Manufacture / 5



五日目:
 
 室内の電灯を薄暗くされて、土方は否応なしに今日ここで行われる事の意味を思い知らされた心地を味わっていた。
 ここを訪れるのも既に五回目になる。いい加減見慣れたいつものラブホの変わり映えしない一室の中。皓々と灯されていた室内灯を少し調節して作られた薄暗く仄かなセピア色になった空間は、見た目にはたったそれだけの変化でそんな見慣れた筈の場所を忽ちに居慣れないものへと変えて仕舞う。
 今までは一度も、『開発』と言うだけあってか灯りが薄暗くされる様な事は無かった。恐らく互いに勝手のわからない状況では視界をはっきりとさせる灯りは必要なものだったのだろう。だが、それが落とされた、と言う事は。
 『開発』と銀時は今までに散々宣っていた。『開発』と言う事はその結果、成果も存在しなければならない。
 つまり…、
 (いよいよ抱かれ…、って待てよ、それこそ初夜とか言う訳じゃねェんだ。結果は兎も角ヤる事そのものはとっくに済ませてんだ、今更になって恥ずかしいとかそんなの有り得ねぇだろ、寧ろその方が余程恥ずかしいわ!)
 ぶんぶんと頭を振ってそんな雑念を振り払いながら、土方はいつも通りに着物を脱いで寝台へと横たわった。思考が平静かどうかはさておいて緊張は確かにある。『はじめて』の時を思い出せばその時味わった痛みや苦しみは未だはっきりと記憶に残っているし、それはそう何度も経験したい類のものでは無かった。
 だがあれから何度も銀時曰くの『開発』を経て、土方にも無論銀時にもそれなりの慣れが生じている。いる、が、それら『開発』と言う名の行為は飽く迄擬似的なものばかりであって、実際に『はじめて』の時行ったそれでは決して無い。
 噛み砕いて言えば、腹に直接あの一物の質量を収められると言う事に関しては、飽く迄まだ二度目に過ぎないのだ。つまりはじめての次。二回目。ほぼ初めてと同一に近い。
 そんな訳で土方はあれやこれやと己に言い訳はしていたものの、がちがちに緊張していた。果たして銀時の方はどうなのかと密かに見遣れば、彼は今までと何ら変わらぬ風情でローションのボトルを掌に傾けていた。その様子からは緊張と言う気配は微塵も感じられそうもない。
 その股間を──まだ下着に隠された一物を何となく見て仕舞う。
 まだ兆している気配は無い。少なくとも下着の上からでは見て取れない。が、初めての時にも開発と言う間にも目にした事のある屹立した一物の姿は憶えている。今まで入れられたのはアレより大分控えめなサイズの玩具ばかりだ。前回の(動かさなかった)バイブでさえ、形こそそれっぽかったがサイズはそれ程に大きなものでは無かった。
 銀時のそれが一般的な成人男性のものより特段立派だったと言う事は無く、己のものと比べてもまあお互い平均的なサイズだと土方は思う。先日のバイブはそれよりは間違いなく小さかった。器物と言う意味では人体の一部よりは確かに固かったかも知れないが。
 本当に入るのだろうか、と言う不安は確かにある。『はじめて』の時はひたすら苦しかったし痛かった。こんなものを受け入れる女とは凄いものだったのだなと的外れな事を思わず考えて仕舞うぐらいには、その行為は現実的では無いと思えた。
 そう言った記憶の効果もあって、土方は怖じ気そうになる心をなんとか保たねばならなかった。『開発』として幾度も後孔を弄られたり道具を突っ込まれたりはしたしその行為で紛れもなく快感を得ては来たが、それであの質量を受け入れられる様になった気がするかと言えばそれは別問題な気がする。
 (気持ちから入る、とか何とか…、言われてたな)
 ほぐすから足を開けと銀時に言われ、土方は深呼吸と同時にそっと目を閉じた。緊張に固まった状態では宜しく無いと言うのはなんとなく解る。
 「そうそう。リラックスして、エロい事でも考えてな」
 暢気そうな声で簡単にそう言うと、銀時はぬるつく掌で土方の臀部を揉み、性器に触れそうなぎりぎりの所を五指でゆるゆると辿る。太股の裏側と会陰の近くを撫でる感触とを土方は目を閉じた侭で感じ取ろうとしながら訊く。
 「エロい事って、何だよ」
 「んー…、今までのローターとかを銀さんのチ●コに置き換えて思い出してみるとか?想像してみ?これから男の手前ェが犯されるんだって。ココに今からぶっといチ●コが入って来るんだって」
 「っ、んな、」
 あからさまな揶揄めいた言い種に土方はかっとなって目を見開いた。と、思いの外の目前に銀時の眼差しがあってぎくりとする。こちらをじっと見つめながら、その滑る指だけが土方の下肢を焦らす様になぞっている。笑っていない双つの目。
 ころされる、と。何故か土方はそう思った。
 然しその瞬間に背筋を駈け上がったのは恐怖では無く、熱だった。得体の知れぬその熱が脳をじゅっと音を立てて灼いて、背骨を通って全身を熱くし鼓動を早めて乾きを促す。
 潤したくて、喉がごくりと生唾を飲んだ。脳が処理出来ない熱量にぐらつくのを感じる。下肢に無遠慮に触れた男の手指が内臓の入り口をやわやわと探って、抵抗を和らげる事を知ったそこへと入り込んで来るのに益々に熱が上がって喘ぐ様に息を継いだ。
 「…期待してんの?エロい面しちゃって」
 「っして、ね、」
 は、と開いて息を吐いた唇に、寄せられた銀時の舌先が触れたかと思えば深く口接けられる。土方は脳を灼いて猶煮えようとする熱を逃がしたくて、舌を必死で伸ばして呼吸を貪ろうとした。見つめる、銀時の眼差しがこの熱を生んだのだと理解して思う。思い知る。これから抱かれる、拓かれて犯される。そうやって繋がって互いに快楽を共有する行為に、怯えながらも酷く興奮しているのだと。
 薄暗い部屋で行われるそれは、まるで何か秘密の儀式か何かの様だ。
 セックスと言う行為自体に神聖な感覚を憶えた事は土方には無い。人として当たり前の欲求や行為を処理するだけのものだと言う冷めた理解の中には、確かに明け透けな目的が見えていたのだ。
 だが、これは。
 銀時が、同じ男の身体と心を持った好いた男が己を抱こうとしている──それは、酷く倒錯的で間違った事の筈だ。腑を拓いてその中に男の欲を注ぎ込んで、それを受け入れる男もそれで快楽と満足とを得ようとしているなどと言う事は、紛れもなく初めての事だった。
 『はじめて』の時には感じなかった、気付かなかった、そんな余裕さえ無かった。
 先だっての『開発』で、土方は幾度となく自らの身体を拓かれそこで快楽を得た。それを、器物ではなく同じ男の肉と肉との交わりで今度は得るのだ。
 「………、」
 理解した瞬間に背筋がぞくぞくと震えた。男の手前ェが犯される。そう銀時の口にした言葉が土方の熱にふやけた脳髄を甘く揺さぶる。口接けの合間に目を閉じて、土方は脳に満たされた熱の正体を確かに感じた。
 その感覚の名前を、恍惚と言うのだと。
 「んんッ、」
 抵抗や反抗の意思を思い浮かべる事も出来ぬ侭に、銀時の指が孔を出入りしている。そこで得た感覚を、憶えさせられて仕舞ったそれを土方は深い口接けの中に呑み込んだ。
 「そうそう、上出来」
 ふ、と吐息に混ぜて銀時の笑う気配がする。指はもう三本が入り込んで後孔を好き放題に掻き混ぜている。目を閉じた土方の耳には居た堪れ無い程にぐちゃぐちゃと酷い音が響いて来る。力が入れば内壁が動き回る指に吸い付いて、拓いたり出入りしたりしているものの存在を否応もなく体内に感じさせる。
 そしてそれは堪らなく気持ちが良かった。排泄感と解放感にも似た出入りと、内臓を擦られ開かれる蹂躙と。教えられた一点で感じる堪らない性感と。そして何より、それを行い見ているのが、焦がれる男の熱を孕んだ眼差しと指である事とが。
 (俺の、からだ、どうなってん、だ、)
 湧く疑問は強い快楽に掻き消されて上手く形にならない。『開発』と言うあの行為で、本当に己の身体は正体がすっかりと変化して仕舞ったのだろうか。
 「おめーん中、もう柔らけェし凄ェ吸い付いてお強請りしてるみてェ。な、もう挿入っても良い?」
 囁く銀時の息が熱い。きっとその目は熱を孕んで笑みの形を刻んで己を見下ろしているのだと思って、土方は目を開く事が出来ない侭に頷いた。嫌だと言ってみた所で結局入ってくるのだ。犯されると言われた通りに、はじめての時に土方の腑に押し入って来たアレが、もう一度。今度はきっと今感じている感覚よりももっと強い快感を連れて来るのだ。
 恐怖や痛みの記憶が消えた訳では無いのに、きっと今度はそうではないのだ。『開発』されたこの己の身体は、指に蹂躙されているそこをより激しく埋めるものを確かに欲しがっている。
 絶望にも似た感覚は確かにあった。ただ、それを上回る期待もあった。土方は閉ざした視界の中、銀時が下着を脱ぎ捨てる衣擦れの音と、後孔から抜かれる指とに震えた。期待であっても畏れであっても、これは酷く倒錯的な堕落だと思えていると言うのに、それを咎める気がしない事こそが恐ろしかった。
 「ひじかた」
 銀時の声に促されて目を開く。寝台の上で男の身体を大きく開いた脚の間に見ている、酷い光景だと思うのに目を逸らせない。腹の上で自らの性器が形を作っているのを目の当たりにして仕舞えば、土方は己が確かに興奮しているのだと認めるほかない。
 足の間に宛がわれる、固くそそり立った銀時の性器が見えた。ああ、今からあれに貫かれるのだと思えば怖い。怖いが、欲しい。『はじめて』の時にはお互い得られなかったものを、今度は得られる。だから。
 よろずや、と呼ぼうとしたがそれが声になったかどうかは解らない。銀時は己の指で散々にほぐしたそこに自らの一物の尖端を宛がい、手を添えながら腰を押し出した。土方は呑み込んだ言葉の代わりに出そうになった悲鳴を必死で堪えてそれを受け入れようとする。
 「ほれ、ローター出した時と同じだから、ケツ穴開いて」
 押し込まれようとする質量に後孔が抵抗するのが解って苦しい。土方は詰まりそうになる息を必死で吐いて、今までの『開発』で憶えた事を思い出そうとした。
 「っ、っ…、」
 ひりつく様な痛みが結合部にある。だが今のところ痛いのはそこだけだ。痛みで力が入って締めて仕舞うから銀時も前に進めない。前に進めなければ痛みは去らない。土方は何度も呼吸を繰り返して最早己の意を無視して痛みと本能とに動こうとする括約筋を必死で留めた。
 そうする内に、ずぬ、と音のしそうな衝撃があって、銀時が「は」と息を吐くのが聞こえた。恐らく一番太い部分が通ったのだ。
 「入った」
 熱と弾んだ息に混ぜて銀時が言うのに、土方は恐る恐るまた閉じて仕舞っていた目を開いた。すると銀時は腰を軽く揺すりながらその全長を緩やかに納めて行き、抱えた土方の太股を指で悪戯する様にくるくると撫でて笑う。
 「解る?」
 目を細めて問われるのに、土方は未だひりつく後孔に意識を向けてみた。言われずともそこには確かに違和感と腹を押し上げる様な圧迫感とがある。だが粗相をしそうな感覚にも似ていていて少し怖い。
 「わかる、つぅか…、違和感、が凄ェ、」
 はじめての時にはどうだっただろうか。痛くて苦しくてそれどころでは無かった。だからこれが正しい状態なのかは解らない。土方のそんな困惑を面白がる様に、銀時は喉を震わせて笑うと土方の足に唇を押し当てながら言う。
 「おめーのケツ凄ェ拡がって俺のずっぽり銜えてる。思いの外にエロいわコレ。見る?」
 そう、土方からは見えない結合部をじっと見ながら、銀時は後ろ手にがさごそと何かを探り出すと、見つけだしたそれを向けた。
 「──な、!?」
 黒く薄い器物。それの正体に気付いた土方が「待て」と制止するより先に、カシャ、と小さな電子音が鳴った。電子合成されたシャッター音。その音に、何を撮られたのかを知った土方が頭に一気に血を昇らせる。
 「ほれ見てみ。これが土方くんの     」
 とんでもない卑猥な言葉と共に、銀時は手にしたそれを真っ赤になって震える土方の眼前に突きつけた。
 液晶のディスプレイに映し出されたものは、今までに大凡目にした事などない光景だった。似た様な、全く異なったものは見た事があっても、その『孔』が己の身であった事など、勿論ある筈も無い。
 それは土方が主に仕事用として持ち歩いている黒い携帯電話だ。滅多に使う事などないカメラ機能を用いて撮影されたその写真に、土方は憤慨よりも酷い羞恥心と──現実を目の当たりにさせられた興奮とにただただ震えた。
 「け、消せ、そん…ッ、な、の撮って、んじゃ…ッ!」
 「勿体無ェけど、保存はしてねェから大丈夫だって。……あれ?お前なんかさっきより勃たせてねぇ?つぅかスゲーぎゅうぎゅうに締めつけてんだけど…、」
 ぱちん、と閉じた携帯電話を放って、銀時は唇で弧を描いて笑った。「ひょっとして」白い歯を見せて舌なめずりをする顔が、戦慄く土方の姿をじっと見つめる。
 「興奮してる?こう言うの好き?」
 反射の様に、否定の言葉は容易く浮かんだ。然しそれを叫ぶ事は出来ず、土方はにやにやと笑う銀時の姿をただ無言で睨み付けた。ともすれば游いで逃げそうになる目に何の力も効力も無い事を解っていながら。
 「そっか。良いじゃねェの、羞じる事なんざねェって。お互いキモチイイ事になるんなら、それもスパイスみたいもんだと思って味わっちまえ」
 囁く様に落とされる銀時の興奮を孕んだ目と言葉とが、もう既に熱に煮込まれ原形質まで熔けた土方の脳を更にぐちゃぐちゃに攪拌して行く。理性はあるのに、最早それは正しい仕事をしてくれようとはしない。
 先頃見せられた写真が土方の目蓋の裏に焼き付いて離れない。自分でもまじまじと見た事などない後孔は、すっかりと拡がって赤黒く脈打った銀時の一物をしっかりとくわえ込んでいた。
 ほんとうに、この身体は男の一物をくわえ込める性器として銀時に『開発』されたのだ。本来そこにあった筈の痛みや苦しみに慣れて仕舞える程に。それを享受出来る程に。
 雌にされた、と言う感覚よりも、銀時を受け入れる事が出来る様になったのだ、と思えたそれは、恐らく歓喜と言うに近いものだ。
 だから土方は、屈辱と言った本来あって然るべきであったのかも知れない感情を覚えなかった。己がその全てを銀時に明け渡すのと同時に、銀時の全ても己のものになったのだと、溶けかけた頭で理解し受容する。
 「〜ッ!」
 そうする内、不意に銀時が腰を引いた。ひとつになったかの様に受け入れくっついていた肉が抜けていこうとするのを感じて、土方は本能的な動きでそれに食らいつく。
 銀時は土方の畏れを感じたのか上唇をぺろりと舐めると、ぎりぎりの所で留めたそれをもう一度少しだけ押し込んで一息に抜いた。「いッ、」戦きに上がる声を楽しむ様にもう一度尖端を押し込み、早いストロークで入り口を出入りする。
 「あッ、ぃあッ、んぁッ!」
 拡がっては抜ける、痛みの僅かに混じる感触にもんどり打ちそうになる土方の身体を体重で押さえて、銀時は暫く腰を振り続けた。ぐぽんずぽんと派手な音が上がって、その度に己の後孔が入っては抜けるそれに食いついているのが解った。
 段々と抜ける時間が短くなって、やがて銀時の性器は抜けずに狭道の中を浅く深く出入りし始める。土方はその前後運動の度に己の喉が勝手に上げる悲鳴を何処か余所事の様に聞きながら、唯一感覚の確かな後孔に意識を集中させた。引いては押され、擦られて甘い感覚が背を疼かせ、勃起した侭の己の性器からはしたなく先走りを滴らせているのを確かな興奮と共に感じる。
 「はっ。可愛い声上げちゃって。なァ、どこが気持ち良い?」
 はっ、はっ、と荒い息の合間に銀時の笑んだ声に問われ、切れ切れに「いり、ぐち、」と土方は答えた。解らないけれど、通られるも突き入れられるもそこを通っている。まるで粗相をしそうな感覚が、然し気持ちが良くて、ぶるぶると為す術もなく身体が震えていた。
 「ここ、ぐぽぐぽされるの好きなんだ?」
 銀時が態と土方の羞恥を煽る様な物言いをしているのは解る。酷く埒も無い事だと解っているのに、現実をそうして解り易く指摘される事は下手な道具を使われるよりも余程に効果があった。精神的な部分に攻め入られる事が酷い興奮を生んで、肉体をより背徳的な快楽に溺れさせて行く。
 言葉の通りに銀時が浅く腰を送って来て、拡がった入り口を擦られるその感覚に土方はこくこくと頷いた。痛みよりももどかしい様な感触と排泄感に似た感覚とが解放を促して、夢中になって声を上げる。
 「ん。おめーのココがきゅうきゅうして来んの、俺もスゲー気持ち良いわ」
 上擦った銀時の声が紛れもなく興奮と快楽を表して弾んでいるのに、土方は溶けきってぐにゃぐにゃになった背を震わせて悦びを憶えた。
 面倒な手間を掛けて、男の己の身体を抱いて求めているのは確かに銀時なのだと感じたくて、土方は性器の出入りに合わせて必死で括約筋を動かした。そこで感じる感覚を興奮と共に快楽であると受け止めて感じ入る。
 「かわいい、土方」
 素面で聞いたら怒り狂う他無い様な戯れの言葉には、甘やかな情愛が籠もっている。そんな銀時の言葉に応えたくて土方が手を伸ばせば、銀時は土方の腰を抱えて身体を折った。
 「ん、んぁッ!」
 変わる角度に跳ねた背を抱えて噛み付く様に口接けられて、土方は夢中になって銀時の唇に吸い付いた。繋がった箇所は先程よりも深くて、重たくて、散々に擦られ結びついて酷く熱い。
 「あー…。ヤベェな、これ凄ェ良い」
 離れた唇の狭間で銀時がうっとりとそう呟くのが聞こえて、土方は頷いた。
 「…っ俺、も、…くそ、どして、こんな……、」
 言う程には力の無かった言葉に、銀時はにやにやと笑ってみせる。
 「俺の、そんな気持ち良いか。そか」
 「ば…ッ、あッ、んあぁッ!」
 臆面も無く放たれる肯定に咄嗟に咎めようとした所で、腹の内側から思いきり押し上げられて土方は声を上げた。性器を裏側から弄られる様な眩暈のしそうな感覚にただただ夢中で感じ入って啼く。そうする間にも銀時の手が伸びて来て、固くなった土方の乳首で遊び始めるのだからもう堪らなかった。
 「あッ、あぅ、あ、よろず、や、ぁッ、あ」
 入り口を擦られたかと思えば最も気持ちの良い所を突き上げられて、土方の意識は腹を疼かせるその感覚で一杯になった。逃がすのもそれを伝えるのも切れ切れの悲鳴しか無く、宙を蹴る足は近付く絶頂の予感に強張って震える。
 自らの性器を弄りたいと思った手は銀時の腕を必死で掴んで、酷い快楽の波に堪える様にして縋り付いていて離れない。
 達したくて腰を震わせれば、察したのか銀時の動きが一層勢いを増した。ぶつかる肉と交わる肉との音に混ざる媚びた苦しげな声は己のものなのだろうかと思うが、そんなものは最早理性を呼び戻す役には立たなかった。
 「いッ、イく、も、だめ、い…ッ、イき、てぇ…ッ」
 「ん、良いぜ、イッてみ?」
 「〜っ…、さわ、っ、…、」
 今にも達せられる感覚や気配は近くにあるのに、あと少し押し出す何かが足りない。然し自分で手を伸ばしたくとも、己の両手は快楽を絶え間なく与えてくれている男に縋り付いて離れようとしてくれない。
 揺すられる度に鋭い快楽が脳を叩くのに堪えかね、頭の感覚が下肢の感覚に上手く結びつかない様なもどかしい切迫感の中で乞う。触って、擦って、イかせて欲しいと切れ切れに訴える土方に、銀時は腰の動きを一旦弛めた。激しいそれから一転して緩やかに押しては引く。
 「アナルパール抜かれてイッた時の事思い出してみ?気持ち良かったろ?」
 「──っ、」
 そうして囁かれた瞬間にその時の感覚を思い起こされて、土方は羞恥の余りに目を瞑った。すると体内を出入りしている銀時の性器の存在感を嫌と言う程に感じられて絶頂感が一気に高まるのを感じる。
 だめ、とか、むり、とか。土方はそう言った類の言葉を譫言の様に叫んだ。然しそれとは裏腹に、擦られ性器を腹の裡から突き上げられて生み出される強い快楽に目が眩んで、鳥肌が立ちそうなぐらいに震えている背が大きく反った。
 「っあ、ぁあーッ!」
 その瞬間土方の腰から脳までを走り抜けたのは、粗相をした時の様な解放感と鮮烈な快感だった。銀時の性器に突き上げられる度、自分の性器からぼたぼたと精液が吐き出されて行く。土方は今までに得た事の無い様な絶頂を迎えてがくがくと腰を震わせてその悦楽に感じ入った。射精する間にも銀時の腰は容赦なく動いて土方を攻め立てるから、快楽がなかなか終わらなくて苦しい。苦しいが、溺れそうになるぐらいに気持ち良い。
 「っひじかた、」
 銀時が息を詰めて腰をぐいと突き下ろし、電流の走る様な強い快感に土方は焦点の合わなくなった眼を見開いた。ぶるぶると繋がった部分を震わせて、銀時が土方の腹の中へと射精しているのが解る。
 「ぁ…、あ…、」
 己が極めた絶頂感と同じ様にして、銀時もまた土方の体内を貪って味わって快楽を極めたのだと言う実感に自然と口元が弛んだ。きっと酷くだらしない顔になっているのだろうと思うが、脱力しきった土方はただただその感覚に任せて余韻に感じ入った。
 やがて、精液を吐き出しきって萎んだ性器をゆっくりと抜いた銀時が、口の片端を意地悪げに持ち上げた。腹に滴った土方の精液を人差し指に絡めると目の前に突きつけて言う。
 「……男のチ●コ突っ込まれてトコロテンって、やっぱおめー開発のし甲斐あるわ」
 殊更羞恥を煽る様な言い方だが、その笑みは馬鹿にする様なものではなく、恍惚とした満足感を宿したものだった。土方に羞恥を感じる心地はまだ残っていたが、どんなに否定してみた所で、強がってみた所で、全てが明け透けになったここでは無駄でしかないのだと心が陥落する。
 「お前の、せい、だ」
 なんとか出た言葉は声は湿って震えていた。開発などと宣って、銀時は土方の身体と精神性とに何かを与えて変えた。根本にある土方十四郎と言う人格には疵ひとつつけずに、ただただ堕落の心地よさを教え込んだ。
 返ったのが否定でも恨み言でも無かったからか、銀時は柔和に相好を崩して微笑みをひとつ寄越すと、土方の頬に唇を落とした。
 「責任取るから許して」
 悪戯めかした声でそう言うと、銀時は射精を終えて萎えていた土方の性器を掴み、ゆるゆると扱き始めた。達したばかりの状態には刺激が強く、「やめ、」とかぶりを振って土方は銀時の暴虐を止めようとするのだが、上から強く押さえこまれてただ強い感覚にびくびくと悶える事しか出来ない。
 半ば泣き声じみた制止を無視され続けると、やがて萎えていた性器も再びゆっくりと力を取り戻し始める。
 「よろ、ず、やぁ…ッ、」
 「ん。欲しい?」
 苦しさに声を上げれば、応えとばかりに再び後孔に熱いものが宛がわれる。己のそこが期待と餓えとにひくついて再びの蹂躙を待ち侘びている事に土方はもう驚かなかった。
 はやく、と言う己の心の奥底の叫びに逆らわず、土方は何度も頷いた。
 エロい言葉でも考えてろ、と銀時の言っていた言葉を思い出せば背筋がぞくぞくと震えた。ソレをされているのだと、求めているのだと考えると、ただただ目の前の事以外の全てがどうでも良く成り果てる。
 「おまえ、ので、腹の、なか…ッ、いっぱい、」
 思う度、口にする度、まるで精神的に自分から犯されている様な感覚に意識が千々に乱れるのを感じながら、土方は銀時に向かって手を伸ばして、寄せられる背を夢中で掻き抱いた。







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