Manufacture / 3 三日目: 「っあ、あぅ、ぁ、」 断続的に響く湿った声に、銀時は頭と下肢とに集まる血を自覚しながら息をついた。全く、なまじ『開発』などと宣って仕舞ったのが仇になった。今更それを反故にして圧し掛かった日には後から気まずい事この上ないだろう。 後で抜いてやるから、と猛る愚息に言い聞かせながら、銀時は目前で繰り広げられている光景を出来るだけ無慈悲な観察者の目で見下ろした。 いつものラブホテルの変わり映えのしない室内。艶のある安っぽい白いシーツの上で悶えているのは女ではなく男の肢体だ。とは言ってもそれは愛でて弄ぶに適した未熟な少年の身体ではなく、しなやかに鍛えられた成人男性の肉体だ。無駄な贅肉を持たぬ、幾つもの疵痕を身体のあちこちに残した実に獣の実用性に特化した身体。 その身体は今、戦いの時の鋭さを失い果てて弛緩している。そうさせているのは大きく開かれた脚の間、濡れててらてらと光る後孔から文字通りに生えている緩く湾曲したローターの存在だった。太さは土方がいつも吸う煙草程度しかない、細いものだ。 そのローターの齎す振動に、土方は湿った喘ぎ声をひっきりなしに上げ、びくびくと足で宙を蹴り、腰をもどかしげに震わせては感じ入っている。 ローターの、外に出た部分が時折がくがくと大きく震えて、土方がそこで得ている性感の強さを表していた。 正直目覚ましい成果だと銀時は舌なめずりをせずにいられない。気分だ何だのと言いくるめて精神的な部分からの陥落を狙ったのが効いたのかも知れない。よく土方の事をドMだなんだとからかってはいたが、この分では本当に『そっち』の才能もあるのではないだろうか。 「土方」 「ひ…ィ、あ!」 甘く聞こえる声で囁きながら、両方の乳首に前回用いた吸盤状のローターを貼り付けてやってスイッチを入れれば、土方は身体を大きく仰け反らせてシーツに背中を沈めて、ぶるぶる震えている足をもどかしげに暴れさせた。 はぁはぁと呼吸を荒らげ、時折薄目を開いて己の置かれた状態を確認しては、それに堪えられぬとでも言う様に目を伏せる。そんな土方の様は不慣れな処女か何かの様にも見えて何処か滑稽ではあったが、銀時の胸には常には憶えの無い感慨が宿る。 何か一つの目的の為に研ぎ澄まされ削がれたものは美しい。だから土方と言う男はその心もその為に存在する肉の身体も綺麗なのだ。疵を負おうがその身を無様に暴かれようが、そこだけは変わりようが無い。 もしもそれがただ愛でる為だけに存在する肉であったら銀時は忽ちに飽いて仕舞っていた事だろう。これは飽く迄、どんな有り様になろうがどんな美味として供されようが、その芯だけは変えようの無い一人の侍なのだと知れる男だ。 だから銀時はいたく満足していた。肉体を同性に捧ぐ目的につくられたのではない身体を、存在を、今こうして己が好きに穢して形作ろうとしていると言うこの事実に。 胸に沸き起こったのは、愛おしみたいと言う狂おしい程の熱情と、他の何にも代え難い満足感と充足感。凶暴に荒れそうになる獣の感情でさえも大人しく尾を垂れて待つ様な、銀時はこんな感情を今までに味わった事は無かったし、これからもそうは有り得ないだろうと思った。 「……ぁ、」 ローターの振動を一旦止めてやると、土方が薄く涙の膜を張った目を開いた。同時に、物足りなげに出た声に自分で驚愕し口を押さえる。 「ずっと振動させてっと痺れて感覚が鈍っちまうんだと。何事も程々が大事って事だな」 「……」 銀時の言う宥める質の説明に、土方は顔を紅くした侭余所を向いた。動きを停止させたローターをもどかしく感じて仕舞った己に対してか、今にも舌打ちせんばかりの表情を作って胸を上下させながら呼吸を整えようとしている。 今更なのに、と思いながら、銀時は土方の後孔から生えたローターを摘んだ。「もうちょい奥まで入れるな」とお座なりに宣言すると指の腹を使って、振動を止めているローターを後孔の中へと進めた。 「──っ」 息を呑む土方だったが、前回までに教えた通りに、異物を拒まず受け入れて吐き出さない様に心掛けている様だ。拒んでいると逆に苦しいらしいので、それに気付いただけかも知れないが。 「暫く開け閉めしてろ」 そう言い放つと銀時は押し込んだローターに指を当てた侭、逆の手を伸ばして用意して来た別のローターとローションとを手に取った。それを近くに置きながら視線を戻すと、ぎゅ、と目を瞑った土方が括約筋を必死で動かしている様子が解る。呼吸を乱し時折小さな声を漏らしながら、孔の口を締めては弛ませ蠢かせているその様子からも、どうやら土方は孔の入り口(と言うか出口か)の感覚をもうしっかりと快感として得る事が出来ているらしいと知れた。 (まあ入り口は神経が過敏らしいしな) 件の雑誌の解説や何処ぞの痔持ち忍者の痛苦にまみれた発言を思い出しながら、銀時は後孔のローターを押し込んでいた指をそっと離した。緩く湾曲したローターはひくひくと筋肉の収縮に合わせ緩やかに揺れている。 「また動かすぞ」 お座なりに言うなり、返事を待たずにローターのスイッチを入れた。「──!」途端、声にならない悲鳴を上げて土方は開かれた膝をがくがく震わせる。先頃よりも深い場所での振動に感覚が追いつかないのか、戦いた目が銀時の方を見る。 「……、」 そこにあったのは怯えか期待だったのかは解らない。だが銀時の背筋はぞくりと興奮に粟立った。がくがく揺れながら飛び出しているローターの尖端を再び掴むと、それで土方の後孔を掻き回してやる。 「ひンっ、あ、ぃ、あッ!!」 ばたばたと暴れる片足を捕まえて押さえると、ローションで粘つく孔の、内壁の抵抗を振り払う様にしてローターをぐりぐりと動かし掻き混ぜ押し上げる。すると土方の喉は泣き声じみた声を上げ、腹に貼り付いた性器はぴくぴくと震えながら先走りを溢して揺れた。 「どこらへんが気持ち良い?」 「っあ、あッ、んんッ、!」 陸に揚げられたばかりの鮮魚の様に跳ねる土方の肢体をシーツに強く押しつけて、銀時は圧し掛かるにしてその顔を覗き込んだ。固く瞑った目からいよいよ涙の筋を落として頭を打ち振るうその姿は、酷く無防備だった。その事に笑みを益々深くしながら、銀時は指よりも細い細いローター一本で土方の身体の一番強い性感を探り拓いて行く。 「そこ、そこォ…ッ、っそこ、や…ッ!」 「このへん?」 そこ、と言われても振動するローター越しでは具体的にどこかなど解らなかったが、恐らく土方のこの強烈な反応は前立腺だと思われた。しっかり開発しないと易々感じる部位にはならないと雑誌には書いてあったのだが、この前立腺刺激用の玩具が上手いこと働いてくれたのだろうか。 はぁはぁと犬の様に舌を出して喘ぐ土方の手が、もどかしげに自らの性器を掴もうとするのに気付くと、銀時はその手を制して先頃取りだした別のローターを取り上げた。 「大丈夫、ちゃんとイかせてやっから」 手を押さえられる事で、早く達したいと言う願いを遮られた土方の向ける批難めいた顔に、そう笑みを添えて宣言すると、銀時はうずらの卵を二回り小さくしたぐらいの大きさをしたそのローターのスイッチを入れ、土方の会陰へと押し当てた。 「──ッああ!」 反応は早かった。振動するそれを使って軽く会陰から持ち上がった裏筋の方まで辿る途中で、土方の性器は勢いよく精液を吐き出し達した。 「…ぁ、あ…、あ」 反らせた喉を震わせて絶頂感に目を細める土方の様子を確認すると、銀時は性器に当ててやっていたローターを離した。続け様、後孔でまだ振動を続けるローターを無造作に引き抜くとぽいと放り捨てる。 その刺激にも感じて声を上げる土方の姿を見遣ったのは寸時。銀時は卵形をしたローターを、異物を吐き出したばかりの後孔に宛がうと、何の躊躇いもなくそれを指で押し込んだ。 「え、ぃッ、あ、?!」 消えたと思ったら戻った新たな刺激に、土方は見開いた目を白黒させる。銀時は、すっぽりと卵形のローターを呑みこんだ後孔を満足げに見遣ると、そこから生えたコードを軽く引っ張った。 「ひ、!」 つぷ、と一瞬だけ出掛かったローターが括約筋の収縮で吸い込まれる様に戻る。土方は厭だと言う様に何度もかぶりを振りながら銀時の顔を見上げた。 「ど?」 「っぬい、抜いて、くれ…ッ、やだ、これ…っ!」 感想を聞けば勢いよく拒絶が返り、銀時は眉を寄せる。どうやらローターの形状の所為で奥まで勝手に入り込んで仕舞っているらしい。コードをくわえた括約筋が悲鳴でも上げる様にぱくぱくと喘ぎ動いている。 「気持ち良くね?」 「…っ、イった、ばっかだから、辛ェ、」 「……成程?」 はぁはぁと整わない呼吸で訴えると、土方は足を開いて後孔への蹂躙からの解放を促して来る。性器は本人の言う通り達したばかりでまだ兆しそうには無かったが、その近くでずっと強制的な振動が続いているのも矢張り辛いのだろう。銀時は理解を示し頷くと、コードを指先で弄びながら言う。 「じゃ、コレ出してみ?自分で」 「え……?…、まっ…、無理、無理だ…!」 数回瞬きをした土方は自らの下肢を見て、それから銀時の指す所の意味に気付いたのか、羞恥と憤慨との狭間で苦しげに表情を歪めて懇願を寄越した。然し銀時はそれを無情に斬り捨てる。喉奥で感じた愉悦をその舌先で楽しみながら。 「無理ならこの侭ってだけだ。やってみ?出来るだろ、普段クソしてる時みてェにするだけなんだし」 あからさまな揶揄に土方は耳まで紅くしてぶるぶると震えながら俯いた。排泄ではないが排泄と同じ事をしろと言う銀時の指示に、抵抗したい気持ちはきっと山とあったに違いない。常識とか理性とか自尊心とか、きっとそう言うものは易々捨て難いぐらいには土方の裡に根付いている。 「う…、」 然し体内で動いているローターから逃れるにはその辱めを甘んじて受けるしかない。何十秒もの葛藤の末、土方は眉間に皺が寄る程に目を固く瞑ると、震える息を吐き出した。精液を散らした腹がぴくりと何度か動き、少しすると後孔に寄った皺を掻き分ける様にしてローターの尖端が姿を見せる。 ふ、と銀時は笑うと、軽くコードを引っ張った。「ひ、」息を呑む音と同時に、吃驚した括約筋が再びローターを奥まで呑み込んで仕舞う。 土方はぶるぶると震える手でシーツをキツく握り締めた。くそ、と小さな呻き声を吐いて、再び時間をかけて振動するローターが出て来る。が、卵形のそれの先の方がなんとか出てもそれ以上はなかなか進まないのか、いきんでいた力が抜けるとまたローターは中へと戻っていく。喘ぐ様に開いて閉じる後孔は何だか未知の生物じみた生々しさを纏った卑猥な様で銀時の目を楽しませた。 「むり、…っよろずや、もう、無理、」 ひぐ、としゃくりあげる様な声と共に土方はいよいよ根を上げた。もう振動で括約筋に力が入らないのか、ローターは中へと潜り込んだ侭姿を見せようともしなくなっていた。 「……仕方ねェなあ。そんな気に入った?コレ」 「っちが、」 つんつん、とコードを軽く引きながら言うと、銀時は手で握り込んでいた、コードの少し先にあるもう一つのローターを手にした。このローターは土方の体内に今ある卵形の一粒だけではなく、一定の間隔を置いて六つの、サイズのそれぞれ異なった卵状のローターの連なった、アナルパールにもなる玩具なのだ。 我ながら意地悪い笑みを浮かべている、と自覚しながらも、銀時はローションを纏わせた二つめのローターを震える土方の後孔へと押し込んだ。 「──〜ッひァ!?」 びく、と目を見開き背を反らす土方の、恐怖と惑乱とに震える顔を楽しみながら銀時は立て続けにローターを土方の体内へと詰めていった。四つ目の、今までのものより少しサイズの大きいものが入り込んだ所で土方は己が今どう言う状態に置かれているのかを理解したのか濁った声の悲鳴を上げて泣いた。厭だ、やめてくれ、と頻りに繰り返して銀時へと許しを乞う。 「コレは嫌い?」 問えば、「きもち、わり、ッい、」と、喘ぎの合間に切れ切れにそう訴えて来る。腹の上で揺れる性器はまた少し勢いを取り戻しかけてはいる様だったが、快感よりも怯えの方が勝って見えるこれは、寧ろ感情的な反応なのかも知れない。 (まあ腹ん中で好き勝手に振動してるってのは気持ち悪ィって思えるのかもな) そっと土方の下腹に手を当てれば、内部に細かい振動があるのが僅かに伝わって来る。直腸の中一杯に、四つの小さな振動する球っころを抱えている気分など銀時には解る由も無かったが。 「気持ち悪い?厭?」 問えばがくがくとした動きで頷きが返り、涙が土方の耳の横を伝って落ちた。仕方ないなぁ、と態とらしく溜息などついて言いながら、銀時はコードを掴む手にそっと力を込める。 そうしてやおら、何の予告もしないで思いきりコードを引いた。後孔が一瞬ぐっと拡がって、うずらの卵ほどの大きさのローターがちゅぷんと音を立てて飛び出す。 「〜〜〜ッッッ!!」 土方の背が弓なりに反って、はひ、と息と唾液とを吐いた唇が戦慄いてそして脱力した。然し銀時はその土方の油断を嘲笑う様に、出したばかりのそれを再び後孔へと押し込んでやる。 「へぁッ!?」 悲鳴には紛れもない快感の色が潜んでいる。それを示す様に、土方の目は焦点を失って宙を游いで、足はがくがくと無意味にシーツを引っ掻いた。ごくりと口中に湧いた興奮を呑むと、銀時は押し込んだそれを、今度は更に力を入れて引き抜いた。 「っひ、あぁ、あッ、あぁーッ!」 一つ飛び出し、続け様にもう一つ小さなものが蠢動しながらくぽんと音を立てて飛び出す。三つ目は後孔の口で一旦止めて、再び指で一つ一つローターを押し込んでやる。一個、二個と個数を変えて幾度かそんな抜き差しを繰り返してやれば、その度に土方は身も世もなく泣き喘いで身体をがくがくと痙攣させた。 「あ…、ぁ、あぁ、ああ、あ…、」 焦点の定まらない目が愉悦に溺れて揺れる。続け様に与えられる半ば強制的な快感に最早土方の意識は飛びかけている様だった。性器は腹につくまでに持ち上がって、腹の上に小さな水溜まりを作って震えている。 く、と歯を軋らせ、銀時は咄嗟に自らの性器に手をやった。幾度か扱けば達する事が出来る事を判断すると、体内に入れていない最後のローターを握って震える土方の性器に直接当てた。びくん、と土方の腰が踊る様に跳ね上がるのと同時に、後孔から出ているコードを引いて残り四つのローターを一息に引き抜いてやる。 「あッあぁぁ、ぁああああ!」 くぽんくぽん、と次々抜けるローターと、性器を直接震わせるローターとの刺激に鋭く砕ける様な悲鳴を上げて、土方は背を反らし腰を突き出す様にして果てた。銀時は、強すぎる快感に、がくん、と腰を崩れ落としながら陥落した土方のそんな姿を見下ろしながら己の性器を最後まで一気に扱き上げた。呆けた様になって半開きの唇を戦慄かせている土方の顔に乗り上げる様にして跨ると、射精の悦楽と解放感とにぶるりと背を震わせる。 勢いよく吐き出された精液がねっとりとした糸を引いて土方の顔面へと滴るのを見ると、その愉悦と満足感とに荒い息をついて、性器の尖端を軽く頬に擦りつけ拭うと身を離す。精緻な造作の顔をあからさまな男の欲望で汚した土方の顔は、日頃の鋭さを表情筋から失ってただだらんと溶けていた。その意識は軽く飛んでいるらしく、時折身体をびくびくと痙攣させるばかりで、何か人間らしい反応を見せる気配は無い。 酷い事を強いているのだろうと今更の様に罪悪感に似て思う気持ちは確かあったのだが、それよりもこの愉悦と愛おしさを今更手放せる気はまるでせず、銀時はだらしなく快楽に堕ちた土方の顔を優しく撫でてやると、重たい前髪を除けてその額へそっと唇を落とした。 。 ← : → |