Manufacture / 1 一日目: 銀時に指示される侭に、着物と下着とを脱いで土方はベッドに仰向けに横たわった。当の銀時は下着のみの姿で、透明なローションのボトルを片手に開いた雑誌に目を落としている。 「まずはリラックス、リラックスな」 覆い被さると無意識に緊張が抜けなくなるのを察してか、銀時は寝そべる土方のその横に胡座をかいて座った。掌にローションをとろとろと垂らすと石鹸でも泡立てる時の様に両手の間でしっかりと馴染ませ塗り拡げる。 「良いか?やっぱセックスってのは気持ちから入るもんだから、緊張してると体にもそれが出ちまうんだよ。怖ェ事も痛ェ事も無いと思って、部屋でテレビ観て寛いでる気分になってみ?」 「こ、わくはねェし、緊張してるつもりも無ェんだが…、」 「いやしてるから。はいはい力抜いて深呼吸ー」 問題の雑誌から読み取った知識なのか、何やらしたり顔でそう説教する様に言って来る銀時の姿を視界の端に入れながら、土方は深呼吸と言うよりは溜息を吐いた。そうしてみると肩の力が抜けるのを感じて、自分でも意識せず力んで仕舞っていた事に気付かされる。銀時の指摘通りであった事は酷く癪だったが、怯えていると取られるのはもっと腹立たしかったので、何でもない素振りを決め込む事にした。 「そうそう。その侭力抜いてろよ」 「っ」 言うなり銀時の、ローションで濡れた手が胸の上に置かれて土方は抜きかけていた力をびくりともう一度入れて仕舞う。 「力抜けって」 辛抱強く繰り返すと、銀時はぬめる指の腹で土方の乳首に触れて来た。押し潰したり摘んだりはせずに掌と指の腹とを使ってやわやわと撫でさする様な手つきだ。 「待て、んな所関係無ェだろ…!」 「いやいや関係大ありなんだってこれが。言ったろ、気持ちから入るんだって。前戯から気持ち良い方が、いざ本丸って時も全然違うからね」 戯れ程度ならまだしも、女の様に乳首を弄くり回されるのは流石に恥ずかしく思えて来て、土方は身を捩って抗議をするのだが、その動きを制しながら言う銀時の表情はからかったりする時のそれでは無く、先頃開発とやらを迫った時の真顔に近いものがあった。 「じっとして、俺の手の動きだけに集中してりゃ良いから」 仕方なく土方は目を閉じて銀時のしたい様にさせてみる事にした。直視しているとなんだか酷く恥ずかしかったからと言うのもある。 土方からの抗議や抵抗が消えた為か、銀時はローションで滑る指を巧みに動かして調子づいて乳首を弄り始めた。くすぐったかったりぬるぬるしているだけの不快感も、一度目を閉ざして仕舞えば何か得体の知れない触感の様に感じられて、土方は困惑する。 「…ぅ、っん…、」 滑る指に摘み上げられ、こよりの様に転がされる。かと思えば固くなった尖端を爪の先で突かれて、ぴりっとした痛みにも似た鋭い感覚が腹の中を走った。 そうして暫くの間銀時の手は、ローションを足したりしながら土方の乳首を弄り回し続け、気付いた時には土方の息はすっかりと上がって仕舞っていた。 セックスと言うのは気持ちでする、と言う銀時の言い分も強ち間違っていなかったらしいと忌々しく思いながら、土方は緩やかに形を変えている自らの性器をそっと見遣って顔を紅くした。目を閉じている間、己の乳首にあれこれと刺激を与えて来ている銀時の指が、表情が、どんな様子でいるのかを考えていただけで、悔しくもこの有り様だ。 どの道協力的ではなければセックスは疎か開発だか何だかも成り立たないのだ。土方は諦め混じりに息を吐き出すと、腰を揺らして銀時へと己の状況を訴えた。 「ん。ちゃんと気持ち良くなってくれてるみてェで良かったわ。その侭リラックス継続してろよ?」 すれば、そんな土方の様子にはとうに気付いていたのだろう、銀時は満足そうに頷くとローションに濡れた手を土方の胸から離した。その手で扱かれたら気持ちが良さそうだと反射的にそう思った土方の熱は、然し次の瞬間ひやりと冷めた。横から移動して土方の足の間に陣取った銀時の手が、その滑る手で尻肉に触れたのだ。 「──っ!万事、屋…、」 過日の痛みと苦しみを思い出して身を強張らせる土方に「大丈夫だから」と軽く投げると、銀時は強張ったその膝を割った。軽く内側に押し遣ると、もう一度ローションの瓶を傾けて自らの手を満遍なく濡らす。 「痛ェ思いさせたくねェから、おめーも協力して」 そう言うなり、銀時の指が──と言うよりは大量のローションの感触が竦んだ土方の後孔へと触れた。 協力ったって何すりゃ良いんだ、と叫びたかった抗議は舌先で止まった。答えを聞いた所で恐らくそれを実行する余裕など全く無い。 土方の臀部に軽く掌を当て、がちがちに強張って閉じかかる足を牽制すると、銀時は滑る指を固く閉ざされた後孔の上に滑らせた。何度も上下に移動して、円を描く様に孔の縁をゆっくりとなぞり続ける。 「は…、」 銀時がその動きを辛抱強く何度も続ける内、土方の緊張に強張った体は徐々に落ち着いて来た。とんでもない所を愛撫している指にまだ恐怖や羞恥は残っているのだが、ひとまず触られているだけでは痛くないし銀時にも無理に押し入るつもりは無さそうだと判断し、土方は何度か深呼吸を繰り返した。緊張している間は呼吸をまともにする事さえ忘れていた様だと気付けば、怯えていた事を見抜かれただろうかと思って居た堪れなくなる。 緊張に萎えて仕舞った性器はその侭だったが、落ち着く様に深く呼吸を繰り返せば段々と愛撫されている箇所への集中を思い出す。乳首の時と同じで、指の動きを意識していれば良いのだろうか。 「どう?」 「どう、って…」 考えていたら丁度そんな事を問われて土方は自らの足の間に視線を遣った。と、こちらを見ている銀時と目が合う。そこに在ったのは、だらりと開いた脚の間で萎垂れている自らの性器と、直接見えはしないがローション塗れの指で弄くられているのだろう後孔。酷く羞恥心と屈辱感とを煽られる光景だった。 「気持ち良いとか悪ィとか」 くに、と少し指が力を込めて後孔を押した。反射的に括約筋を窄ませその侵入を拒んだ土方は、頭をかっと熱くした事を誤魔化す様にぶんぶんとかぶりを振る。 「わかん、ねェ。けど…、こそばゆい、って言うか、その」 答えながら、一体何の羞恥プレイだと思って土方はそっぽを向いて無理矢理に言葉を打ち切った。それでも別に構わないと思ったのか、「ふぅん」と頷いた銀時は、指を後孔の窄まりに当てた侭ローションを再び足した。少しひやりとした感触に土方は目を眇める。 と、先程と全く同じ感覚がそこでした。銀時の指先が固く閉じた窄まりを押している。 「──ッ、よろずや、」 「大丈夫だから」 咄嗟に出た咎める様な縋る様な声は淡々とした銀時の声で遮られ、次の瞬間には後孔に押し入る指の圧迫感を感じて、土方の口から「ひ、」と噛み殺す事に失敗した短い悲鳴が漏れた。 「大丈夫だから」 もう一度そう繰り返され、土方は強張る己の体と後孔を押し拡げる力とに戦慄いて目を閉じた。前回はこうして固くもっと大きな質量を押し込まれたのだったと思い出せば、腰から砕けて仕舞いそうな恐怖をも思い起こさずにはいられない。 「土方、開け。解るか?出す時みてェにして、ここを少ぅし開けば良い」 指先を、押し出そうとする力と拮抗させながら言う銀時の言葉に土方は混乱した。 「だ…ッ、だって、出、」 「だから大丈夫だって。ちょっとだけ力入れて開いてみ?」 孔をこじ開けようとする指に異物感を憶えている土方の体は、意識して強張って竦んでいる。この状態で銀時の言う様に力など入れたら、粗相をして仕舞う様な気がしたのだ。 「っう、…ん、ん!」 大丈夫だと再三銀時に促されて、土方は恐る恐る括約筋に力を込めた。と、ローションを纏った指先がぐぬりと、今までの固い抵抗を嘘の様に容易く押し拓いて入り込んで来た。驚いて再び孔が窄まり、きゅう、と銀時の指をそこで食んでいる感触に気付いて土方は目を見開いて戦慄いた。 (何、だ、これ、) 力を入れるとそこは指を柔く受け入れるが、同時に出して仕舞いそうな危うさがある。だがそれが怖くて身が竦めば、今度は押し込まれた銀時の指が圧迫感と存在感をそこで主張するのだ。力をどう入れて良いのかどう抜けば良いのかが解らず、土方は括約筋をひくひくと動かしながら銀時の指にただ翻弄される事しか出来ない。 「そうそう、上手上手」 木偶の様に強張って硬直して仕舞っている土方に軽く言いながら、銀時は指をそれ以上は無理に動かしも押し込みもせずに居る。お陰で土方は違和感からも圧迫感からも逃れる事が出来ずにただただ困惑した。 「これで第二関節までぐらい。どう?痛ぇ?」 「わ、わかん、ね…っ」 どう動いても銀時の指をそこで感じて仕舞う。それが怖いし気持ち悪いのに、解放しては貰えない。 「今日は取り敢えずケツの違和感に慣れるだけな。これ以上何もしねェから、さっきみてーにリラックスしちまえ」 出来るかァァァァァ!!と心の中で絶叫しながら、土方は無理矢理目を閉じて息をついた。酷い無体を強いられている訳でも無いのに、無理だとかやめてくれとか泣き言を言うのは負けず嫌いの己の性分には実に癪だった。こんなの座薬を入れられてる時の様なものだ、と殊更に色気無く思う事で残留して消えない違和感に堪える。 はぁ、と吐き出された息は思いの外に湿っていて熱い。土方は再び力を取り戻しかけている己の性器に意識せずとも気付いて、気まずく視線を游がせた。足を開いて銀時の指を呑み込んでそれに容易く翻弄されている己は、きっと酷くはしたない生き物になって仕舞っているのだと思う。 そんな土方の内心に気付いているのかいないのか、銀時は土方の後孔に指一本を突き入れた侭、首を擡げて傍らの雑誌を見ていた。そうしてやおら振り返ると、 「心の中で手前ェの置かれてる状況を客観的に実況したり、エロい言葉を口にしたりすると良いらしいな」 「……良いって、何が」 「だから、気分てやつ?高めるのに良いんだとよ」 そんな豆知識だか何だかをしたり顔で説明されても、土方は正直どう反応したら良いのか解らない。眉を寄せる土方を余所に銀時は構わず続ける。 「例えばー…、『銀時のぶっといチ●コでお尻の穴ずぽずぽしてぇ…っv』とか、言ってみ?」 「言うかボケェエエエエ!!」 思わずフリーだった足で顔面を蹴り付ければ、銀時は蛙の潰れた様な声を上げて黙った。 * まずは一日目だから。初日だから。何事も最初が肝心だから。 そう己に言い聞かせながら何とか土方を『開発』に同意させる事に成功した銀時は、想像以上に上々だった手応えに大いに満足していた。 取り敢えず雑誌の「初めてのアナルセックス」と言う局地的にしか役立ちそうもない記事を読みながら見様見真似で慣らし手順を行ってみたのだが、そこで気付かされたのは土方の結構な感度の良さであった。肉体的な感度もだが、それよりも主に精神面での没入の良さと言うか。 また痛がったり苦しがったりするだろうかと言う不安はかなりあったのだが、ローションでふやける程にほぐした成果もあってか、銀時の指一本をくわえてその感触に感じて僅かとは言え勃起させて仕舞っていたのだから、正直驚かざるを得ないと言うのがまず最初に得た感想である。 となると、前回どれだけ己が手前勝手に事を進めてしたのかと身につまされ、銀時は少々反省した。最早意味の無い反省でしかないが。 一本だけの指は到底銀時の一物のサイズには及ぶべくもない。それを先っちょ半分程度。ひくひくと括約筋を収縮させてそれをくわえた土方の後孔は、餓えた性器か道具かとしか言い様の無い動きで銀時の指にしゃぶりついては絡みついて、その存在を受け入れ悦んでいた。 異物感に慣れなくて困惑していただけの反応とは言え、あんなものを目前で見せられたら堪らない。どうして指なんだよと思わず己に落胆して、今にも暴走して本番、と行きたくなるのを銀時は必死に堪えねばならなかった。 結局、指一本を甘く食んで感じている土方の性器をその侭扱いてイかせる所で今日の手順は終了と言う事にした。正直これ以上ナマゴロシと言うのは勘弁願いたい。 ともあれこれで大分土方も後孔に対する抵抗感が消えた筈だ。思いの外最初から調子も良かったし、次回からもっと思い切った事に進んでも良いかも知れない。 手にしていた雑誌を厠の床に投げ置くと、銀時は寝室に寝かせて来た土方の姿を──正確には先程までの痴態を思い出して自らの性器を扱いた。最高のオカズが出来たのは良いが、土方の『開発』が終わるまではこうしていちいち自家発電をしなければならなさそうな予感には溜息をつかざるを得ない。ラブホテルに恋人とやって来て、一人厠で抜くとかあんまりだ。次回はなんとかこちらも美味しい思いが出来る様に考えてみる必要がありそうだ。 まあ然しなんでかんで言って、矢張り好きな相手を自分好みに育てる、ないし、相手の知らぬ全てを教え込む、と言う事には浪漫が付き纏うものだ。 銀時は薄く笑みながら、早いところ目的を達成させようと手の動きを早めた。 。 ← : → |