Manufacture / 4 四日目: もうあんな玩具で遊ばれるのは厭だ、と。土方はいつものラブホテルの部屋に入るなりそう言って、それから口にした事を躊躇う様に気まずそうな様子で僅かだけ目を伏せた。 それは、いつも大体ずけずけと物を言う気性の男にしては珍しい態度であると言えた。 珍しかったからこそ、銀時は直ぐ様にその理由に思い当たり、得心を旨味として舌の上に転がした。 恐らく土方には負い目があるのだ。いつぞやの『初めて』が上手く行かなかった事について、『開発』などと宣った銀時を拒絶しなかった。その時点でそれは半ば明かな事であったが確信までは今ひとつ足りなかった。 だが、この土方の態度でその意味を確実な答えとして得る事が出来た。土方は銀時に対して易々拭い難い『負い目』を憶えているのだ。この『負い目』がある以上、土方は当人の負けず嫌いな性格もあって、自分からは「もう止めたい」とは決して言い出さないだろう、と。 「オモチャって、前回のローターとかアナルパールの事か?」 「………他に何があんだよ」 さらりと言う銀時に、土方は苦虫を呑み込めず口中に持て余した様子で頷いた。まあ確かに前回はいきなり少しやりすぎたかなとは銀時にも思う所があったのだが、それもこれも次々与える行為に対して土方が余りに敏感に──もとい奔放に感じてくれたからの事である。好意を寄せる相手に目の前であんな痴態を見せられたらそりゃあ色々堪えてる成人男子なのだ、堪らなくなるのは致し方あるまい。 「んー…、」 さて困ったぞ、と銀時は考える。前回あれだけの事をしでかしたので、今回はもっと過激な事にも挑めるかも知れないと考えて色々とプランを立てていたのだが、真っ向から厭だと言われているのにそれを無視して押し通すのも少々問題だろう。 今の土方には、まだ自分が銀時と真っ当にセックスが出来ておらず、そればかりか『開発』の名目で自分ばかり快感を得ていると言う現状に対する負い目がある為に、口では厭と言おうが銀時が強く押せばそれに逆らう事は多分無い。 だが、それは何でも我侭が通ると言う訳では決して無い。もしも土方の許容範囲を超えるだけの事を銀時がしでかせば、基本的に短気なこの男は負い目や申し訳の無さを呑み込んで猛反発するに違い無い。そもそもの『負い目』と言うのも本来土方が感じる様な事では無いのだと気付いて仕舞えば、この『開発』計画は疎か、もう二度と銀時とセックスなんてしないと開き直りかねない。 それは勿論銀時の望む所では無い為、ここは土方が『負い目』を感じて下手に出てくれている内に、余り無理は言わずに然し一気に押し流すのがベストだろう。 よし、と方針を決めた銀時は取り敢えず当初の予定通りに、此処に来るまでに買った今日の玩具(道具)の一つである所のバイブを取り出した。男性器を摸した形状のそれを目にして、土方が警戒心を顕わにする。 「だから、もうそう言うのは、」 「って言ってもさ、お前本番になったら銀さんのをブチ込まれる訳じゃん?憶えてると思うけど、俺のはこんなバイブよりデカいからね?またいきなりそんなの突っ込まれたらおめーが苦しいだろうって言う気遣いだよコレは」 通常の男性器より一回りぐらいは小さいが、その表面には小さな突起がアレコレと生え、根元には重たいモーター部分が付いていて見るからに凶悪そうだ。そんな物体を鼻先でひらひらと揺らしながら言われて土方は鼻白んだ。視線が銀時の股間とその手の掴むバイブとの間を二度往復してから俯く。解り易い反応なのは結構だが、まだ臨戦態勢にすら入っていない代物と比べるのは止して欲しい所である。 とは言え初めての時に、慣れや知識がお互いになかったからとは言えかなり苦しそうにしていたのだから、土方の記憶に銀時の一物は相当な存在感を以て刻まれているに違いない。幾らここ三回の『開発』で後孔を開かれる事に大分慣れたとは言え、易々その苦痛の記憶を払拭するには至らない筈だ。 気遣い、と言う銀時の言い種もあって、土方の口から拒む類の言葉がそれ以上出て来る事はなかった。 「本番前の慣らしだから。な?スイッチ入れなきゃこんなんただの張り型だし、それで良いだろ?」 「…………」 卑猥な形状の物体でぺちぺちと頬を突けば、土方はそれを鬱陶しそうに手で払いながらも、観念した様に頷いた。得たり、と笑いたくなるのは堪え、銀時は「じゃ、早速始めよっか」と言うなり、ローションのボトルをバイブに向けて傾けた。 そんな露骨な様に土方は目元を紅くして溜息をひとつ吐くと、いつも通りに着物を脱いでベッドに横たわった。覚悟も準備も出来ていると言わんばかりの、そんな土方の事務的な慣れ様に然し少し不満を憶えた銀時は軽くかぶりを振って言う。 「今日はモノがデケェからバックからにするか。そこに四つん這いになって」 「え」 寝台に背を預けた土方が困惑の声を上げる。「早く」銀時がもう一度促せば、のろのろと起き上がってシーツに手をつき、そこで取らされる姿勢の屈辱的な有り様に気付いたのか、座った侭なかなか尻を持ち上げようとはしない。 まあ土下座みたいなもんだしな、と思いながら銀時は手にしたバイブにたっぷりと纏わせたローションを更に手で伸ばして馴染ませた。派手な色彩をした卑猥な器物がぬらぬらと濡れ光る様はそれだけで酷く嫌らしい。自尊心の高さで四つに這う事ですら躊躇う土方に、動物の様なその姿勢を取らせこの道具で思う様に泣かせる事を想像すれば、それだけで銀時の脳は興奮に熱を孕んだ。 「早くしろって」 もう一度、少し苛ついた様に言えば、土方は、ぐ、と奥歯を擦り合わせて表情を歪めながら、膝をついてゆっくりと腰を浮かせた。そこでベッドの正面にある鏡越しに己の姿を見て仕舞い、項垂れシーツを見つめる事で現実から目を逸らす。 銀時は背後からそんな土方の様子を存分に楽しんでから、そっとローションで滑る手で尻肉を割った。シーツの上についた土方の腕も俯いた頭もぶるぶると屈辱と怯えとに震えていて、何だか不意に可哀想になった銀時は同時に、そんな自尊心の高い男がこうして己の我侭に従って、身体を拓くと言う本来であれば屈辱でしかないだろう行為を赦してくれている事が堪らなく嬉しくなった。 その愛しさと溢れんばかりの好意と歓喜とをどう表せば良いのか。方法は何でも良い、兎に角今感じているお前が好きで堪らないと思えるこの感情を伝えたい。教えたい。 胸に迫り上がった興奮と歓喜の侭に、銀時はまだ固く閉じている土方の後孔の蕾に音を立てて口接けた。 「っひ、?!」 びく、と土方の背が驚いて跳ねたのを見て、この行動を阻まれたくないと思った銀時は、その侭土方の後孔を舌で舐めしゃぶった。唇で吸い付いて舌先で窄まった孔を突いて舌の平で寄った皺の狭間までを愛撫する。 「ゃ、まッ、待て、馬鹿…ッ!、そんなとこ、やめ、」 慌てて頭を巡らせた土方の顔は羞恥で真っ赤になっている癖、怖れと背徳感とに表情筋を歪めていた。いたく満足した銀時はその侭暫くの間後孔を舐め回してやる。 「っあ、やだ、や…!」 震える土方の声は、銀時への制止など無駄だと既に悟っている。だからなのか、早々と抗議を重ねる事を止めて、近くにあった枕を両腕で抱えてその中に顔を埋めた。くぐもっていても鋭い悲鳴が時折銀時の耳を楽しませる。 舐め回す後孔はぱくぱくと開いたり閉じたりと言った動きを繰り返し、土方の振る舞い方への困惑を表していた。その動きの隙をついて舌先を孔の中へと進ませてみれば、きゅう、と押し出す様に力が込められ、直ぐに驚いた様に力が抜ける。また粗相をして仕舞うとでも思っているのかも知れない。 土方自身が気付いているのかは知れないが、枕に俯いた事で背中が綺麗な弧を描いて撓み、尻だけが高く上げられる状態になっており益々動物じみた姿勢になっていた。角度もついたので、銀時は孔を両手で軽く開いて唾液を中に流し込んだりして、その都度土方が悲鳴を上げたり背や尻を震わせたりするのをたっぷりと楽しむ。 後ろから見ても、開かれた土方の足の間で先頃まで萎垂れていた性器が形を作り始めている事は知れたので、適当な所で切り上げると銀時はシーツに転がして仕舞っていたバイブを手に取った。 「挿れるぞ」 宣言してぬるつくバイブの尖端をぐっしょり濡れた後孔に当てると、土方は今までの教え通りに何度か深呼吸をして挿入に身構える。「息吐け」短くそう言い、当てたバイブに力を込める。 「──っ、く、ァ…」 土方の両肩が強張る。浮いた肩胛骨と必死で繰り返す呼吸音とが土方の今味わおうとしている苦痛をその侭表していた。この間まで指やそれより細いローター、小さな卵程度の物しか含まされていなかった後孔には、その質量は些か凶悪である様に思えた。 ぐぬ、と括約筋の抵抗を押し開いていく。土方は必死で孔を開いては窄めてバイブの質量をそこにくわえ込もうと努めている。 かは、と苦しげに乾いた息を吐き出して枕をめちゃくちゃに掴んで、土方は少しづつ入り込むその大きさに堪えていた。開かれた膝はがくがくと震えて今にも崩れそうだし、性器も萎えて仕舞っていて、お世辞にも楽そうとか気持ちよさそうとは言えない。 半分程まで入ったバイブを、押し出されない様に押さえながら銀時はローションのボトルを再び手に取るとその中身を上から、いっぱいいっぱいに拡がった後孔へと直接垂らした。 「無理そうか?さっきも言ったけど、これ銀さんのより小さいからね?こんなんで苦しんでたら入らねェよ?」 やわやわと後孔の入り口を揉んだり、萎えた性器を弄くりながらそう態と溜息混じりに言ってやれば、土方は銀時の狙い通りに負けず嫌いの性分を全力で発揮した。かぶりを振りながら掠れた声を上げる。 「っむり、なんて、言って…ね、」 「うん、無理じゃねェだろ。ほらあとちょい」 一度は銀さんのもくわえられたんだから、と付け足して言って、バイブを掴む手に更に力を込めた。ずぶずぶとその器物は少しづつだが確実に土方の腹の中へと呑み込まれて行く。 そうして数分を掛けて漸く、小振りだが色々と装飾のついたそのバイブは土方の後孔にその全長を収めた。経は銀時のものより細いが、長さはそう変わらない。その異物感が堪え難いのか、目一杯に入り口を拡げている様に見える後孔がひくひくと収縮している。 「馴染むまであんま力入れんなよ」 出したら元も子もねーから、と銀時は言いながら、腰だけを高く上げて後孔から異物を生やした土方の姿を鑑賞した。 (……想像したよりなんつーかエロい…、いや、何だろうな、イヤラシイ感じってーか…) 日頃の土方の様が、隊服をきっちりと着込んだクソ真面目そうな姿だからなのか、全裸で雌猫か何かの様に尻を高く突き上げ、そこに派手な色彩の異物をくわえ込んでいると言う今の姿は、性的と言うよりもいっそ何かの前衛芸術めいて倒錯的ですらあった。銀時は口中に湧いた唾を飲むと、そんな土方の背に覆い被さる様に腰を抱き、前に回した手で性器を扱いてやった。 「っあ、待て、まだ何か…ッ、違和感、がっ、」 「直ぐ慣れるから」 性器へのダイレクトな刺激で尻穴が動けばどうしたってそこに突き立つ異物を意識しなければならなくなる。その惑乱に声を上げる土方に適当な事を言いながら、銀時は扱かれて再び力を取り戻した土方の性器に、今度は掌や指の腹を使って亀頭や尿道口と言った敏感な部分を集中して刺激を与えてやる。 「あッ、ふぁッ、あぁ!」 反った背がびくりと跳ねて膝がもう堪えられないと言う様に震える。銀時は土方の背から一旦身体を起こすと、持ち上がりつつある自分の性器を土方の背後から足の間へと進ませて、挿入する時の様な動きで性器同士を擦り合わせた。 「足、閉じて」 はぁはぁと息を荒らげながら言うと、銀時は土方の身体を抱きかかえてベッドに横向きに倒れ込んだ。閉じた太股の間に性器が挟まれる所謂素股と言う奴だ。 「ひじかた、」 興奮の侭に名を呼びながら、銀時は前に回した手で土方の性器の尖端を重点的に弄りながら、腰を前後に動かして張りのある腿の筋肉に己のものが扱かれるのを楽しむ。 「っアァ!、んっ…んぁッ、よろずやぁッ、や、そこ、」 ぐりぐりと尿道口に立てた爪で痛いほどにそこを刺激してやると、土方は閉じた両足にぎゅっと力を込めて顎を仰け反らせた。性器への直接的な刺激だけではなく、きっと体内のものにも性感を刺激されているに違いないその様子に舌なめずりをして、銀時は土方を一気に絶頂へと促した。次いで自分もその侭達して引き締まった土方の内腿をどろりと汚す。 目に涙を溜めてひくひくと震えて喘いでいる土方の姿を見ながら、銀時は後孔に入った侭のバイブを掴んだ。ぐぬ、と半回転させながらこじる様に動かしてやれば、土方は鋭い悲鳴を上げてもんどりうった。 「やめッ、や…、──ッ!!」 少し左右に捻ってから半分以上を抜き出し、再び突き入れる。前立腺と思しき所を探りながら行われるいきなりの激しい異物のピストンに土方は目を白黒させたが、その表情に苦痛や苦悶は無く、上がる声も湿って溶けている。 「んぁッ、あっ、ぃあッ、ん、ひんッ」 やがて、横たわった侭の土方の身体がびくびくと痙攣し始める。達したばかりだと言うのに内側からの刺激で力を取り戻した性器がとろとろと先走りを溢して切なげに震え始めたのを見計らい、銀時はバイブを一気に引き抜いた。その瞬間に土方の全身は硬直するが、その刺激ではまだ達するには至らなかったらしい。訳が解らない様子で溶けた視線を彷徨わせて銀時の事を見上げてくる。 「…、ぁ…、あ…、?」 「じゃ、今日はもう終わりな」 そう言うと、銀時は土方の性器を扱いてその侭吐き出させてやった。いっぱいいっぱいに食んでいた質量を急に失って、前から精液を吐き出すのと同じリズムで後孔がひくついた動きを見せているのを横目にそっと伺い、「次は本番な」と未だ熱を持っている耳元にそう吹き込む。 その瞬間土方の目が物足りなげに、物欲しげに、期待の色を孕むのを、銀時は確かに見た。 。 ← : → |