天国の日々 / 3



 土方は仕事でしかそう言った店に詳しくはないと言うし、この辺りの地理に精通している銀時には精神的な意味でも生理的な意味でも余裕がなかった。
 因って互いに場所や質を吟味する暇もなく、裏通りで適当に目についた控えめな看板の連れ込み宿──まあ要するにラブホだ──に逃げ込む様にして入った。
 「っま、待…ッ、よろずや、」
 「ここで、待てるかよ…!」
 がちゃりと言うオートロックの音を聞くなり、銀時は土方を後ろから羽交い締めにして無理矢理顔を寄せて口接けを仕掛けた。いつもは無駄口屁理屈製造機とまで言われる言葉が碌に出なくなる程に、みっともないが余裕が無かったのだ。男と車とバズーカは急には止められない。そこの所を同じ男ならこそ理解して貰いたい。
 唇を離して、室内に進ませる様にして土方の背中を押し遣ってから、再び正面から抱き込んでぐるりと二人でもんどりうつ様に、大きなベッドにどさりと倒れ込んだ。スプリングの良く効いたダブルサイズのベッドも、二人分の男の体重を一遍に受け止める事になった事に流石に悲鳴をあげる。
 ぎしぎし軋むベッドの上の、安っぽい光沢のあるシーツの海に背を沈めた土方に覆い被さる様にして、銀時はその顔のあちこちに唇を落とした。擽ったいのか、身を捩らせる土方の目が薄暗い室内灯に照らされて、見たことのない色をして銀時の事を見上げてくる。
 戸惑いと、困惑と、不安とがない混ぜになった表情と眼差しとが酷く扇情的に感じられて、銀時は眇められたその目の横にそっと啄む様に口接ける。すれば長い睫毛がぴくりと震えて頬を擽る。
 「おい、──っん、」
 続くのが制止なのかお強請りなのかは解らなかったが、取り敢えず黙らせたくてもう一度唇を合わせて深く口接けた。
 

 土方に触れたいと思って、欲しいと思っていた。とは言ってもそれは必ずしも、男として抱きたいと言う欲には直結しないのではないかと言う疑念は、飽く迄銀時が自身をノーマルな性的嗜好なものだと思っていた為に何処かにあった。
 だが、そんな理性的で一般的な意見は、先頃川縁の道で、不意に目を閉じた土方に好奇心も手伝って口接けをした時に一瞬で瓦解していた。
 否、これは性的な嗜好とか言う問題ではない。好きだと思った相手に欲情すると言う、酷く単純で酷く間違った歪な衝動なのだと思う。本能的な衝動である筈なのに本能に反している。そんな事実に対する忌避感など此処には微塵も残っていなかったのだ。
 いつも眉間に皺を寄せていた眉が、不機嫌や不快感にではなく、困惑や快楽を示して歪んで行くのに興奮して、低めの声が上擦った音を立てるのをもっと聞きたくなった。
 態と流し込む様にした唾液を白い喉がごくりと嚥下するのを見て、眩暈がしそうな程に欲情した。自分の一部を、存在を、受け入れさせる征服欲と、受け入れて貰える喜悦とに背筋が震える。
 欲しい、と言う執着にも似た曖昧な願望が見る間に形を創り上げる。支配したい、飲み込ませたい、啼かせたい、好きにしたい、甚振りたい、滅茶苦茶にして仕舞いたい、心ごと己の全てを受け入れて貰いたい。醜悪ですらあるそれは、銀時にとっては紛れもなく愛着と愛情であり、土方の一応の諾の姿勢を見た今となっては、留まりようがある筈もなかった。
 もどかしい手つきで土方の帯を解いて着流しをベッドの下へと蹴り落としながら、銀時も衣服を乱暴に脱ぎ捨ててボトム一枚になった。身の置き所をどうしたら良いか解らないと言った顔をしている土方の目元に口接けを落としつつ、
 「腰、ちっと浮かせて」
 そう、真っ赤になった耳に吹き込む様に囁いてやれば、びくりとその身が竦んだ。常の頭の回転数や周囲を威嚇している様なキツい目つきは何処へやら、土方は怯えていると言うよりは惑乱している風にも見える様子で、躊躇いながらも膝を立てて腰を少しだけシーツから浮かせた。
 正直申し訳程度の動作だったが、土方が自分の要求を受け入れてくれた事が嬉しかったので、銀時は上機嫌に笑いそうになる口元を何とか正しつつ、僅か浮いた腰から下着を片足ずつそっと抜き取った。これもまた後ろを振り返りもせずにぽいとベッドの下に放り投げる。
 「ぅ、」
 改めて、全裸に剥かれて、兆しかかっている己の性器を見下ろされると言う状況にか、土方は口の端を下げて前歯をぐっと噛み合わせると顔を反らした。
 銀時の印象では、土方は常識的な成人男性としての理性を色濃く示す性質だ。そんな男が、同じ男に組み敷かれて裸に剥かれて、しかもその状況で勃起しかかっている、などと言う現実を拒絶したいのは心情的には理解出来る。それは一般的に言う恥じらいばかりではなく、男としての矜持とかそう言う諸々のややこしい感情をも多分に内包している筈だ、が。
 心を通わせたい相手との最初のセックスぐらいは、優しく、とか余裕を持って、とか、色々な事を考えていた様な気がするのだが、正直の所今の銀時には余裕などまるで生まれてくれそうも無かった。みっともねぇ、とか、いい齢して、とは呆れ混じりに思うのだが、身体の方がそれに同意してくれそうもない。
 なにしろ、本当に、好きだ、と心から思った相手とのセックスなぞ銀時には初めての事だったのだ。告白をしたその日の内、しかも些か衝動的な始め方ではあったが、溜まった性欲をただ発散したいとか──そんなものが発端ではないだけに余計に質が悪かった。
 醜悪な迄に本能的な愛着と衝動とが、ともすれば強姦紛いの行為になりそうで、正直理性をどう保ったら良いのかが、『はじめての』行為であるだけに解らずに困り果てる。
 眼下の土方の、横へ思い切り反らした顔が、肌を性感を探る様につとなぞる度に何かに堪える様に顰められるのを見れば、その躊躇いや理性を存分に押し流して仕舞いたくなるではないか。
 自分と同じ様なガタイをした男を好きになったばかりか組み敷いて、そんな事に愉悦を確かに感じている自分に思わず喉が鳴った。
 所詮野郎同士、ヤるとしたらスポーツの様な淡々としたセックスになるのかな、と、土方に対する恋情を自覚した時にそんな事をちらと考えた事もあった。
 そんな馬鹿な。
 こんなにも今こいつに堪らなく欲情していて、よくも今までそれを堪えて、気付かずに、そんな間抜けな事を考えていたものだと思う。
 触れる肉に女の様な柔さはないが、逆に滑らかで掌に心地よい。早鐘の様な鼓動を鳴らしている胸の上にある乳首を弄りたい衝動に駆られたが、その行動が、女みたいな扱いをしていますと言って仕舞う様な気がしたので、一旦止めておく。
 臍の辺りを擽る様に撫でながら、立たせた侭でいた脚を辿り、土方が戦く事が無い様にと必死で思い遣りの様なものを掻き集めて、徐々に手を腿の内側へと這わせていった。しっとりと汗ばんだ肉の手触りに酷く灼かれて、それを味わう様に舌でなぞりながら、手ではそっと性器に触れた。
 「あ」
 驚いた様な声と共に、びくりと、土方の背筋と性器とが同時に震えた。逆向きだから解り辛いとは思ったが、自分でする時の要領を思い出しながら、銀時は指で輪を作って熱を持った幹を扱きはじめた。
 「やっ…、待て、まっ…ん、くぅ」
 慌てた様に身を起こそうとした所で、くに、と先端を擦ってやれば、悲鳴を堪えた土方の背が再びシーツに沈んだ。
 「ん、んっ、」
 口元を押さえて背を反らせて、逃げようとする腰を捕まえながら、銀時は密かに安堵しつつ愛撫を続けてやった。処理なぞ暫くしていなかったのか、早い内からしっかりと形を作って仕舞った性器が、それを隠そうとでもする様に藻掻く土方の様子が、それをここに表しているのが自分だと言う事が、堪らない興奮を生む。
 濡れ始めた先端を時折指で撫でると徐々に先走りが溢れてくる。その滑りを借りて指と性器との間を濡らしながら、押し潰さない様に扱きあげれば、はう、とも、あう、ともつかない声を漏らして、土方の足指がシーツをぎゅっと掴んだ。
 「ンッ、よろず、や…っ、んぅ、は」
 ぶるぶると震える土方の手が銀時の左肩を掴んだその瞬間、息を必死で整えようとしているその顔が泣きそうにぐしゃりと歪んだ気がした。
 その表情を見た途端にぞくりと背筋が粟立った。啼かせたい、思うさまに狂わせてやりたい、滅茶苦茶に押し流してみたい、そんな乱暴な衝動の侭に、銀時は根本まで辿った指で土方の陰嚢の下の張り詰めた部分をぐりりと擽ってやった。
 「ひっ、ん!」
 目を見開いた土方の背が跳ねた。銀時の肩を掴む手にぐっと痛い程に力が込められる。ぴくん、と性器が硬く張り詰め、先走りがこぷんと漏れて銀時の掌を更に濡らした。
 感じているのだ、と強く実感する。あの土方が、自分の手で性器を弄くられて、確かに性感を得ているのだ。
 ごくりと密かに喉を鳴らして、後は迫り上がった陰嚢まで余さず指と掌を使って弄くり回して、とにかく可愛がってやった。その度に上がる土方の泣きそうな声がぞくぞくと銀時の背筋を震わせる。片手が空いていたら自分のものも扱いて仕舞いたいくらいだった。
 「イきそ?」
 手の中の性器の脈動や土方の呼吸から、そろそろ限界かなと思って問いてみれば、土方は存外正直にこくりと頷いた。割と早い、と言うか、溜めていたなら仕方がないか、などと思う反面、自分の手管だからと思えば更なる愉悦に浸れた。
 「も、イく…っ、、ぁッ、」
 「ん」
 良いぜ、と言う代わりに、手の動きを早めて一気に扱き上げてやる。にちゅにちゅと濡れた音を立てる性器が震えて、土方は切羽詰まった顔で喉を喘がせながら大きく背を仰け反らせた。
 「んんんーーーッ!」
 声にならない声が喉奥から絞り出され、抑えた口で止められる。腰を突き出す様な姿勢になった侭で達した土方は銀時の扱き上げる手の動きに合わせて吐精した。
 矢張り溜まっていたのか、仕事で疲れていたのか、濃く粘ついた精液が、受け止める銀時の手を濡らして土方自身の腹にとろとろと滴り落ちた。量も結構多い。
 「んっ…、は……」
 なだらかな腹筋が痙攣する様に震えて、白い肌の上に白い体液を纏わせた侭、やがて土方の背はぐたりと脱力して落ちた。
 手の中の液体と、射精の倦怠感に包まれている土方の姿とを暫し見比べて、銀時はそれをこっそりと舐めてみた。想像していた様なニコチンやマヨネーズの味はしない。まあしたらしたで万国ビックリ人間ショーものだが。
 投げ出した片手でシーツをぐっと掴んで、もう片腕で顔を隠す様にしながら呼吸を整えている土方はそれには気付かなかった様だ。恥ずかしくて顔を上げられない、と言う状態なのだろう、その腹に散った精液を戯れに伸ばして遊んでいると、顔を覆った腕の隙間から覗く、抗議したいけど出来ない様な大層複雑そうな表情に出会う。
 「溜まってたみてーだけど……ヨかった?」
 この表情は不味い。先程もだが、あの気位の高そうな普段の顔を思い出せば、実に泣かせたくなる質のものだ。
 そんな衝動を呑み込みながらこそりと訊けば、
 「…ンなの、見りゃわかんだろ…訊くんじゃねぇ」
 と蚊の鳴く様な声が返って来た。
 取り敢えずちゃんとヨくしてやれた事に二度目の安堵を覚えつつ、続け様に銀時は、シーツの海に身を横たえている土方を横切る様に身体を伸ばして、ベッドボードの上にある、ゴムなどの入っているトレーから小袋のローションを探り出した。二袋ぐらい掴むと元に戻り、きょとんとこちらを見上げている土方の身体をぐるりと俯せに転がす。
 「っ!」
 腰だけをぐいと持ち上げられて、火照っていた土方の体温がざっと冷えた。俯せの方が多分土方には楽だろうし、なにより急ぎたかった。何せ銀時の下肢は先頃からずっとボトムの下で痛い程に張り詰めて存在を主張し続けているのだ。
 小袋の口を歯で切ると、中身を臀部にその侭垂らした。半透明の液体がとろりと割れ目を伝わって、その冷たさと不快感とに「ひ」と小さく土方の悲鳴が上がる。
 次いで掌から指までに袋の残りを全部出し切ると、精液とローションとが混じって酷く粘ついた指でそっと、引き締まった尻肉の狭間に慎ましく存在している孔をなぞり上げてみた。
 「ッあ!」
 惑乱に満ちた声と共に、土方の手が助けを求める様にシーツをぎゅっと掴んだ。先程までよりももっとずっと泣きそうな顔をしているのだろうか。見たいと思ったが、それよりも先に。
 乱暴にならない様に、銀時は指の腹でキツく閉じた襞をじわじわとゆっくりなぞった。ローションでふやかす様に、馴染ませる様に、何度も円を描いて指でぐいぐいと押しながら、じっくりとそこを愛撫していく。
 「んぅ、ッ、」
 指の腹に、襞がきゅっと窄まって閉じる感触が伝わって来た。泣きそうな声は「厭だ」とか「止めてくれ」と同質のものだろうとは思ったが、構っている余裕もなかった。銀時はぬちぬちと音を立てて孔の縁を指でそっとノックする様にしてローションを入り口に馴染ませてから、そろりと指先に力を込めてみた。
 「指入れっから、力抜いてろよ」
 「え、」と土方が戦くより先に、断りは入れましたとばかりに銀時は指の腹で閉じた襞を割り開いた。ぐっと指の先端が括約筋を拡げて、次の瞬間にはくぽりと飲み込まれる。
 「ひ、イッ、あ……!」
 びくんと肩が強張って、土方の頭が枕の上に沈んだ。綺麗な肩胛骨のくっきり浮き出た、撓んだ背中がぶるぶると震えて、シーツを握りしめる指は体内に異物を押し込まれた苦しさや違和感にだろう、真っ白に強張っていた。
 括約筋の収縮だけで、銀時の指は勝手に内部へと引き込まれて行く。その動きに逆らわずに暫く待っていれば、第一関節ぐらいまで潜り込んだ所で動かなくなったので、力が入りすぎない様に慎重に、指をぐるりとその場で回してみた。
 「あ、ぁ、、あっ……、や、」
 ローションのお陰か指がきちんと動いた事に安堵し、続けて体内を拡げる様に円を描いて指を回せば、ぐちゃりと濡れた音がして、入り口がきゅっと締まった。ひくひくと収縮して指をくわえ込んでいる孔は、正しく出口ではなく入り口の様だと思う。
 ぐるぐると指を少しづつ大きく回して行き、柔らかい肉と襞とで構成された体内を拡げる。この中に自分の性器をくわえさせる事が出来ればさぞ気持ちが良いのではないだろうかなどと逸った想像をしながら、銀時は一度指を抜けるギリギリまで引き抜いて、二袋目のローションを開けた。抜き出しかけた指の上にとろとろと垂らして、再び奥に、今度は根本まで探る様に突き入れる。
 「っひぁ、あぅ、」
 顎の下に枕を抱えた土方がびくびくと震えながらかぶりを振る。気持ちが良くて喘いでいると言うよりは、惑乱に満ちてどうしていいか解らない種の悲鳴の様だった。溺れる者が縋る藁の様に、硬くシーツを掴んで小刻みに全身を震わせている姿は、可哀想でもあり、もっと泣かせてみたくもなる。
 大きく体内を拡げて掻き回せば、粘着質な音が空気を巻き込んで酷く卑猥に響く。小刻みな土方の呼吸と相俟って、銀時は興奮した勢いの侭、二本目の指を添えて孔を拡げながら押し込んだ。
 「──」
 痛い、とか、止めろ、とか、多分そう言った類の悲鳴を土方が上げたが、聞こえないふりをして銀時はひとまとめにした指二本で体内を大きく掻き回して、ぐちゃぐちゃとローションの音を派手に立てながら指を出入りさせた。続けて三本目も同じ様に。
 知識では前立腺刺激だのと言うものが頭にはあったのだが、構っている余裕などもう無い。指三本が引っ掛かる事なく出入り出来る様になったのを確認するなり、銀時は指を抜くと前を寛げてギリギリまで張り詰めた自らの性器を引っ張り出した。蹴飛ばす様にして先走りで濡れた下着とボトムを脱ぎ捨てて、ローションの残りを余り刺激しない様に塗りたくると、膝立ちになって土方の腰を掴む。
 指を包んで震えていたあの柔らかな体内を思って喉を一度鳴らすと、銀時はいきり立った性器を手で掴んで、ひくひく震えている孔の入り口に宛がった。
 「ひじかた」
 余裕のない声に、みっともない、と思う。「あ」宛がわれたものの存在に泣きそうな声を上げる土方の姿に煽られながら、滑って上手く入らないそこに苦戦しつつも、何とか手で押さえて先端を孔の入り口に押し込んだ。もう片方の手では臀部を掴んで固定して、腰にじわじわと力を込めていく。ぐぬりと音がしそうな感触と共に銀時の先端が押し潰されて次の瞬間には熱い肉に包まれている。
 「っ」
 気持ちが良い、とそれだけで思いながら、放出したくなるのをぐっと堪えて、広がった亀頭を飲み込ませて行く。
 「ッ、あぐ、ひ、ぁ、、や、ぁあ…!」
 土方の全身が可哀想なぐらいに緊張で強張るのが解ったが、こんな一番拡げられた状態で止めるのはもっと酷だろうと思い、銀時は必死の収縮に堪えながら腰に一気に力を込めた。ずぶ、と言う音と擦り上げる様な感触と共に抵抗が弱くなったのは、一番太い部分が一番狭い場所を通り抜けたからだろう。後はその侭ずるずると全て飲み込ませて仕舞えば、先端が、幹全体が、柔らかい肉壁に包み込まれるのを感じる。
 「う、ぁ、あう、ひぅ、ぐ、」
 くぐもった悲鳴に混じって嗚咽の様な息遣いが聞こえて来た。本来は異物を排出する器官に異物を逆にねじ込まれているのだから、当然かも知れないが相当に苦しいのだろう。シーツを掻き寄せる土方は、必死で何かに堪える様に小刻みな呼吸を繰り返して震えている。
 「土方」
 どんな顔をして泣いているのか。その顔を見たくなって、銀時は土方の背中に覆い被さりながらその頤に手をやってみるのだが、唾液や涙でぐしゃぐしゃに濡れた頭を振って、土方は銀時の手から逃れようと藻掻くばかりだった。
 そんな動きや呼吸の度に、入り口が、体内が、きゅ、と銀時の性器を包み込んで来るのに思わず呻く。
 「……な、土方」
 黒い髪の隙間から覗く耳に、「お前ん中、スゲー気持ちイイ」と熱っぽく囁いてやれば、きゅう、と入り口が強く締まった。成程、こうすればいいのか、とどこかで頷きながら、銀時は土方の背中や肩のあちこちに口接けを落としてやった。とは言え、そんなものでは土方の全身の緊張はまるで解けそうも無かったのだが。
 好きで、堪らない。その事実が、性感以外の充足を手に入れて、腕の中に在る。
 支配したい、飲み込ませたい、啼かせたい、好きにしたい、甚振りたい、滅茶苦茶にして仕舞いたい、心ごと己の全てを受け入れて貰いたい。とても一方的で醜悪な、それらの感情は確かに、何度思い直しても情や愛としか言い様がないのだろうと多分、思う。
 「っあうぅ、?!」
 絡みつく肉を擦り上げながら性器をギリギリまで抜いて、また根本まで一気に押し込む。抜かれる動きが気持ち悪かったのか良かったのか、魚の様にびくびく跳ねた土方の腰ががくりと崩れたので、銀時は慌てて両手でその身体を抱え直すと、一旦性器を抜いてから仰向けにベッドに転がした。
 「ぁ、あ、あ…、あ」
 涙に濡れた綺麗な貌が惑乱に満ちて歯をがちがちと鳴らして震えている。その様に嗜虐心が煽られるのを自覚しながら、銀時はまだ拓かれた侭でいる土方の後孔に自らの性器を再び押し込んで、膝上にその腰を乗せた。僅かの動きだけでストロークを作って土方の体内をぐちゃぐちゃと掻き廻す。
 「っあ、あう、ぁ、ひぁっ、イ、ぃあ、ッ」
 本来誰も触れる事の出来ない、内臓の中に性器を突き入れて無遠慮に揺らしながら快楽を得る。痛みよりも感情的なものでなのだろうか、絶えず涙を溢し続けている土方の顔は酷く淫蕩に濡れていたし、先程達した筈の性器もいつの間にか形を取り戻しかけていた。『これ』で土方も同じ様に感じてくれているのだろうかと思えば、堪らなく嬉しくなった。
 「土方、」
 呼びかけながら揺さぶり続ければ、奥を突き上げられ、入り口を擦られ、前立腺を押されるその度に土方はその体内ごと痙攣する様に震えて啼き声を上げる。
 これが、単なる『女』の役割の孔ではないのだと、お前だからなのだと、言い聞かせる様に銀時は何度も土方の名を呼んで腰を揺さぶってより強い快楽を求めようと、与えようと動いた。
 「よろ、ずや、ぁッ、」
 「ん、」
 途切れ途切れの言葉に呼ばれて、苦しい体勢だが身を少し折って屈めたら、土方の手が宙を引っ掻く様にして銀時の左肩を辿々しい手つきで掴んだ。
 ──また、あの、泣きそうにも見える顔。
 罪悪感の様だと思う。土方の今必死で掴んでいる、そこに昔傷をつけたからだろうか?未だに薄ら白く残る刀傷は、大小多くの傷の残っている銀時の皮膚の上では寧ろ目立たない様なものだ。
 それがもしも土方のこの表情通りの『罪悪感』から出たものだとしたら、それは傷をつけた事そのものになのか、それとも、自分達の出会いのそのもの対してなのか。
 解らない。解らないが、今土方の爪がそこに新たな小さな傷たちを作るのは、酷く心地が良い。
 泣きながら。悦びながら。或いは、躊躇いながら?
 口から出掛かる何かの言葉を飲み込んで、その代わりに涙をこぼしているみたいで。
 「ひぁ、んッ、あ、あぁああ!」
 腰を奥まで押し込みながら、性器を扱いて一気に絶頂にまで追い上げてやると、全身をぴんと硬直させて土方は達した。勢いよく吹きこぼれた精液が腹の上に滴って行く中、きゅうきゅうと絞り上げられる感覚に、先端を押し込める奥の肉にぐりぐりと当てて銀時も上り詰めた。
 「ふ…、ン」
 結構な勢いと量とが土方の体内をひたひたに満たすのを感じながら、銀時は何度か胴震いして最後までを出し切った。若い頃の初体験以上にひたすらに気持ちの良い絶頂に、大きく息をつきながら目を閉じる。すると、息を切らせた、熱を孕んだ声が。
 「よろずや、」
 屋号で呼ばれるのが、土方にとって『そう言う』役割の存在の様だと何故か強く思えてきて。銀時は土方の両脚を思い切り抱え上げて、重なる様に身体を折りながら、その口を塞いだ。





ぬるいぇろ分のターン。…ヤってるだけじゃないかもう…。

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