Mellow / 18 部屋に入るなり、土方は銀時にキスをねだって抱きついて来た。口接けと言う行為をと言うよりも、体液を欲する故の行動だと解っていても否応なしに煽られて、銀時はしつこすぎるぐらいに土方の身体を壁に押しつけて口腔中を舌で舐め回してやった。 そうする内に土方の腰は完全に砕けて、銀時が今まで抱き留めていた腕を離すと、壁に寄りかかった侭その場に座り込んで仕舞った。息を荒らげながら切なげにこちらを見上げて来るその様子から、まだ『条件付け』は終わっていないと判断すると、銀時はへたり込んだ土方の腕を引っ張って室内へと進んだ。そこには即物的で解り易い、大きめの布団が敷かれている。 合流した時から既に土方の発作は始まっていた。銀時は酔っぱらいでも介抱する様な素振りでその足取りを支えて、余り面倒の無くプライバシーには煩い──その分少々値が張るのだが──茶屋風の連れ込み宿を選ぶ事にした。 室内は窓の無い和風の作りで、その見た目を裏切って壁は厚く、防音性もしっかりしている。外の明かりを空かしている様に障子に見せかけた壁もただの飾りで、花街をイメージしたのか裏には紅い色合いのLEDのライトが仕込まれている。 床は畳で布団は一つ。蝋燭の形をした間接照明が飾り物の漆塗りの燭台の上で、そんな解り易い空間を演出するのを手伝っていた。 引き摺られる様にして銀時の後を追う土方の身体を派手な色彩の布団の上へと放ると、銀時は性急に白い着流しを脱ぎ捨てて自らの下肢を寛げた。「ほれ」と、まだ兆していない一物を掴んで見せつける様にしてやれば、土方はふらふらと起き上がった。そして二度目だからか、躊躇いもなく萎びたそれを口に含んで、先日同様に夢中になってしゃぶり始める。 「っん」 性器に芯が通って来て勃ち上がり始めると、土方は力の入らない膝が辛いのか、銀時の腰に両手で抱きついて、口と舌とだけでそれを味わう。赤ん坊が哺乳瓶に吸い付くとか、幼い子供が大きな飴に舐めしゃぶりついている様な様相は、感覚的には若干物足りないが、視覚的には十分だった。 「美味しい?」 「ん、」 つい魔が差してそう訊いてみれば、土方は腔内ですっかり一杯になった一物にしゃぶりつきながらこくこくと頷いた。幹を丁寧に舐め上げて、先端からこぼれる滴を甘露の様に味わって、熱を孕んだ目と呼気とを弾ませている眼下の男の姿に、銀時は肚の奥底から湧き出る凶暴な衝動を歯を食いしばって堪えた。 代わりに、頭髪の中に差し入れた手指で生え際を、耳元を、項を優しく愛撫してやれば、土方は心地よさそうに目を細めながら、腔内から一旦出した、唾液でべとべとの肉棒に愛おしげに頬を寄せて、尿道口をちろちろと舐めてくる。 「──っ、」 射精を促す様なその仕草にかっと頭に血が上った。銀時の性器はそそり立って血管を浮かせて今にも弾けそうになっている。純粋に刺激が気持ち良いのは生理的な反応で、そうすれば吐き出される体液を土方が欲しているのもまた生理的な反応でしかない。 生殖の意欲は無く、互いにあるのはもっと単純で原始的な本能が原動力となったものだ。感情はあっても多分意味は無い。薄汚い欲望はただの興奮材料で、衝動的で刹那的なものなのだと、思う。 愛おしいと思えたそれも、きっと土方が自らの生存の為に坂田銀時の全てを欲していると言う、特殊な状況が手伝っての事だ。そんな相手に欲情した挙げ句に、自分の良い様にしてやろうと思うのなど、何度考え直そうとしてみた所で最低の所行だ。 最初は申し訳の無さがあった。土方がこんな厄介な状況に陥った事には多少なりとも、当事者となって仕舞った銀時にも責任がある。 (だから何だって言う、) それでも口端が自然と持ち上がるのは解った。これを利と思う事の何が悪いと、開き直る本能が凶暴に喉を鳴らした。 こうなって仕舞えば一蓮托生だ。土方は条件付けと言う己の生存欲求の為に。銀時はそんな土方を性欲の対象に。そして情愛を向ける対象として、欲する以外に何の言い訳も理由も必要無い。 常識的な理性とか物言いには耳を塞いだ。それは利であって一致であってそれ以上の何でも無いのだから、それで良いだろうと。 「っ坂田、」 両手で肩を掴んで土方の体躯を布団の上へと押し倒せば、目の前の餌を奪われた形になった土方が縋る様な声を上げた。あと少しで手に入れられたのに、とでも言う様にもどかしげに伸びて来る両手を軽く払うと、銀時は土方の纏う着物を割り開き、右腕に鮮やかに浮かんだ紅い花にくちづけた。 「──ッあぁ!」 矢張りここが一番効くのか、切なげな声を上げた土方の背が柔らかな布団の上で撓る。唾液を垂らす様に舐ってやれば、紅い花弁たちがまるで花開く様に益々紅く美しい色彩になった様に見えた。汗ばんで上気した膚の上に咲き誇ったそれは、異質で、歪で、綺麗だ。 「ぁ、あ、あ…、」 戦慄いて喘ぐ唇に喰らいつく様にして口接けていくと、今にも脱力しそうな土方の両腕が銀時の首にぎゅうと絡みついて更に引き寄せようとして来る。こうしていれば本当に、ただの恋人同士の睦み合いにしか見えないだろうにと思いながら、銀時は土方の口中をじっくりと舐って唾液を隈無くその粘膜に与えてやった。 (然し、経口摂取でも直接皮膚──いや、痕に与えても効くって、どう言う仕組みなんだろうな?) 膚上に浮かんだ紅い花は、条件付けを与える時だけより色濃くなっている様にも見える。指に触れる感触は他の皮膚と何ら変わらないのだが。 まあ何処か他の惑星の成分やら技術に因って生じたものに、人間の尺度での疑問などぶつけても仕様がないのかも知れないが──、寸時余計な思考に囚われた銀時だったが、頭髪を握り潰す様にして掴まれて我に返る。 「足り、ね、、っ」 土方の弾む吐息が耳朶に触れて、銀時の喉が鳴る。「もっと」と子供の様に必死で訴えて来る土方の求めに応じるべく、銀時は身を起こすと身につけていた黒いインナーを乱暴に脱ぎ捨てた。体温などとっくに上がりきっていて、着衣から解放された肉体からは性欲に濡れた雄の臭気が漂う気さえした。 「、」 遠ざかったその気配に手を伸ばし求めようとする土方の腰を両腕でがっちりと掴むと、銀時はじっとりと濡れていた下着を、果物の皮でも剥く様にして脱がしてやった。条件付けの感覚が性的な快楽に直結していると言うのは最早間違い様が無い程に、土方の性器は勃起しきって切なげに震えながら滴を漏らしている。 「今くれてやっから」 舌なめずりをしながらそう言うと、銀時は土方の臀部を左右に指で開いて、そこを凝視した。勃ち上がった性器の根元で持ち上がった陰嚢と、その下方で息づく小さく窄まった排泄器官。放射状に皺を寄せたその小さな孔に顔を近づけると、銀時はたっぷりと唾液を乗せた舌でそこを舐めた。 「ひっ!?ぃ、ばか、何してッ!」 あらぬ所に感じた湿り気に、流石に土方は狼狽えた。逃げようとする腰を然し銀時の腕はがっちりと掴んで離さない。ひく、と驚いた様に震える孔の縁を指の腹で広げると、銀時は口に溜めた唾液をたらりと、僅かに拓かれた孔へと流し込んだ。 「ん?ここも粘膜だろ?効くんじゃねぇかなと思って」 「ば、ッ、」 土方の、罵声になり損ねた絶句の気配には構わず、銀時は己の唾液に濡れたそこに、尖らせた舌をねじ込もうとした。ぎゅ、と窄まろうとする括約筋の抵抗を無視して指で左右に孔を引っ張れば、少しは入り込める。 びくん、と土方の腰が跳ねて硬直した。布団の上に立てられた爪先が、力が入り過ぎてぶるぶると小刻みに震えている。やがて窄まっていた孔がはくはくと開閉して、差し込まれた銀時の舌を、まるで歓迎するかの様に蠢き始めるのを感じて、銀時は口をそこから離した。 背を持ち上げて見てみれば、布団の上に投げ出されていた土方の背はまた綺麗に撓って、反った喉は「あ」の一音を甘いとしか言い様のない調子で小刻みに吐き出していた。腹の上についた性器はねっとりとした水たまりを作って震えている。 恍惚に蕩けた土方の目元は紅く染まって、銀時の方を漸く捉えたかと思えば、『次』を期待して訴えて来た。 「やっぱ、効いたか」 半ば笑いそうになる声を隠す事も出来ず、銀時は自らの唾液に濡れた土方の後孔へと指を埋めていった。狭い孔を潤おす様に、流し込んだ唾液を内壁に擦り付ける様にして内部を掻き混ぜてやると、土方はますます切なげな声を上げて腰をくねらせて悦んだ。 これは条件付けの産物であって、本来ならば土方の望む様な事では決して無いだろう。だから、これは絶対に巡り会う筈の無かった僥倖としか言い様がない。 それを欲したのも、そこに欲情したのも、愛しく思えたのも、そこから生じた必然だったのだから、仕方がない。こうなるべく、こうなった。ただそれだけの理。 「さかたぁ、たりね、ッ、もっと、もっとぉ…っ!」 後孔で味わう唾液だけでは物足りなくなって来たのか、更なる『条件付け』を求めて身悶える土方の背を掻き抱くと、銀時は再びその唇に一度くちづけた。条件付けの為ではなく、きっと他の何かの為に。 「、」 そうして食いしばった奥歯に力を一時込めながら、顔を離すと土方の腰を掴んで二つ折りにする勢いで持ち上げた。はぁはぁと、興奮しきった己のけだものじみた息遣いを笑い飛ばす余裕なんて無い。銀時はいきり立って痛い程に張り詰めた己の性器を、濡らされ拓かれた土方の後孔へと宛がう。 土方が飢えた目で見つめるそれは、彼にとっては条件付けの快楽を呉れるものだ。そして銀時にとっても、至上の充足と快楽を与えて貰うものだ。 だから互いに怯えも躊躇いも無い。「はやく、」促す苦しげな声音に押される様にして、銀時は先走りを溢す自らの性器を掴むと、腰を押しつける様にして土方の後孔からその体内へと一息に侵入した。 「あーーーッ!」 ぬぐ、と押し入る感触と衝撃に、土方が上げたのは恐らくは悲鳴だった。同時に、引き千切ろうとでもする様に絞めつけて来る括約筋の圧迫に息を詰めた銀時は、目を見開いて無意味に口を上下させている土方の両頬を掌で挟んで宥める様に撫でた。 「ちっと、我慢、な?」 痛みに顔を顰めながらそう言って口接けると、土方は身体を拓かれている苦痛よりも条件付けの悦楽に気を取られ始めて、目元を涙で濡らしながらも銀時の体液を求めて再び口接けに夢中になっていった。 「な。これ、と同じで、慣れりゃ結構、イイかも知れねェからさ?」 腔内の交わりの合間にそう囁くと、銀時は少しづつ強張りの取れ始めた土方の腰を抱え直し、ゆっくりと腰を引いた。 「──ッ!?」 上体を反らして口接けから逃れた土方は、泣きそうな表情で戦慄きながら銀時の事を見上げて来る。 「っな、なに、、」 そう問いそうになった所で、ふたつの身体が一箇所で繋がっている事実を思い出したのか、それとも改めて気付いたのか、土方の顔が一気に真っ赤になった。 「ほ、本気、で、てめぇ、」 発作で飛んでいた理性が一旦戻って来たのか、今更の様に目を白黒させている土方の足を撫でながら、銀時は小さく嘆息した。抜き加減の所で動揺されているものだから、丁度性器のくびれの辺りがきゅうきゅうと蠢いていて何とも言えず気持ちが良い。 「ちゃんと前回言っただろーが。それに、これも条件付けになると思う、んだけど?」 「な、なにが」 「前回、ザーメン舐めて効いただろ?んで、さっきはケツ舐められても効いてた。だから、粘膜に直接与えりゃ効くって寸法だろ?」 「ぃ、あぁッ!?」 ずん、と音のしそうな勢いで腰を再び押し込んでやると、土方は仰け反って悲鳴を上げた。今度は悲鳴と言うには甘かったが。 「ちゃーんと効く様に、肚の奥で出してやっから、しっかり飲めよ?」 「ひ、!──ッやだ、、まて、ばッ!?」 藻掻こうとする土方に(些か下世話に)笑いかけてやると、銀時は腰を振って土方の肚を無遠慮に突き上げた。びくびくと痙攣する肚を、狭い孔の中を、張り詰めた凶悪な性器で好き放題に蹂躙する。 熱く湿った内臓の感触、どくどくと脈動する性器を絞めあげては柔らかく受け止めてくれる、腑の感覚に銀時は忽ちに夢中になった。律動の度に幾度も塗り込められて行く唾液や汗や体液にか、段々と土方も恍惚や快楽を示して、抗議らしかった声もはしたない喘ぎになってこぼれて行く。 「やべぇ、おめーん中、すげ、、」 「あ、あぇっ、あぁッ、、まッ、やぁあ、へん、な、ぁああッ…!!」 角度を変えて突き刺さる銀時の性器に刺激されたのか、腹の上で張り詰めた土方の性器からだらだらと精が吹きこぼれた。 絶頂にびくびくと跳ねる腰を体重で押さえつけると、銀時は殆ど上から突き刺す様な体勢で土方の肚の奥を目指して性器を突き入れた。悲鳴を上げる土方の目元に舌を寄せて涙を舐めると、銀時は自らの性器の裡でどくりと脈打つ感覚に逆らわず、ぐっと息を詰めた。 「くぅ──ッ、」 土方の肚の中で性器が弾ける様に跳ねるのを銀時は感じた。溢れる様に放たれる快楽の奔流に目を細めて、小刻みに腰を、性器を突き入れて、肚の底でずっと待ち望んでいたその充足感に浸りながら、全てを吐き出して行く。 「ぁ…、あは、ぁ…、あ、、」 ぎゅう、と、射精を続ける銀時の性器を咀嚼する様にして、土方の後孔が収縮している。それはまるで、彼の体内がそれを悦びながら飲み込んで行っている様だった。 種付けならぬ条件付けは、銀時の下世話な想像通りに作用したらしい。土方は全身を漣の様に震わせながら、恍惚とした表情を浮かべてぼんやりと奈辺を見上げて動かない。 やがて銀時がゆっくりと腰を引けば、ちゅぽん、と音を立てて繋がっていた箇所が外れた。びく、と土方は身を震わせたものの、いつもの様に脱力しきった身体はぐにゃりと崩れた侭でいる。 然し、緩やかに収縮する孔の縁から、ごぷ、と音を立てて精液が伝い落ちると、土方はのろのろと手を動かして、自らの指でそれを掬って孔へと塗り込めようとする。まるでこぼれるのを拒む様にするその動作に、銀時はぞくりと背を粟立たせた。 「そんな効いた?」 訊きながら、銀時は述べた手で、土方の体内からこぼれ出す自らの精液を掬ってやるとそれを土方の口元へと持って行ってやった。土方は差し出されたそれを何の疑問も無い様に舐め取る。とろんとした目が嬉しそうに細められるのは酷く倒錯的だ。 「わかんね、けど…、」 ちゅう、と銀時の指に吸い付いて、僅かの残滓も逃すまいとしながら、土方はまだ陶然とした侭の声色で呟いた。 「もっと、ほしい」 「っ、」 酷い熱と本能しか無い様な声で、そう求める土方に応えるべく、銀時は獣の様な唸り声を上げると再びその身体にのし掛かった。 条件付けを──或いは愛情と欲望とを与えてやろうと、ただ本能に身を任せて。 。 ← : → |