JULIA BIRD / 15



 受話器の向こうから繰り返される、罵声にも似た詰問調子の声を適当に聞き流していれば、やがて埒が開かぬ事を悟ったのか、「少し待っとって下さい」と言い置いて、電話の相手が交代した。
 《もしもし、万事屋か?》
 「おう」
 少々長い間の後、切り替わった重い声音に銀時はぶっきらぼうを装った声で応える。
 《この間は、うちの事件に巻き込んじまって済まなかったな》
 聞き慣れていた筈の近藤の声は、常の明るさからは掛け離れて沈み、淡々と当たり障りの無い様な所から切り出して来た。この、電話を替わる迄の間で、近藤が山崎からどの程度に話を伝え聞いて理解したのかは解らないが、少なくとも声音には銀時や土方の現状を理解した上で、そこに対する誠実さが宿っていた。
 後は僅かの、躊躇いや困惑。
 「……まー別に。『依頼料』も頂いたし?」
 近藤がらしくもなく纏わせている重さを振り払いたかった訳ではないが、銀時は努めて軽く応えながら机の抽斗の中の封筒を思い出す。件の『依頼料』とやらは手つかずの侭、使い道も行き場も無く仕舞い込まれている。受け取りはしたが、己の常日頃の浪費に宛てる気にはなれなかった。だからだ。
 肝心な、なれなかった、理由に思考が触れそうになった所で、銀時はそれを遮る様に自ら小さく溜息をついた。電話を挟んだ気詰まりな空気がそれに自然と押し出されたのか、ややしてから近藤が小さく息を吸うのが聞こえた。
 《………なあ。トシはそこに居るのか?》
 些細な──何でも無い様な、少なくとも近藤にとっては酷く自然である問いの様で、然し舌先に何か乗せ慣れない、惑いの気配を滲ませて出たそれは、──紛れもなく問いとしか言い様の無い種の言葉であったのだろう。だが、問い掛けた当人さえも何処かその事に疑いを宿している様な、違和感があった。
 「…………、」
 恐らく。恐らく、だが。近藤がその問いを、問いておきながらも疑って仕舞う程に、それ、はきっと信じ難い事なのだろうと、銀時は察した。
 土方が、真選組──近藤から、自らの意志で離れたと言う、事実が。有り得ない、と疑いたくなる程のものである事を。
 「ああ。替わる?」
 声に僅かに乗りそうになった優越感に似た感情を呑み込みながら、銀時は向かいに、居心地がお世辞にも良さそうには見えない様子で座している土方の方を伺った。迷子の子供が保護者の訪れを待つ様な、不安と期待に彩られた表情は果たしてそこには見受けられない。削がれた焦燥はそんな期待の依る標さえも抱く事をも拒絶している様に見える。
 《…、いや、》
 そんな土方にまるで呼応する様に、近藤の声に混じったのは、惑い以前の後悔。常日頃の近藤の、剛胆で奔放な笑顔を知る者から見ればそれは酷く痛々しいとも言える落ち込みぶりだったと言えるだろう、が。
 土方に、こんな表情をさせるまでに追い詰めたのが、直接的か間接的かは知らないが、真選組の連中の『こんな』態度なのだとしたら。銀時はそれに同情してやる気にはなれそうもない。
 《…………なあ。トシは……、いや、トシが、そこに居るのか?》
 次の問いは酷く端的だった。
 「……ああ」
 だから銀時も簡潔に事実だけを答えた。
 それだけで事態を──土方が自らの唯一の身の置き所としていた『場所』を離れた、離れるほかに無くなった、その理由に気付いたのか、それとも匙を投げたのか。近藤は《そうか…》と呻くと、それから肺中の空気を絞り出す程の長い溜息をついた。そうして徐に、
 《万事屋、お前の所で暫くの間、トシを預かってやってくれないか?》
 そんな事を切り出したものだから、銀時は眉根を寄せて瞠目した。
 「は?」
 《正直、今のトシを屯所から出す事は危険だが、屯所に居る事がトシの気詰まりになっちまってんならどうしようもねェ。だからトシが屯所に戻りたくねェってんなら、最低限安全の確保出来る『外』じゃなくちゃならねぇ。その点、万事屋(お前ら)なら、信頼は出来るし安全でもあるだろうし…、》
 事も無げに続ける近藤に、逆に銀時は鼻白んだ。土方の脱走──もとい家出──に気付きもしなかった事に対して嫌味の一つでも言ってやろうと思っていた意識がぐにゃりと萎えて行く。
 「いや待て。それは俺よか当人に言うべき所だろ。俺ァ別に…、依頼料と経費がちゃんと出るんなら構わねェけど…」
 (アレ?構わないって何?充分構うだろ、違法滞在の天人とか違法な機械(からくり)やら違法な依頼やら違法な…えっとアレだよアレ…、とにかく色々あるじゃん?)
 口から出る言葉と狼狽する思考とが裏腹に流れ出るのをどこか他人事の様に聞きながら、銀時はちらちらと、目前で胡座を組んで俯き加減の視線を投げて来ている土方の方を伺った。そこに疑問符や失望の様なものの乗っていない事に安堵しかかり、いやいや、とまた思い直す。
 土方は銀時の様子から電話の相手が近藤に替わった事ぐらいは察したかも知れないが、その会話の内容は聞いていない。否、聞こうとさえしていないのかも知れない。諦めと、諦めるに至る感情に草臥れきった表情には、僅かの期待もそれに因る失望さえも過ぎるに値していないのだ。
 だが、だからと言ってそれが正しく諾の解答を示すと言う訳ではない。確かに、万事屋でこの侭土方を暫く預かるとなれば、それは真選組の屯所から離れたいと言う土方の希望にも添ったものにはなる、が。
 そこで大手を振って、お任せあれ、とは言えないのが万事屋の事情と、銀時と土方との日頃の関係性である。
 銀時自身に後ろ暗い所が全く無い、とも言えないし、万事屋に舞い込む依頼も真っ当なものから法律違反すれすれのものまで多種多様だ。仕事を碌に選べない経済状況の中での依頼人も、全て品行方正な一般市民とも言い難い。不法滞在の天人や、廃刀令の時世に剣術道場を続けている恒道館の師範。交番の前を駆け足で抜けたくなる程後ろ暗いと言う訳ではないが、どこを取っても問題は多い。
 そこに来て肝心の銀時と土方との折り合いの悪さは、彼らを知る誰しもの間で有名な事実だ。銀時が然程に土方の事を嫌ってはいないと言った所で、土方も同種の感情を持っているなどとは到底思えない。同じ屋根の下に置いたが最後、言い争いの挙げ句に殴り合いにまで発展する自信は──悲しいが、かなり高い目算で、ある。
 口喧嘩、や、言い争い、は出来ないだろうが。或いは、だからこそ余計に手が先に出る可能性がある。
 「……俺ァともかく、あっちが嫌がるだろ」
 《だが、トシが自分で犬猿の仲のお前の所を訪ねたんだろう?お前が事情を知っているから、と言うのもあっただろうが──、》
 そこで近藤は一旦言葉を切った。不意な空隙に銀時が居心地悪く視線を動かせば、土方の顔がこちらを伺う様に持ち上げられているのが視界の隅に入った。不審そうではあったが、まるで現実から乖離しているかの様に、会話の流れや銀時の態度に『何か』を感じている素振りはそこには無い。
 言葉は疎か、意思さえも、通じる事そのものを諦めきっている様に。
 「……」
 ゆっくりと視線を戻せば、土方は銀時の方をじっと見ていた。見ている様で見ていない様な眼差しで。ただ視線の先に銀時が居たから。それだけの様に。
 それは、先頃見せた様な自嘲めいた表情よりも余程人間味が無くて、酷く気味が悪く、銀時には酷い義憤に駆らせる質のものである様に感じられた。
 己が不在となった事を真選組の誰にも気取られなかった事が、土方にとって相当の打撃になっているのは言うまでもなく明かであった。日頃忙しく立ち働いて隊士にああだこうだと指示や命令を飛ばして現場を駆け回っていた『真選組の副長』であれば、その不在に誰も気付かなかった筈はないだろう。
 それが、違った。僅か数時間。しかも深夜の話だ。気付かれなくとも無理はない。そう慰める事は簡単だろう。だが、今の土方に在るのは他者からの慰めを必要とする様な感情の落ち込みではない。己自身を不要と断じるに値する諦念だ。
 そして、そこに生じる自己への激しい嫌悪。
 思えば銀時を巻き込んだ時からそうだった。自己批判を活力に変えて焦燥の中を抗っては苛々と現実を受け入れる、そんな矛盾の生じそうな雁字搦めの篭の中で、出ない声を振り絞っていた。
 (解って、やれる気がしてんのがそもそも、馬鹿馬鹿しい事なのかも知れねェけど)
 他人の絶望に手を述べたり貸したり出来る程に、銀時は博愛と同情だけで構成された性格はしていない。
 同時に。土方もまた、他者の憐憫と優しさだけに包まれ護られている事を良しとする様な性質でもない。
 ここに生じたのは、ほんの一晩だけの、ただ余りにも素直な信頼だけだ。
 恐らくは近藤の言った通りに、銀時の思った通りに、土方が真選組の次に選ばざるを得なかった、消去法の一番最後にでも転がしてあったのだろうそれが、『事情を知る者』ただそれだけの価値だけを持った、万事屋の坂田銀時だったと言うだけの話。
 だから、それ以上をお互いに求める気もなければ、深入りする気もされる気もないだろう、と。そう思っていたのに。思っていた筈だったのに。
 鬱々とし始めた感覚を持て余して、銀時はゆっくりとかぶりを振った。否定したかったのではなく、振り払いたいだけの心地で。
 そこに、受話器の向こうから、苦しそうで悔しそうに軋んだ近藤の声。
 《……万事屋。いや、銀時。俺達にはトシを蔑ろにする心算など一切無いし、追い出す様な真似をした心算も無い。……だが、トシが今そこに居ると言うのなら、そう言う事なのかも知れん。俺達にその心算が無くとも、トシに俺達から離れたいとまで思わせて仕舞ったのは間違い無ぇんだ》
 「……」
 正直な肯定か、気休めの否定か。或いは当たり障りのない相槌か。何れも思いつきはしたが口には出さず、銀時は無言の侭で続きを待った。その指先がくるくると、受話器と電話機本体とを繋ぐ捻れたコードを弄ぶのを、土方の目がぼんやりと見つめている。
 《だから、今の俺達には、トシに無理強いは出来ねぇ。だが、トシが居ねぇと立ち行かん事は余りにも多すぎるのも間違いねぇんだ》
 絞り出す様な声には懇願の響きが乗っている。苦渋にまみれた韜晦の末にやっと出た様な──きっと恐らくそれは、局長と言う身の人間としては正しい意見であり決断だったのであろう。土方の友としてならば伝えたい事も言いたい事も山とあっただろうに、近藤はそれを呑む事を選んだ。
 どう言い繕った所で、現状の侭では土方の立場や状況が良い方面に傾かないのは確かだろう。真選組は全力で土方を庇うかも知れぬが、声が出ない事も、その事で前線に置けぬ人材となった事も、長い事隠し果せる様な事では無いのだ。
 せめて、してやれることは?
 介錯だけだ、とは銀時には思えない。
 だが、近藤はそれに近しい決断を選んだ。少しでも土方が安寧を得られるのであれば、と思う優しいだけの手心で。友としてではなく、真選組の局長として、副長に与えてやれるだろう手心を。
 ……或いは、処分を。
 「………伝えとく」
 それをどう受け取るか、受け取る事が出来るかは土方次第だ。必要ではあるが、無理強いはしない、と言う近藤の応えを果たしてどう思うのか。
 銀時の言葉に、土方がまじまじと視線を投げて来る。疑問符は乗っていないが、興を惹かれたのかも知れない。思ってほんの僅か肩を竦める事で応えてやる。
 《仕事は、俺達の職務上部外秘にしなきゃならん事も多いから、全てを任せると言う訳にはいかないだろうが…、出来る限りは便宜を働ける様にしよう。何にしても、トシにはこれ以上自分を追い詰めないで欲しいと、俺達全員が願っている事に変わりはねぇんだ》
 笑ってやりたかったのかも知れない。近藤の言葉から僅かの柔らかさと嘆く無力感とを聞き取って仕舞った銀時は、それも伝えようかと申し出ようとして矢張り止めた。これ以上は同情であってお節介だ。
 何よりそれは、土方自身が気付かなければ無意味なものなのだから。
 
 *
 
 その後幾つかの遣り取りと、土方に直接どうするかを問う事、その是非がどうであれ午後には山崎が来ると言う事で話には一応の決着がついた。土方は始終浮かない顔をしてはいたが、通話の終了後には『どうだった』と一応は問いて寄越した。或いはもう己の身に降る処遇が何であれどどうでも良いと思っていたのかも知れぬが。
 「万事屋(うち)に泊まるんなら良い、だとよ。まあ一応安全だし、事情も心得てるし?俺としても依頼料は入るし、食費とか諸々の経費もその都度出して貰えるしで、異論は無ェけど、」
 お前はどうしたい?
 すらすらと銀時の並べる問いに、土方はまず驚いて目を見開き、それからあからさまに狼狽して視線を彷徨わせた。
 まあそれはそうだろうと思う。土方が、ただでさえ仲の悪い相手の住処に身を置くなど、銀時が元攘夷志士と言う剣呑な過去を持っていようがいまいが、警戒以前に忌避感を抱きたくもなろうものだ。幾らどうでもよい心地で居ようがそれは変わるまい。
 ぐるりと動き回った目が、固く寄せられた眉の下で頼りなく瞬きをして、やがて口がぱくりと開く。
 「『幾らなんでもそこまで世話になる訳には』?いや、言った通り依頼料も入るから、ビジネスだよ万事屋(うち)的には。そんかし、警察としては見過ごせねェ様な万事屋の仕事については目を瞑って貰わねェとなんねぇけど。…ああいや別にしょっちゅうそう言う事がある訳じゃねェからね?基本的に品行方正の優良企業だからうちは」
 「……、」
 口パクの躊躇いに、銀時は意識してさらりとした調子で返した。その意味は「気にする事ァ無ぇよ」だったのだが、果たして土方はそれを正しく受け取ったからこそなのか、暫くの間苦い表情を作って俯いて仕舞った。居た堪れないと言うか、気まずいと言うか。そんな感情を隠しもせず。
 「神楽や新八にはこれから説明、って事になるが──まぁ問題無ェだろ。アイツらも仕事に関しちゃ物分かりは良いし、オメーらの事を受け入れられねェ程嫌ってるって訳でもねぇし」
 銀時は再度『これは仕事だから』と言う点を強調して土方に伝えた。好意でも憐憫でも同情でもなく、万事屋の仕事なのだと理解させる事で、土方の裡の忌避感や抵抗感を削ぐ心算で。
 仕事だから、と言う言い訳は、銀時にとっても土方にとっても恐らくはとても都合の良いものである筈だ。そこには義務感だけが生じて、無用な情を割り込ませはしない。
 それでも土方は長い間困惑と躊躇いとを抱えて沈黙していた。そんなにも嫌われているのかと思えば少しばかり腹も立とうものだが、悩む様な横顔には嫌悪感よりも不安の色が濃い様に見えて、結局銀時はそれ以上何も言ってやる事が出来ない侭、土方の結論が出るまでをただ待った。
 『万事屋』
 「ん?」
 やがて『呼ばれ』たのは、七時に大分近付いた頃だった。
 『近藤さんは、何て』
 「今のお前に無理強いは出来ねェが、お前が居ねェと困る、だとよ。
 ま、家出の期間は短ければ短い程気まずくて帰り辛ェもんだけど、早ければ早い程帰りは辛くても戻りは易くなるもんだよ」
 重たく慎重な、臆病さを孕んだ問いに、銀時が笑み混じりにそう答えてやれば、そこで漸く土方もほんの僅かだけ微笑みに似たものを見せた。
 『……そうだな』
 独り言の様にこぼした相槌は本心からか、気休めかどうかは解らなかったが。
 『…………迷惑をかけるが、頼む』
 「おう」
 その後に、迷いながら、然しはっきりと続けられた言葉に──『依頼』に、銀時は鷹揚な仕草で頷いて諾を示してやった。
 土方がそっとついた吐息が、安堵からなのか矢張り諦めなのかは想像しない様にして、銀時は「よし」と立ち上がった。ともあれ『依頼』は纏まったのだ。山崎が午後に土方の身の回りの物などを持って訪ねるとは言っていたが、それまでの間用意しなければならないものだって幾つかある。
 「まず朝飯だな。今日の当番は面倒臭ェことこの上ない事に俺だから良いとして──、って、何だよ?」
 立ち上がった所で、土方の不意に向けて来た視線に袖を掴まれた様に銀時は振り向いた。こちらを見上げて唇を開きかけた土方の表情には、あからさまな驚きと──先程までとは意を違えてはいるが矢張り惑いの様なものが乗っている。
 実際に袖を引かれた訳ではない。ただ、そんな気がしたのだ。何かを言いたげに口を開いて、見上げて来ただけ。だが、それは名でも呼ばれた時の様な反応を銀時に返させた。
 暫時の間、両者の間に微妙な緊張感が漂う。だが、銀時の訝しげな問いかけの視線に晒されても、土方に抵抗感は無かったらしい。やがて彼は躊躇いがちに唇を動かす。
 躊躇いとは言ってもそれは、先頃まで漂わせていた遠慮や惑いではなく。こんな事を口にして良いのかどうかを計りかねてのものであったのだと、銀時はそれを『問われ』て初めて知った。
 そして、己でもそれに狼狽した。
 『なんで、解るんだ』
 それはあのトラックの中でも土方の紡ごうとしていた問いであった。その時にはテレパシーなどと嘯いて誤魔化したが、思えば確かに妙なものではある。口パクでの意思疎通を『読む』だけでは得られない様な、感情や、言葉や、行動。それらを銀時は、ほんの数瞬だけの僅かの事であるとは言え、『聞き』取っていた。
 「……見てりゃ大体解る、的な?って言ったよね俺?」
 言ったが。己でそう反芻する。だが、それだけでは何だか説明がつかない気がして、銀時は率爾浮かんだ感情を誤魔化す様に目を泳がせた。
 理解には至らない。だが、解ってやれる様な気のする事がある。それは意思の疎通とは大凡言い難い程度のものなのかも知れぬ。ただの、野性的な勘とか、偶然とか、ブラフとか。そう言うものであってもおかしくはないし、実際そうなのかも知れないが。
 「ほらアレだよアレ、似た者だなんだと不本意ながら言われてるぐらいだしィ?オメーの考えてる事ぐらいお見通しっつーか、」
 袖を掴んだ視線をやんわりと退ける様に顔を土方の方から逸らして、銀時はともすれば言い淀みそうになるのを堪えてそう言い切ってから、己が一番まずい所に踏み込もうとしている事を悟った。
 「…、まあ、お前って結構単純だし?」
 慌ててそう付け足してから、土方が思っていた様な反論を返さなかった──返せなかった──事に気付いて、銀時は盛大に後悔する羽目になった。
 解る理由など。解りたいから、以外には無いのだと。図らずとも気付いて仕舞った事に。
 





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