誰も知らないひとつの叫びのために世界はある / 9 -120:xx? ----------------------------------------------------------------------------- 恋とは胸に不意に宿るエゴの様なものだと思う。 恋、と一口に言うその内訳は往々にして、独占欲だの、執着心だの、嫉妬だのと言ったものだが、それらの醜い感情の出所は相手を想う故に生まれる、慈しみたいとか護りたいとか大事にしたいとか、そう言った高潔なものである事が殆どだ。 無論、高潔で鋼鉄の意志を抱き意味を与えるからこそ、それこそが己のエゴイズムの塊である事は、誰もが知っている。相手の幸福を己の抱く普遍的なものである様に願い、求める。極めて一歩通行な情だ。 人は与えられる情のみに満足は出来ない。その情に能動的な応えを持たぬ限り、人は人の想いを反映させるだけの木偶に過ぎない。 そんな朧気な理解もあって、『それ』をそう言った恋情の類であるとは、実の所土方は未だ認めてはいないし思ってもいない。抱いた一方通行な感情は、確かに彼の男に対して幾つかの望みを内包してはいたが、それは大凡恋とは似つかわしくもない類のものばかりだったからである。 例えば、対等であって欲しいとか、攘夷浪士として捕まる様な無様は冒して欲しくないとか。掴みかかれば同じ様にやり返して欲しいとか。 大雑把に分類すればそれらは好意に類するのかも知れないが、それは望んでみたかったのだろう慕わしさに程近いものばかりであって、しかもそんな事を思う相手は同じ男だったものだから、益々に土方にとってそれは得体の知れない不可解な感情でしかなかった。 エゴではある。理想と望みをぶつけたい本音はある。認め難いが憧れに似たものもある。そんな感情は確かに一方通行な情ではあったが、恋愛と言うには到底至る様なものではなかった。少なくとも、土方は己でその情に対してそう結論を置いていた。 近藤に抱く慕わしさよりは狭窄的な、何処に向けば良いのかも解らない一方的な感情。結ばれたい訳でも、抱きたい訳でも、抱かれたい訳でもない。特別仲良く振る舞いたい訳でもない。ただ、男に向けた感情にだけ、刺さって抜けない様な棘が潜んでいる。日頃は何とも思わないが、意識してそこに見た衝動に似たものの分析が適うのなら、それは、執着、に似ていたかも知れない。それを恋情ともしも言うのであれば、そうでしかないものなのかも知れないが。 その自覚を抱いた時も、土方はその恋情に似て然しそうではない感情を胸に仕舞った侭にしておこうと思った。同性に真っ向から懸想(と分類して良いのかは解らないが)されるなど、衆道の習いも廃れず性観念も多種多様となった現代社会であっても普通に考えれば気持ちの悪い話だろうし、何より土方自身に、胸の裡に納めたその感情を何かの形に昇華したいとも、摘み取って仕舞いたいとも思わぬ本音があったからだ。 どちらにせよ、土方は誰に恋情を抱いたとして抱かれたとして、端からそれを受け入れる心算はまるで無かったのだ。そこに来て己の裡から恋情に似た様な種のものが芽生えたとなれば、それを斟酌するなど益々に論外だ。 そうして土方が散々に持て余し仕舞い場所に困ってさえいた、その感情の納める所に漸く慣れたそんな頃だった。当の男の──坂田銀時の方から、土方へと信じ難い様な告白が寄越された。 正に青天の霹靂であった。忘れかけていた情が再び疼くのに、逆に理解を放棄したくなる程に唐突に。 「なんつーか…、オメーの事が割とマジで好きらしいのよ俺。……どうしたんだろう本当にありえねーよ。ありえねーだろ。俺だってありえねーって思うし。でも、」 嘘じゃ余計にこんな事言えるか。 そんな事を途切れ途切れに伝えて寄越す、銀時の『本気』の知れる言葉に、潜んでもいなければ隠しもしない情に、土方がその瞬間感じたのは確かに歓喜だった。 俺も。と言えば良いのか。 否──俺も。 で?その先が何だ? そりゃ、奇遇だな。両思いだったのか。そんな風に笑って終わるのか?終わらねぇだろ? 是とは応える事だ。認めて、受け入れて、昇華させて、恋情を互いに共有するものへと研磨する覚悟を決める事だ。 有り得ない。 真選組を抱える副長が、元攘夷志士の無職寸前の様な男と『恋愛』の形で付き合って、想い合って、安寧を育んで、寄り添って生きて行く? ……有り得ない。 惑いと、それを振り切る理性の果てに、土方が出した結論は否だった。 「悪ィが、俺にゃその気は無ぇ。野郎の恋人が欲しいなら他を当たってくれ」 殊更に無関心に、理解などない素振りでそう振り切った。 仕舞うのに慣れた感情は、胸が空くでも痛むでもなく、後悔なぞを感じさせようとしてくる心の不快感にも堪えられる、筈だった。 「当たる他がねーからこうしてんだろ。つーか俺は野郎が好きなんじゃねぇんだよ、お前が好きなの。お前じゃねぇならこんなんならねぇし言わねぇんだよ」 そんな風に銀時の言葉に追い縋る様な気配がある事に酷く苛ついた。 そんなのは前から知っている。同じ様な事を思っては気の迷いだと断じて来たのだから、知っている。 「俺だって野郎だろが」 「あー、あったま固ェなあ…、そうじゃなくて…」 折角仕舞い込む事に慣れた感情の琴線が叩かれるのは怖くて、怖くて、怖かった。だから躊躇いなぞ残らぬ様に断ち斬らんと吐き捨てる土方に、銀時は暫し何かを持て余す様にぐしゃぐしゃと自らの頭を掻いて、それからゆっくりと嘆息した。言い募っても無駄だと言う気配を、土方の拒絶の態度から感じ取ったのだろう。 「まあ、解っちゃいたけど」 そんな言葉を小さく呟くと、銀時は「じゃあな」と手を振って背を向けた。諦めるとも、諦めないとも。応えろとも。明確な所は結局言い残したりはしない侭。 いっそ未練なぞ感じぬ程に、思い出したりなぞしない程に、諦めて諦められれば良かった。 そうして土方は、已然変わらず、自らの裡に雁字搦めになって沈んでいる恋情にも似たその感情に、また一つ錘を付けて更に深く深くへと押し込めたのだった。 それが、今から遡ること五日前の出来事。 それから、今日の昼過ぎの街路で遭遇するまで、銀時には一度も会う事はなかった。以前までならよく起きた、町中や飲み屋での遭遇もまるで無かったのだ。 * 17:56 ----------------------------------------------------------------------------- (……そりゃ気まずくもなるわな) そんな一連の出来事を思い出しながら、土方は銀時から聞き出した言い分に、一応は諾を示して頷いてみせた。警戒を顕わに向けていた視線は、途中からは意図的に男の姿を避けてぼんやりと天井を向いていた。 それはそうだ。叶うならば直視なぞしたくない。寧ろ全部無かった事にしたい。タイミングが良いのか悪いのか、こんな状況で出会った気まずい事この上無い男の事を、正確には男の助力を多少は当てにしたいなどとは口が裂けても言いたくはない。 銀時曰くの話では。依頼でターミナルに来ていた。偶々事件に巻き込まれた。子供らは一緒に来てはいない。後は、先頃潜んでいた土方に話しかけた内容通りで、長期戦に備えて食料の類を探していた。との事だ。 一応言い分は整然とはしていたし、何より銀時がこんなテロに拘わっているなどとは、土方は端から疑ってすらいない。本当に偶さかの遭遇、と言う事で概ねは間違っていなさそうだ。 然し。状況を抜きに見れば、告白して振られた男と、本音を隠して振った男同士の対面である。或いは、取り残された民間人と、潜入に失敗しつつある警察官。どう置き換えた所で余り碌なものではない。 「……テメェの他に、生存者、つーか…取り残された民間人は居るのか?」 際限のない溜息を振り切って、極めて職務に忠実な問いを放てば、銀時は苦味の強い顔でかぶりを振った。 「居る、っちゃあ居たけどな。今はどうなってるか解らねぇ。えーと、トイレに籠もって出て来ねぇ女と、足手まといはいらねぇ俺は一人で逃げ道を探すって野郎なんだけど」 「…………どっちも見事に死亡フラグじゃねーか」 「ガキとかなら無理にでも引っ張って来てた所だけどよ。本人がそれが安全だと思って選んだんなら好きにさせるっきゃねぇだろ」 異常な事態下にある人間の統率やら手綱などは、社会的に信用もない民間人にはそうそう取れたものではないのは百も承知だが。思ってうんざりと口を下げる土方に、銀時は肩を竦めてみせた。一応説得ぐらいは試みたのだろう。そしてどちらも聞く耳なぞ持たなかったのだろう。どことなく諦めの色さえ漂う風情である。 「まあ良い、元より民間人同士に避難誘導の義務も何もあったもんじゃないからな。そっちは後から救助隊でも向かわせるしかねぇ。死んでなければ、の話だが」 それこそ本来警察の職務である。民間人である(一応)銀時にその面倒の責任を問う心算なぞ土方にはない。 それに、ターミナルの広さと犯人グループの想定規模とを考えれば、幾ら死亡フラグな事この上ない状況とは言え隠れ果せる可能性はそう低いとは言えないだろう。余程周到に生存者を捜す動きが犯人にあるか、生存者が軽率な動きを取らない限りは。 「で。お前はどうすんの」 「……あ?何が?」 「だから。オメーの今後のプランだよ。どうすんだって訊いてんの」 「ンなのてめーにゃ関係ねェだろが」 「いやいや関係大アリだよ?巻き込まれちゃった民間人的には重要だよ?仮にも鬼の副長サンだもの、のんびり救助待ちって事ァ無ぇんだろどうせ」 不審と疑問も顕わに返せば事も無げにそんな事を言われて、土方は意識してゆっくりと目を閉じた。銀時の軽い言い種や煽る物言いに今まで何度迂闊な言動や無様な行動を晒したか知れない。乗せられ易い方も勿論悪いとは百も承知なので、己の内圧を下げる為に肺の中身をそっと吐き出しながら目を開く。 「作戦行動に戻るに決まってんだろ。民間人は大人しく救助待ちしてろ。心配しなくてもこれ以上の面倒にゃ巻き込みやしねーよ」 幾ら腕が立って頭が回るとは言え、飽く迄銀時は民間人だ。危険を冒してまで手伝え、などとは、ここに至るまでの気まずさがあろうがなかろうが、仮にも警察の口にして良い所ではない。 そこに来て、銀時の嗾ける様な言い種は、手が必要なら貸すも吝かではないと言った内心を十二分に孕んでいた。同時に、土方もその『手』を必要とする本心があるだろうと言う指摘も含めて。 なればこそ土方の選択は、強がりではなく職務的にそれを振り払う事に限られた。手助けを欲していたとして、その手を取る可能性なぞ無いと断じる為。 「お前の認識以上に、もう充分過ぎるくらい巻き込まれてんですけど?」 だが。妙に嵩に懸けたそんな調子でそんな風に言われて、土方は思わず銀時を睨み付けた。 「巻き込まれたのはてめーがこんな所に居たからだろうが。俺が巻き込んだ訳じゃねぇだろ」 恨むんならテロを起こした阿呆共にしやがれ、と吐き捨てると、 「……………だ、な」 そうだな、と。噛み締める様にそう繰り返して、立ち上がった銀時はくるりと土方に背を向けた。とっ散らかった頭髪に覆われた後頭部を、爪の先ががりりと引っ掻く。 「まあ、お前じゃねぇかも知んねぇけど。傍目なかなかに…最低の状況なんだろうけど、」 土方の方を見ない侭でそう続けながら、銀時はまるで言葉を選ぶ様に息を吐き出した。 (最悪、じゃなくて……最低?) それは疑問と言うより、不意に過ぎった『勘』の様なものだった。何か、この場に居たくはない様な衝動に駆られた土方は思わず目線だけで周囲をちらと見回してみる。だが、生憎此処は逃げ場のない空間。此処の外とて、外界と隔てられた世界である。その事実が否応なく現状を知らしめて来る。 「お前に巻き込まれるっつーか…、助け?手伝い?そう言うのが忌憚なく出せる所に居るってのは、悪くはねぇよ?うん」 恩に着せるでも偉ぶるでもなく、苦笑の乗った声でそう躊躇いがちにそう言った銀時が──振り返った、その目の向こうに。疑い様のない真っ直ぐで眩しい本心がある事を何故かすんなりと見て取って仕舞った土方は、そこから目を逸らす事も出来なくなって仕方なしに目蓋を下ろす事で視界を封じた。 (気まずいにも、程があんだろ…) 真っ暗な世界の中で土方は重みを益々増した心地で呻く。こんな、無償の思い遣りの様なものを向けられる、そんな資格など自分には無いと言うのに。 薄く開いた視界には、緩やかに笑う忌々しい銀髪の侍の姿。目蓋の残像よりもずっと強く、そこにある。消し去りたくとも消えなかった想いの様に、そこに在る。 「……人の話訊いてたか、クソ天パ。救助要請くらいは出してやるから、民間人は大人しくしてろってんだろ」 「まあそう言いなさんな。一人より二人ってな。それに、ここに来るまでに監視カメラの類とかを出し抜く手段とかも駆使してるし?この外の様子もてめーよりは知ってるし?寧ろ使わねーと損するレベルだよこれ」 うんざりと繰り返す土方の言い分もとい命令に従う気は微塵もないらしい、万事屋稼業の民間人は、いつも通りの覇気の無い顔でへらりと笑って寄越した。そこにまたしても、退く可能性のまるで無い事を見て取れて仕舞った事に、絶望的なものを感じないでもない。 絶望的な要素を感じる様な内容は大凡今までには聞き取れなかった気もするが。 (まあ、気まずさは絶望的、か…) 取り敢えず見つかった解答に着地して、土方は投げ遣りな仕草で肩を竦めて返した。好きにしろ、のジェスチャーである。元より銀時の方は好きにする気満々だっただろうが。 「ま。巻き込まれちまった以上、最後までやりきるのが信条だよ万事屋としては」 だからとっとと諦めるこった。そう言いたげに銀時は土方の肩をぽんと叩きながら横を通り過ぎた。振り返って目で追えば、膝の高さぐらいに隙間を残したシャッターの前に屈み込んで外を窺っている。ここまで無造作に辿り着いたと言う事は(少なくともシャッターを開ける時は無造作だった)、監視カメラの類の配置などを確認した上で動いているのだろうが。 「オイ」 つらつらとそんな事を考える土方に向けて、銀時が指で「来い来い」と呼ぶ仕草をした。癪な事に変わりは已然として無いが、この侭ぐだぐだと遣り取りをしていても時間はないし仕方もない。溜息と同時に諦めを投げ捨ててから、土方は銀時の脇に膝をついた。 「目的地は?」 「……、一階のセキュリティセンターを目指す心算だ」 一瞬、てめーにゃ関係無ぇ、と言いかけた思考を振り切って、渋々と土方は答える。すれば銀時は「ふーん」と何やら考える様な素振りをしていたがやがて、 「そこってセキュリティセンターってもアレだろ、警備員のちょっとした詰め所みてーな感じの所だろ?監視カメラの映像とかは見れても、制御や操作は出来ねー感じの」 至極真面目な横顔でそんな、想像以上に真っ当な事を言われ、土方は思わず鼻白んだ。正直、戦い以外でこんな真剣な銀時の姿なぞ初めて見た気がする。 「あ、ああ……確かにそうだが、」 ターミナルの全セキュリティと機能とを制御しているのは中央制御室である。つまり、敵の籠城していると思しき本丸だ。何フロアかに点在する、警備員の詰めるセキュリティセンター──詰まる所の警備室──では、監視カメラの操作やセキュリティのオンオフまでは自由にはならない。 作戦では、セキュリティセンターにまず辿り着き、そこを取り敢えず拠点にしようと言う話になっていた。監視カメラの映像は、参照出来るだけでも突入の助けになる。犯人グループの仕掛けたトラップや潜む場所を探し出す事が可能と言うのは、外部との連絡も通行も遮断され全容の知れぬターミナルの、暗闇の中を照らす光に等しい。 それに加えて、そこから各セキュリティ端末にアクセスが叶えば、こちらからある程度の制御が適う所までハッキングをする事で、セキュリティ用のタレットなどの動作停止も出来る様になる可能性の目算もあった。地道に陣地を開いて行く進軍方法だが、完全にシステム的物理的に籠城した相手を前に、他に取れる手段もそう多く無いのだから致し方ない話だ。 まさか、こんな死んだ魚の目をした男にその点の実用的な指摘なぞされるとは思いもよらない事だった。そんな遠回りなプランしか当面立てる事の叶わない、警察の無力さを改めて指摘されている様で胸も悪く、土方はむすりと唇を尖らせて言い返す。 「外部への連絡を試みるとか、生存者を捜す事ぐらいは出来る」 「どっちもあんま実用的じゃねぇだろ。前者は、多分に通信関係は全部封鎖されてるから無理。後者は、見つけて何になるんだよって話だよ。一人一人見つけて、何とか説得したとして、集めてどうすんの?狭いダクトん中抜けさして下水に逃げろって誘導すんの?どっかの沈没船脱出ゲームみてーにぞろぞろと?」 「……………」 外部とターミナル内部の通信手段を、少なくとも電波の面では全部封じているのだ。当然有線も全て遮断している筈だ。実際、犯人が潜むと思しき中央制御室へのホットラインへ何度繋ごうとしても不通になっていた。犯人に要求事があっての籠城ならば、連絡手段を自ら断つ筈はない。 ぐうの音も反論の一つも出ない銀時の正論に淡々と撃ち抜かれ、土方は渋々浮かびかかっていた幾つかの反論を呑み込んだ。何を返した所で、銀時の言い分の方が正しい上に合理的になる。 そもそも、セキュリティセンターからハッキングを行う筈だった技師らとは地下ではぐれたきりだ。ハッキングプログラムの入った端末は所持しているが、土方の知識ではそれを十二分に使いこなす事は出来そうもないのだ。 部下や技師たちの無事は知れないが、彼らが土方と同じ様にターミナル内へと侵入していたとしたら、当初の予定通りにセキュリティセンターを目指すだろう。 なればこそ。 「そこに向かっても仕方ねーだろ。逆に敵さんに俺らの存在を気取られちまわァ。ここはいっそ、完全に隠密行動で本丸を狙った方がリスクも犠牲も最少限になると思うぜ」 俺ら、と、リスク、と、犠牲、と。銀時は土方と自分とを交互に何度も示しながらそう言って、反論や意見があるならどうぞとばかりに口の端を持ち上げて笑ってみせた。 「巻き込まれた割にゃ肝の据わった事だな」 実に癪な事この上ない笑みに向けて、思わずそんな悪態を吐き捨てれば。 「万事屋だしね?」 などとあっさりと返されて益々に土方は渋面になった。何か少しでもやり返したくて、言葉の先を余り意識しない侭に口を開く。 「そう言や、」 「何」 思いの外の早い食いつきに、土方は、なんでもない、と返そうとしたのだが、銀時が妙に真剣な眼差しで己の方をじっと見つめていた為に、続く言葉を紡がなければならなくなった。 それは先頃も思った事だったが、まあ良いかと思って触れずにいた事だ。 どうせ正しい答えなぞ得られないだろう。そんな確信もあった。だから、問うだけ無駄だと思ったし、そんなに関心も無かった。近藤の様に、嘘をつくぐらいならば何も答えない様な、そんなやさしい選択をこの男は土方に対して持ってくれるのだろうか。そんな恐れもあった。 「…、何の依頼で、ターミナル(こんな所)に居たんだ?」 すれば銀時は、寸時瞠目して──それから、すねた様に眇められた土方の視線を捉えながら、ゆっくりと微笑みを浮かべた。 それは、ぐしゃぐしゃの紙に書き付けた役立たずの覚書の様に、無惨な、 「──」 思わず息を呑んだ土方の目前で、銀時は確かに笑って、言う。 「人助け、だよ」 そこにも矢張り嘘はまるでないのだと。何故か土方は確信して仕舞っていた。 SFCのセプテントリオン、クッソ難しかったなあ…。 /8← : → /10 |