。知った者も知らぬ者も、まとめて口封じが比較的に容易に、そして殉職と言う大義名分付きで叶う。 特に、今沖田が横に居るらしいとは言え、近藤が単独で非常に無防備な王将である事に変わりはない。そして、ターミナルで行方不明となっている土方とも連絡がつかない以上、そちらは人質であるも同然だ。 なお、土方が死んでいる、と言う可能性は万一にでも考えてはいない山崎である。 近藤の沈黙は少し長かった。常ならば小難しく考えるよりも言葉にしたり動いたりする事の多い男にしては珍しい。それだけ慎重に『何か』を推し量っているのか。 《山崎》 黙考の末の一言は、短くそう一言。重たい声音は、呼ばれているだけなのに咎められている心地になる質で、山崎は思わず背を正す。 《取り敢えずお前は引き揚げて、何とかとっつぁんと連絡を取れないかやってみてくれ。こちらから何度も連絡を入れているが、全く通らないんだ》 「きょくちょ、」 思わず声を上げそうになって、山崎は口元を押さえた。背に涌いた汗が、ぞ、と背筋を冷やす。 松平に連絡が取れないと言う事は、彼が多忙の中にあるか、それとも取れない状況下に置かれているか──他に、考えがつかない。まさかこの期に及んで娘絡みの馬鹿話などである筈はない。あって欲しいところだが。 そして、連絡が取れない状況にある、としたら。 事態は、警察庁長官の首根も抑え込める者絡みと言う事に、なる。 真選組は──松平直轄の警察組織は、言葉通り今正に首の皮一枚で今存在を許されているのかも知れない。 不意に、足下が全て崩れ落ちる様な、途方もない不安感と焦燥感とに呑まれた山崎へと、近藤は続ける。 《良いな、事は他言無用で、何かがもしも起こったらお前らは全員知らぬ存ぜぬを通すんだ。とっつぁんに限って、とは思うが、万が一を考えて、最悪の状況に備えてくれ》 最悪の状況、と言う言葉の説明は然し無い侭、近藤はそう一方的に言って通話を切った。ツー、ツー、と虚しく響く切断音が呆然とするほかない山崎の耳を通り抜けて行く。 「最悪の、状況って……」 もう一度そう口にしてから、そんな馬鹿な話が、と思いかけ、矢張り、否、とかぶりを振って。 山崎を始めとする隊士たちに、無関係を通せと命令して来たと言う事は。近藤は一人泥を被る事か、若しくは何かの方法で危険を承知の賭けに出た、と言う事だ。 (この状況での、俺らの勝利条件なんて…) 携帯電話を乱暴に閉じて、反射的に近藤の行動に対する回避案を思案して山崎は呻く。 『何者』かが、『何か』の意図を明確にターミナルを襲撃及び爆破させた。暫定その『何者』かは入国管理局に、ターミナルを占拠させる犯人達を忍ばせる輸送船舶を手配させるだけの、権能を持っている。 江戸幕府に阿る一介の幕臣がそんな愚かな真似をする筈がない。理由も、メリットもない。だとすれば、『何者』かと言うのは、江戸幕府に──引いては天導衆に敵対する事をも厭わぬ存在と言う事に、なる。 そして真選組は、意図的に作られた占拠状態のターミナルと言う筺に誘い込まれた。事件の解決に当たる警察と言う、体の良い演目の役割の様に。 ターミナルは現在、救援と称して駆け込んで来た見廻組にも囲まれている上、衆目と言うマスコミも一般人も遠ざけられている。仮にターミナルの占拠犯を逮捕したとして、それを何者の介入もなく無事に連れ出せる可能性は低いと言わざるを得ない。 正しく、占拠されたターミナルとその周囲は、何者にも全容を伺えない筺。謀の詰まった筺だ。 (ターミナルから直接犯人を捕まえるなり、占拠が仕組まれたものだって言う証拠を見つけるなりして、しかもそれを無事にターミナルから運び出し──いや、第三者に発信か?するぐらいしか) 落胆はたちまちに焦燥に転じる。 「まさか、局長……乗り込むつもり、じゃ…」 転じた想像は、自分で口にしながら、ちっとも『まさか』などとは思っていない様な声となって山崎の喉を震わせて落ちた。 * 終話ボタンを押すと通話が切れる。近藤はその侭ボタンを暫く押し続けて、携帯電話の電源を落とした。 山崎の伝えて来た情報が嘘や勘違い、誤情報ではないなどとは端から疑っていない。松平の口にした通りの、最も考えたくない状況──『敵』が『敵』になった可能性の肯定は既に叶っているのだ。今更冗談や訓練で済むなどと、楽観的な考えは到底持てそうもない。 見廻組が勝手に行動を始めて、松平と連絡がつかない。そこに来て、ターミナル占拠には矢張り何者かの意図的な狙いが存在した。 この侭では、『そこ』に調査の確信の至っていた、真選組の立場も人員も全てが危うくなる。そして近藤には局長として最後まで部下を護る義務がある。 先頃仮設本部で渡された、地下の侵入ルートの記された地図を手の中で拡げながら、近藤はその中から使われない予定になっていた地下水路入り口の一つを選んだ。 「総悟」 「なんですかィ。内緒話は終わったんで?」 地図を仕舞いながら振り返れば、早速皮肉めいた声が返って来る。拗ねているのだろう、そんな沖田の様子は慣れたものだから、近藤は苦笑し謝る様な仕草をして、出来るだけ軽い表情を作った。 「ちょっと厠ね」 この場に土方が居たら、女子か、と呆れられる事請け合いの戯けた調子で言うなり、近藤はすたすたと早歩きで歩き出した。走ったりすると逆に目立つ。逸る心地を抑えて、極力普通の顔を拵えて、警察関係の人間の行き交う間をするりと抜けて行く。 「近藤さん。厠はあっちですぜィ」 言われてびくりと、近藤が咄嗟に頭を巡らせれば、そこには幾つかの仮設トイレがあった。そこにも警察の人間が集まっている。どんな事態でも出物腫れ物は所を嫌ってくれない。 「あ、うん、でもちょっと切れが悪そうだから出来れば空いている所の方が……って総悟、連れションは良いから大人しく待ってなさい。何普通について来てんの」 「俺の便所も長くなりそうなんで。さ。とっとと行きやしょう」 どう追い払ったものか。そう曖昧な笑みを浮かべて向かう近藤の事なぞまるで構わぬと言った風情で、沖田はすたすたと歩き出した。近藤の目指す地下水路の入り口のある方角に向けて。 「ちょ、…オイ、総悟!」 沖田は、ターミナルに直接乗り込むと言う近藤の考えを察し、そしてそれに付いて来ようとしているのだ。そう気付いた近藤は慌てて少し強い声を上げた。巻き込む訳にはいかない。お上の命令や使命の遵守ならばまだしも、己の短慮に部下を巻き込む気など無い。 近藤の制止に、沖田は存外あっさりと足を止めた。だが、それは制止を聞き入れたと言うものではない。小柄な背中に物言いたげな気配を嗅ぎ取って仕舞い、近藤は掛ける言葉を、『部下』を遠ざける言い訳を探す。 奇しくも。周囲の気配は遠い。 「水くせェなァ。今更何言うかと思えば。一蓮托生ですぜィ」 ざわめいて騒々しい筈の中、沖田の声は小さい筈なのに、厭に近藤の耳に響いた。或いはそのもっと奥に。 ふ、とその中に笑いの残滓を残して、沖田は再びゆっくりと歩き出す。 「それに、アンタに何かあったら、俺は土方さんを殺さなきゃなんなくなっちまいますんで」 どうしたら良いものか暫し躊躇ってから、近藤は沖田の後に続いて、明かに会話の意図を持って投げられた言葉の尻を捕まえる事にした。 「……なんでトシを殺すの??逆じゃないの?!」 「俺が見ていながら近藤さんが死んだっつー事になったら、あん人は切腹を言いつける迄もなく俺に斬りかかって来るでしょう。それを返り討ちにするから、に決まってまさァ」 自信たっぷりと言った表情で物騒に口を吊り上げてみせる沖田。自らの発言と同じくらいに。否、それ以上に含みをたっぷりと持たせて。 「まあそんな訳ですからねィ、土方さんがなます斬りになるのに比べりゃァ、ちっとばかし長い連れションの一つや二つくれェ、なんて事ァねーでしょ」 「総悟、」 寸時、近藤は本気で咎めようかどうかを悩んだ。悩んだ、が──結局はそれを呑んだ。 帰って来れるとも知れない筺の中に、何の出目があるかも知れない賽子を放り込む己の愚行には、誰をも巻き込むべきではないと思う。 だが。きっとこの賢しい少年の事だ。どう理由をつけて遠ざけた所で、きっとこっそりついてくるなり単独行動なりをするのは想像に易い。『部下』ではないから良い、と言う訳ではない。心配ならば、少しでも近くで下手を打つ事がない様に見ている方が安心かも知れない。そう無理矢理に納得して、近藤は沖田の先に出て歩き出した。 歩きながら、懐中時計を取り出して蓋を開く。時刻は18時を少し回った所。 日没の時間だ。そびえ立つターミナルの威容が、橙の残照に照らされ不気味な影を地上に、不気味なシルエットを空に、浮かび上がらせている。 その影に紛れる様にして、近藤と沖田はターミナルの地下へ続く水路へと姿を消した。 * 「……そうですか。解りました」 部下から受けた、予想通りに過ぎる報告に、佐々木はふっと小さく溜息を吐き出した。 全く、誰もがどうしてこう、解っていながら過ちに向けて進むのか。そう辛辣に呟きを落とす。 一時を凌ぐ賢しさよりも、彼らには遵守すべき魂とやらがあるのだったか、と思いはしたが、矢張り理解は到底叶いそうにないと直ぐに忘れる。 《それで、如何しましょうか》 携帯電話の向こうの部下が声を潜めてそう問うのに、佐々木はふっと小さく息を吐き出した。今度は溜息ではなく、笑みだった。 「放っておきなさい。どの道、彼らの末路は決まっているのですから」 そう。此処には今、近藤を必死で止めただろう土方はいないのだ。止める者はいない。止められる者もいない。 或いは此処が岐路であったかも知れぬなどと──筺の裡には知れる由もなく。 外務省て日本国その侭ですがお察し下さい。外交担当は入国管理局だけじゃあ無いとは思うんですよね…。 あと長谷川さんが嘗て婿養子ポジションのコネで局長に就いていたのもあって、なんか組織的にアレなのかもと勝手な妄想。 /11← : → /13 |