天国の日々 / 26 「…竹光でもお持ちしましょうか?」 予告通りに昼も少し過ぎた頃に訪れた山崎は、一般家屋の庭で真剣と木刀とで打ち合いをしている坂田と土方との姿を見るなり、大層引き攣った表情で開口一番、そんな事を言って寄越した。 実際には打ち合い未満で、斬りかかる土方を坂田が難なくいなして行く、と言った様相ではあったが、まあ端から見ればどんな状況であれど物騒な絵面でしかないのだろう。 土についていた膝を崩して、土方は脱力した侭にその場に座り込んだ。辺りに放り出してあった鞘を手探りで掴むと、溜息混じりに納刀する。汗ばんだ柄から手が離れた瞬間に過ぎったのは安堵だったのか、それとも寂寥にも似たものだったのか。解りはしないが。 「竹光よりお茶的なもん頼まァ。ついでに昼飯も」 「ってアンタらお昼まだなんですか!?〜勘弁して下さいよ、熱心なのは有り難いですが、基本的な生活からしっかり矯正する所から始めて下さいってば。ただでさえこの人、摂食が偏り過ぎで…」 さらりと当然の様にそんな事を要求する坂田に、泡を食って、山崎。この人、と言う部分でちらりと土方を振り返るのだが、その表情には何故か深い諦念の色。 医者にもさりげなく口にされたが、どうやらこの土方十四郎と言う男、仕事以外では相当に生活習慣面に問題があったらしい。憶えはないが、一応は『自分』に向けて言われる為にいちいちばつの悪い思いをさせられる。 「つーかお前、どっから入った訳。呼び鈴くらい鳴らせや。新婚さんチでもそうでなくてもマナーだろ常識だろ」 座り込む土方とは対照的にも、坂田はけろりとしたものだ。全く疲れのある風でもなく、諦め顔で縁側に向かう山崎の背に向けて碌でもない物言いを投げている。 「玄関からに決まってんでしょ。何が起きるか解らないので、合い鍵は俺も持ってんですよ。あと呼び鈴なら鳴らしましたよ、三度。それで返事が無かったから、何かあったのかと…」 まあ何事も無くて良かった訳ですけど。そう付け足しながら、 「じゃあ直ぐに飯買って来ますんで、今の内に埃だけは落としておいて下さいね」 これで運動の時間は終わりだと、そんな意の込もった釘を刺して山崎が玄関の方へと廊下を歩いて行くのを見送って、坂田は木刀を腰のベルトに挟んだ。 (新婚、と言う部分に触れないでくれてよかった…) 立ち上がろうとした所に差し伸べられた坂田の手を、特に意識する事もなく取って仕舞ってから、土方はそんな事を思う。 坂田は自分たちの関係性を何憚る事なく扱っているが、土方の心情としては余り穏やかなものではない。心の中では坂田の存在を確かに受け入れていると言うのに、それを余り明け透けに──特に真選組の『仲間たち』に吹聴されるのには、得も知れぬ怖さ、の様なものが付き纏う。 気恥ずかしいとかそう言ったものではない。酷く彼らに申し訳がない様な、裏切っているかの様な、居た堪れない心地になるのだ。 坂田に手を引かれる侭、埃を叩きながら立ち上がった土方は改めて己の姿を見下ろして渋面にならざるを得ない。庭土の上に散々転がったりこかされたりした所為で、着物も自分自身も大分土埃で薄汚れて仕舞っている。帯も弛んで袷は乱れているしで、そこら辺でちょっと喧嘩でもして来た様な有り様だ。これでは山崎が呆れ顔になるのも無理もない。 対する坂田の方は、全く疲労の見えない見た目その侭で、全く汚れた様子はない。土方と異なり地面と仲良くしていた訳ではないから当然なのだろうが。 汗さえも殆どかいた様子が見受けられない、まるで平生の様なその様子に、土方は改めて坂田銀時と言う男に対する真選組の評価に得心を置いた。 悔しいが──悔しい、と言う感情がわき起こった事がそもそも不思議なのだが──、この男は確かに強い。(ほぼ)素人相手とは言え、土方は真剣を手に許されている。素人である以上、剣術使いの様な精密さがある訳でもないのだから、予期せぬ事故の可能性だって有り得る筈だ。それだと言うのに、坂田にはまるで怯える様子も警戒する様子も無い。ただ超然と壁の様に其処に佇んでいるばかりなのだ。 反撃は殆どしない。打ち込む土方を安全にいなして、時折誉めたり指導したりと言った言葉を添えて笑う余裕もある。そうして土方に怪我を負わせる事なく、自身も怪我一つ疲れ一つ負う事ない『鍛錬』は終わった。 それは恰も、棒きれで斬りかかって来る子供と戯れるのにも似た、坂田にとっては児戯に等しい様なものだったのかも知れない。斬りつける事は疎か、木刀にも真っ当に当てる事が出来なかったりもした。 坂田の剣術の経歴がどんなものなのかは知れないが、それは『素人』の力では全くどうする事も出来ない程に、余りに強く絶対の存在であった。 土方の方は、『初めて』振り回す刀の重量や、刃を手にすると言う緊張感もあって、さぞや話にもならない動きだったに違いない。入院生活で体力も衰えている、と指摘された通りに、休んだり話をしたりと言う間は時折挟めど、正味一時間少々の鍛錬──と言うより運動か──だったにも拘わらず、すっかり疲労困憊の体である。 「もう一時前か。流石に腹も減ったな。今度から時計でも置いとくか…」 明日には筋肉痛になっているのではないか、と言う疲労感を抱えた侭縁側に上がると、坂田はそんな事を呟いて、そして徐に掌を差し出した。うん?と土方が首を傾げると、呆れた様な溜息がひとつ。 「ジミーにも言われたろーが。お前は取り敢えずシャワー浴びて着替えて来いよ」 説明になっている様ななっていない様な言葉を少し咀嚼すると、「ああ、」土方は漸く理解を示して頷いた。手にしていた刀を坂田へと手渡す。 「……あ。何なら一緒に入ろうか?」 途端、雄の気配を潜ませた声音がゆったりと嗤い、伸びて来た手指が土方の頤をつと撫で捉えた。 「──、なに、言って」 獣の牙が頸動脈に触れている様な怖気が──恐怖と言うよりは畏怖だった──己の全身の神経をたちまちに支配するのを感じて、土方は思わず身を僅かに逸らす。病院での夜にも、昨日の昼間にも教え込まれた、畏れに隷従する甘い歓びに、然し支配される事を拒絶する理性とが鬩ぎ合う。 カラになった手に得物がもう無いと言う事実に、今までに得た事の無い様な心許なさを憶える。坂田の行動はリハビリと言うより、まるで、土方の不安感を煽るこの為に、得物を持たせそして奪ったかの様だ。 強制力も、色めいたものも乗っていない筈の言葉に怖じける土方をどう思ったのか、やがて坂田は、 「冗談。腹も減ってるしな。お前を喰いたくてもその体力がねーわ」 そうあっけらかんと笑って言うと、つい、と身を翻した。居間へと引っ込んで行く気配が遠ざかって、そうして漸く土方は密かな息を吐き出す事が出来たのだった。 * そんな風に、恐らくは互いに理解には未だ至らない惑いを引き連れた侭、坂田と土方との同居生活は一見順調に進んで行った。 朝起きて、坂田の作る朝食を食べる。 昼までは庭で刀の打ち合いをして、昼時になれば、坂田の作る昼食を食べる。 昼過ぎは体力作りの為に素振りなどを黙々とこなすか机仕事をして、夕方は二人で気分転換の散歩をかねた買い物に出掛けるか、坂田だけが出掛けるかをしたり、時には何もせずのんびりと茶や会話を楽しむ。 夜になれば、坂田が作るか買って来るかした夕食を食べる。 その後は机仕事をして、風呂に入って。 深夜になれば、大人しく眠るか、それとも互いに熱を分け合う行為に溺れながら眠る。 そうやって消化していく日々には、刺客が現れるだの、泥棒が入るだの、ご近所と揉めるだの、そんな突発的なイベントは何一つ起きそうもない平和そのものの生活だった。 坂田は夕方出掛けるついでに彼の家でもある万事屋に顔を出したり、数日に一度は電話で従業員の子供らと何やら話したりもしていたが、基本的に土方の外界との接点は、時折家に訪れる近藤や山崎と多少の会話を交わし合う程度しか無い。 外出も家の近くを歩き回る程度だ。少し歩いた所にちょっとした自然公園があるので、大概はそこをぐるりと、坂田と他愛もない遣り取りをしながら歩いて終わる。 二週間後、と言われた通りに病院にも一度事後検診を受けに、山崎が運転する車に乗って出向いたが、特に異常は無しとの事で、健忘症状について何か変化が起きない限りは、もう通院はしなくて構わないと言われた。 因って、土方にとってこの家での生活は、その世話の殆どが坂田の手に因るものになった、と言う一点を除けば、病院に入院していた時と何ら変わる事はなかったのだ。 進んでいるのかいないのかも曖昧な日々の速度の中では、少しづつ慣れてくる仕事や、少しづつ慣れてくる剣術、少しづつ慣らされる坂田に抱かれる身体ぐらいにしか、変化と言う変化を感じ取れない。 迂遠の様な時の中は日毎に惑いの不安や躊躇いばかりが募り、恰も真綿で首を締められているかの様な、緩慢に死せる天国の近くなりそうな日々でしかない。 だがそれが苦痛なのか、と言われれば、そうだ、とも答えられそうもない。 土方は己の変化を何処かで畏れていたし、その程度には変わる有り様に自覚はあった。ただ、立つ場所だけが少しも変わっていないのだ。思考は進んで、慣れた作業は進んで、それでも立つ根だけはそこから竦んだ様に動けない。 坂田の存在無くして成り立たない今の己は、果たしてそこからほんとうに進めているのだろうか。 土方は坂田に惹かれてはいたが、どちらかと言えばそれは慕わしさに分類される様な親愛めいた情であって、決して色恋に関連する愛情では無かった。 だが、少なくとも坂田にとっては『そう』ではなかった。 文字を、言葉を教えられて、剣の扱いを教えられて、身体と心には抱かれる事を教えられる。『お前は俺のものだ』と言うその一点だけを、恐ろしい程の執着心を以て吹き込まれるのだ。幾度となく。夜毎に。日毎に。 土方は、己の身が最初から既に坂田の全て知る所だったモノであったとは、既に認めている。 それだからなのかも知れないが、繰り返し囁かれる坂田の執着心の顕れに心地よさを確かに憶えているのだ。 そして、それとは逆に、この侭で良いのだろうかと囁く本能の様なものもある。 坂田に名を呼ばれ、目覚めて。それから坂田の存在が己の寄る辺になっている事は間違いない。色々とサポートを受けている事もだが、それらの行動を抜きにしても、土方の心は坂田に寄り添う事を求めている。 失われた記憶に、坂田との関係がどの様なものとして刻まれていたのかは、知れない。 だが、今の土方は確実に、坂田に因って活かされ、坂田の存在に安堵を憶えている。 坂田のお陰で、剣術の鍛錬でも机仕事でも、随分とこの『世界』に慣れた。時折様子を見に来る山崎や近藤も、土方の確実な復調と成長とを喜び、坂田の功労に感謝し太鼓判を押している。 坂田には感謝が尽きない。 坂田がいなければ『自分』はこう形作られる前に、どこかで失敗して砕けていただろう。 坂田の事が、愛情ではないが、好きだ。 坂田に執着され、支配されている『今』が、落ち着く。 惹かれる。こわい。自分でなくなる。こわい。 それでも、手放せない。手放して貰いたくない。 籠から放たれるのが、こわい。 お前のものであるのが、こわい。 お前のものでなくなるのも──こわい。 * 「本当に、俺は……その、お前の、恋人、だったのか?」 息を切らせながら、躊躇いがちにそんな事をぽつりとこぼされたのは、丁度第二ラウンドを始めようと思った矢先だった。 「……何、いきなり」 射精後の倦怠感と、未だ身の裡に燻っている情欲を持て余しながら、銀時は自らの肩の上に引っかかっている土方のまるい膝小僧を手遊びに指でくるりとなぞった。「の」の字を書く様にくるくると撫でる左手指はその侭に、右手で、ついぞ先程まで己の入り込んでいた後孔を、意図の知れない不快な問いに対する仕打ちの様にぐいと押し開く。 「っ、ア、」 元の形に閉じようと懸命に収縮を繰り返していた後孔が、何の予告も無しに突き込まれた人差し指と中指とに無理に開かれて、その痛痒感に土方が息を吐き出した。こちらも銀時と同じ様に達した直後の気怠さにぐたりと身を沈めていたのだが、つい数分前まで散々に弄られていた場所への過敏な刺激に、戦くのにも似て身をびくりと跳ねさせる。 紅く腫れた孔の縁を、悪戯に動く指の所為で内部からとろりとこぼれ落ち出た白濁した精液が汚していく。それを目を細めて見遣ると、銀時は再び己の性器を軽く扱いてからそこに宛がった。 「待っ、ッ…〜!」 上げ掛けた抗議の声は無視して一息に、連続した二度目ですっかりほぐれきった後孔へと性器を突き入れ、すっかり収めて仕舞うと、その衝撃に弱々しくのたうつ土方の顔を、身を屈めて覗き込んだ。 「…で、何だって?」 「………ッ、だから、…っあ、ん、、待、」 問いながらも答えさせない様に腰をゆるゆると動かして孔をほじくり回す様にしてやれば、何かを言いかける言葉は意味を成さない啼き声に砕けて、たちまちに土方は布団へと沈んで仕舞う。 「は、ァ、あッ、、あ、はぁッ」 その侭ストロークを巧みに調節しながら、土方の感じる所を狙って、感じる方法でじわじわと押し流してやれば、程なくして土方は己の口にした問いをひととき忘れた。ただ揺さぶられる侭に奔放に声を上げる可愛い可愛い抱き人形に成り果てて、全身を余すこと無く銀時に愛されるだけのものになる。 「まぁ…、その問いは、今更じゃね?お前は俺のものだった訳だし。今もそうな訳だし」 ところが不意に銀時のこぼした、先の問いに対する答えにも似た呟きに、土方は快楽に呑まれかかっていた理性を何とか留めようと足掻くかの様に、熱に浮かされつつあった目を瞠らせた。 「何で野郎なんかを情人に、って意味なら。それはお前の性癖の所為だろ。勿論、互いに同意の上での付き合いで、行為だった訳だけど、な」 これが都合の良い責任転嫁かどうかは、実の所未だに銀時も解っていない。 諄いが、記憶を失うまでの土方が何を思って銀時へと隷属するに似た溺れ方をしてきたのか、と言う真意は解らない侭に消えて仕舞ったのだから。 性癖、と。驚いた様に鸚鵡返しにする土方に、銀時は唇の端を意地悪く吊り上げて応える。 「お前はさ。警察なんて言う公人で、規則に縛られた生活ばっかしてた所為かね。反動みてぇなもんで、そう言う『お前』を崩されるくれェのみっともないプレイを好む淫乱だった訳」 「……──、」 言葉も出ない。傷ついた様に、信じられない様に表情をぐしゃりと歪める土方へと、銀時は殊更に下劣な言葉を選びながら、真逆に表情は優しい絶対の庇護者の様に微笑みかけてやる。 「ホラ、こっち触ってもねェのにこんなおっ勃ててドロドロにしてんじゃん。身体は正直、たァ言ったもんだよな。野郎に組み敷かれて、犯されてんのに、感じちまう。何よりの証拠だと思わねぇ?」 「……っ、そん、な、の」 「で、俺はお前が好きだった。お前は『お前』を崩してくれる俺が好きだった。で、泥みてぇにお互いに溺れて、恋人同士になった訳。ギブアンドテイクって言うの?ソッチの意味でも丁度良かったんだろ、きっと」 土方の身をずっと思う様に抱いて仕込んで来たのは紛れもなく銀時の手管だが、土方自身にそれを拒絶する気持ちが無かったと言うのも事実だ。 戦く『今の』土方には、そんな己の性情が果たしてどう映っているかは知れないが、それが嘘ではなく、正しき過去の経緯であった事ぐらいは認めているだろう。 真実など、本意など、今となっては全てが迂遠だ。だから、今はこの鋳型の中で作り直される土方十四郎で良い。 話はこれでおしまい、とばかりに再び動き始める銀時に、土方は声にならない声で啼きながら、こわいのだ、と必死で訴えて来る。 怖い。これが自分なのか、そうでないものなのか、そうなるべきものなのかが、解らない。 千切れた記憶の、繋ぐ事の出来ないその裡には、土方のどんな感情が詰まっていたのか。それは最早誰の知れる事でもないのだから、 「……その、自分が解らねぇんだろ?俺なら、お前よりお前の事を解ってやれる」 『今』の、俺の思う様に作り直されたお前の事なら、誰よりも俺が一番良く知っている。 「──」 縋る色の込もった銀時の声音に、土方は小さく息を呑んだ。 「なぁ。だから、もう『戻って』来てくれよ。もう、手ェ放そうとしたりなんざしねぇから。俺のものに、なってよ」 俺のものだから、と言い聞かせるのではなく、ここで初めて銀時の口からはそんな願いがこぼれ出ていた。 一度千切れたあの場所から、きっと互いの心の何処かには、ずっと錘がぶら下がり動く事が出来ていない。 あの時手を放したから『こう』なったとは思わない。 だが、あの時手を放したから『こう』なっている。 可哀想な土方。折角、一度は逃がしてやったのに。俺が手前ェ自身が痛いのを堪えて、『真選組の副長サン』に戻してやったのに。まるでそれが厭だったみたいに戻って来た。なにもかも無かった事にして、戻って来た。何も知らない様な無垢で欲の無い面を晒して、何も知らない癖に俺に縋って俺を頼りに立とうとした。 可哀想に。かわいそう。そんなだから結局、俺はお前を逃がす気なんぞ無くなって仕舞ったし、お前も逃げる選択肢を失って仕舞った。 「……………」 ぼんやりと銀時の顔を見上げている、『己』を知る怖さと、それを拒絶する弱さを恐れて歪んだ土方の顔は、この同居生活を始めてから大凡初めて目にする類のものだった。自己否定の恐怖に立ち向かわず、銀時の伸べる安易な納得と尤もらしい理由──言い訳──に縋る事を赦そうとしている。 銀時の存在の寄る辺にして。彼に支配され隷従していれば良い、そうして自己を確立するだけでいい。 愛して、愛される関係を。支配して、支配される関係を。身を寄せ合って縋り合う様な関係を。認めて仕舞えば良い。受け入れて、それを呑み込んで仕舞えば良い。 坂田銀時の所有物として。認めて満たされて生きれば良い。そうすれば、本能だか自意識だかの欠片が未だに苦しめるその齟齬も何も感じなくなる。 何も恐れる事もなく、籠の中に留まり続けていれば、それだけで良い。 「……、」 泥濘に浸るにも似た、約束された天国の日々を享受する選択に。土方は長い時間をかけて──やがて、静かに頷いた。 。 /25← : → /27 |