メルトローズ / 4



 ふと耳慣れた音を聞きつけて銀時は闇の中にぼんやりと目蓋を開いた。周囲の暗さと睡眠の感覚から、まだ夜明けに近い時刻だと察しをつけると再び目を閉じる。だが、ぴたりと閉ざした視界に頓着する事なく、夜の静寂を裂いたけたたましい音が途切れる事は無かった。
 こんな営業時間外──一般人の健全な生活でもまだ活動開始する時刻とは言えないだろう──に万事屋の電話が鳴る事などどう考えた所で普通の事ではない。有り得る可能性としては、間違い電話か、間違い電話か、それとも間違い電話か、或いはいたずら電話と言った所だ。
 「……あーもー、」
 じりじりと鳴る電話──の置いてある居間──へと背を向けて無視を決め込むこと僅か十数秒。この電話を鳴らして来た主からは一向に諦める気配が感じられそうも無いと早々に白旗を上げ、銀時はぼさぼさになった頭髪をがしがし片手で掻き混ぜながら上体を起こした。自らの体温に温まった布団を蹴り除けて居間へと向かう。
 窓の格子の隙間から差し込む光は未だ夜のそれだ。薄暗い部屋に家具の陰影を描き出しているその光景は、人の気配の無さに特有の巌の様な固い拒絶を感じさせるから余り好きではない。いつだって夜明けの前が最も暗いのだと言うのは銀時の経験で得た持論だ。
 眠れぬ夜などと言う繊細なものには江戸に出て来て向こう、とんと縁が無い。二日酔いで具合が悪くて眠れない事ならしょっちゅうあるが。
 何にせよ夜明けをまんじりともせず待つ事は余り好きなものではないし、夜明け前に叩き起こされる事はもっと好きになれない。
 納戸で深い深い眠りに就いている神楽がこう言った騒音の類で起きる事は滅多に無い。夜早く寝て朝遅く起きて日中駆け回っていればそんなものだろうか。銀時にはそんな健康優良児の深い睡眠なぞ到底真似出来そうもないのだから仕方が無い。全てはこんな非常識な時間に電話を鳴らす相手が悪いのだ。
 あふ、と欠伸を噛み殺して、机の上で相変わらず騒音を撒き散らし続けている黒電話を胡乱に見下ろしながら銀時は椅子に腰を下ろした。いたずら電話でも間違い電話でも、掛けて来た事を後悔するぐらい説教し倒してやろうと、眠気の徐々に引き始めた頭で考えつつ受話器に手を伸ばす。
 「……」
 もしもし、とは言わずただ受話器を耳に当てれば、《おや、居たんですかィ》そんな飄々として悪びれた様子の全く無い声音が耳を通り抜け脳に当たり、銀時は思わず片眉を持ち上げて仕舞う。
 《あんまり出ねェもんで、てっきりお休み中かと思ってやした》
 淡々と紡がれる声のトーンにも、挨拶ひとつ寄越さぬマイペースな言葉にも、銀時は憶えがあった。真選組の斬り込み隊長と呼ばれる沖田総悟だ。彼も銀時同様にドS且つ土方を弄り倒したい口なので、そちら方面では銀時とは図らず気が合う事が多い。
 電話の主の不遜な態度に、銀時は持ち上げた眉を眉間に寄せて、はぁ、とあからさまに溜息を吐くと机に片肘をつく。
 「てっきり通りお休み中だったに決まってんだろバカヤロー。今何時だと思ってんの。全く最近のガキは常識ってもんを知らねェのかね」
 《そいつぁすいませんでした。何せ警察(俺ら)は深夜から通しで任務に勤しんでたもんで。暇な一般市民代表の旦那の都合とか考慮し忘れちまってました》
 「……言っとくけどな、暇とか以前に夜明け前は普通の企業も営業時間外だから。万事屋(うち)の開店時間は九時過ぎになってんだって心の日記帳に赤字で綴っとけや」
 反論に間が僅か空いたのは別に痛い所を突かれたから、ではない。『こんな時間』まで働いていたと言う沖田が、果たしてどんな用向きで辛抱強く万事屋の電話を鳴らしたのか。思考が不穏な想像に転じるより先に、耳に受話器を更に押し当てて銀時は思わず椅子から身を乗り出していた。
 《憶えといても役立ちそうも無ェんでそいつは遠慮させて貰いまさァ。で。ですね。別に俺も好きで旦那に電話した訳じゃねェんでさ。勿論罰ゲームでも無ェです》
 まるで受話器の向こうの銀時の姿勢と表情の変化とを見抜いた様なタイミングで続けられる沖田の言葉は、銀時の脳裏に幾つか浮かんだ不穏な想像を肯定する要素にしかなっていない。
 《あんま時間が無ェかも知れねぇってんで、やっぱり旦那にゃ報せとくべきだろうと──まあ俺の独断なんですがねィ。仲が悪ィとは言っても、何て言うか…、張り合いが無くなっちまうでしょ》
 沖田の紡ぐ言葉の調子が苦笑を孕んで真剣なそれに変わる。笑いや嘲りではなく、どうしようもない時の様に力の無い、笑うしか無いと言う感覚をそこから聞き取った銀時は腰を浮かせた。蹴られた椅子がことんと小さな音を立てる。
 「………オイ、回り諄ェけど一体何なの」
 声が掠れそうになり一旦唾液を無理矢理呑み込んでから、動揺や不安の類が表には決して出ない様に殊更に何でもない風を決め込んで銀時はそう言う。どうしたんだ、何かあったのか、と目の前に沖田がもしも居たら首根っこを掴んで問い掛けていたかも知れない。
 こんな時間まで任務だったと言う真選組の斬り込み隊長。それは深夜の戦を──大掛かりな捕り物をきっと意味している。
 こんな時間。そう、こんな時間に、電話でわざわざ。『仲が悪い』と称される相手を明らかにその動機の中心に据えた言葉。
 何かの冗談だろうと笑い飛ばす冷静な己の声が聞こえる。
 だが、同時にそれが冗談では無い可能性がゼロでは無い事も理解している。
 この平和の時世にあって最も死亡率が高い、警察と言う職業に土方は就いている。それも、攘夷浪士やテロ行為を実力行使で収める武闘派だ。真選組と言う彼らが人斬り集団と徒名されているのは誇張でも比喩でも何でも無い。沖田は言葉通りの『斬り込み』役を担う生粋の人斬りの実力者であり、それを指揮する土方もまた言わずもがな、平和を護る為に人を殺す事を生業としているのだ。
 そして、人を斬るには己も斬られるリスクを当然伴う。思想や意志が為。或いは死を逃れようとする本能で。そう言った修羅道の中で生きる事を選んだ鬼の背には、いつだって死やそれに類した危険を抱えた死神が笑みを浮かべている。
 真選組が法を謳いながらも武力の行使を公然と赦されるその理由は単純に、血で血を拭わなければこの脆い秩序は保たれないのだと、誰もが知っているからだ。異分子を受け入れた支配者の椅子は、殊に侍と呼ばれた者らの中には売国奴の代名詞として未だ深く根付いている。そしてその椅子が平和を指すものであれば、それを護る事こそが最も疵の浅い正義の成立となるのだ。
 命の購いを繰り返す因果応報からは、銀時がどれだけ願おうが望もうが、土方は逃れる事が出来ない。
 故に。彼らは勁いと銀時が幾ら信ずれど、その命がいつか容易く浚われ消える可能性の潰える事は決して無い。土方の生き様を尊重し、その心を愛せば愛すだけ、そこには常に不確定の可能性が濃く存在し続けているのだ。
 心の臓が胸骨の後ろでばくばくと跳ねているのが解る。乾いた喉が否定の言葉を探して上下するがそれを問う声、茶化す物言いは出ない。
 その不安を銀時は常は上手く隠し通して来ている。気付かぬ様にして来ている。土方の不在となった時間に『逢いたい』と思う度に沸き起こるあらゆる感情の中の一番底に隠して、決して取り出そうとした事は無かった。
 死の実感とは銀時にとってリアルな現実である。慣れきった、でも慣れない、慣れたくは決して無い、酷い虚無感と喪失感との中で、土方に『それ』だけは起こり得ないと、思い続けている。思い続けていた。
 《……大江戸病院でさァ。死に目に会うぐらい、してやって下せェ》
 一際鼓動が跳ねて、目の前が暗く染まる。
 銀時のその沈黙の間から果たして沖田は何かを聞き取ったのか。応えも問いも待たず、電話はふつりとそこで切られた。
 
 *
 
 息を切らせ廊下を駆け抜けて病室に飛び込んだ銀時を迎えたのは、寝台に上体を起こして座って、これ以上は無い程に顔を顰めた土方の大層苦々しい表情であった。
 「……………、」
 否、正確にはまず開いた扉に向けて身構え、続けてその目を見開き、その次に顔を顰めると言う順序だった。そして今そこに大きすぎる溜息が追加された。
 「……良い。見慣れた面だろ、不審者だが害為す輩じゃ無ェ。放してやれ」
 不意な不審者の全力タッチダウンを、その両肩を必死で押さえ制しようとしている真選組隊士ら。彼らにそう、どうにもならない頭痛でも堪える様な表情と調子とで土方は言うと更に溜息をもう一つ追加した。憤りを大人の──或いは上官らしい──態度で何とか抑え込んだと言う体の土方の様子に、銀時の身に取り付いていた隊士達が顔を見合わせながらも離れて行く。
 病室の入り口に立っていたその二人組は、念の為なのだろう番を命じられていた筈だ。突如として廊下を一直線に駆け抜けて来た銀時の形相はお世辞にも真っ当なものとは言い難かっただろうに、怖じけず体当たりでそれを止めようとした。実に感心な勤務態度であったと言えよう。
 彼らとて真選組と何かと関わる事の多い万事屋の社長の、その特徴的な容姿に全く見覚えが無かったと言う事は無いだろう。ただ大凡、夜明け前と言う常識外の時間帯に走ってお見舞いに来た、と言う想像がし辛い人物像と言う認識だった事は恐らく間違い無い。
 「……………」
 溜息をついて項垂れる土方の姿と、その様子を伺いつつも大人しく離れて持ち場に戻って行く隊士らの背中とを見比べる銀時の耳に、かしゃ、と言う軽いシャッターを切る電子音が届く。見れば、病室の壁際に佇んでいた沖田が銀時に携帯電話──のカメラ──を向けて来ていた。
 「意外と早いお着きでしたねィ──、痛て」
 無言でそちらへ近付いた銀時は沖田の頭を拳骨で小突くと、その手にしていた携帯電話を取り上げた。ディスプレイに鮮明に写し出されていた、実に間の抜けた面をした己の姿をデータからさっさと消去する。
 「やっぱテメェの仕業か、総悟。ガキみてェな事してんじゃねェ」
 口から出掛かっていた銀時の抗議は、土方の溜息混じりの言葉に代えられた。一応は呵られる形になった沖田は、小突かれた頭を態とらしく痛そうにさすりながら口を尖らせて言う。
 「なんでィ、まるで人が楽しんでやったみてーな言い方すんの止めて下せェよ。看取りぐらいしてやって貰いてぇって言う、俺なりの気遣いなんですぜィ?。まあ生き汚ェ土方さんの事だ、そう簡単に死にやしねェとは思ってやしたが」
 「発言の前後が全く噛み合って無ェんだよ」
 言いながらも本気で怒鳴りつけるつもりはないのか、土方はどこか投げ遣りな仕草で手を払う事で沖田に応えた。
 「葬式の手筈整えるよかマシでしょう」
 「どうせやったんだろうが」
 「まさか。やろうとしただけでさァ。近藤さんに止められやしたが」
 しゃあしゃあと言う沖田に土方の顔が寸時憤怒の様相を呈しかけ──然し留まる。脱力した様に項垂れるその姿を目の当たりにして、「何を今更言うのやら」と言わんばかりの表情で同意を求めて寄越して来る沖田に、銀時は是でも否でもなくただ肩を竦めて返した。
 沖田の人を食った様な態度や言動は、それを受け慣れているのだろう土方に向けられている限りはどうと言うものでも無いのだが、己に向けられるとなると少々それを苦手と感じる銀時である。神楽もだが、どこか独特の世界観を持ち子供と大人との狭間に未だ居る様なその性質が時々どうにも読めず、扱い辛いと感じられるのだ。
 そこに来て銀時が沖田を扱い辛いと感じる理由はもう一つある。それは、沖田は銀時と土方との関係を恐らくは薄々と知っているだろうと言う事実だ。実際に問いた事は無いし、問いた所で答えてもくれなさそうだが、銀時と土方が表面上よく見られる様な『犬猿の仲』と言うだけの間柄で居る訳ではないのだとは、少なくとも勘付いている様だった。
 その事について特に何も言わぬ沖田からは、吹聴する気も反対する気も無い様なのだが、隙を見ては攻撃を仕掛けて銀時に渋面を、土方には慌て顔をさせる事に関しては改めるつもりはないらしい。土方も負い目や日常的に共に居る関係性もあってか強く言うも問うも出来ずにいる。
 それが沖田なりの遊びなのか嫌味なのかは解らないが、こうして今日の様に銀時を易々騙しておきながら特に勝ち誇る訳でも無いと言うのは、この少年は実に得体が知れないと思わせる所である。
 「……で、何。捕り物の最中に怪我でもした訳?それともマヨ食い過ぎて腹でも下したとか?」
 やがて銀時が切り替える様に問いを発すると、その視線から逃れる様に土方がそろりと目を游がせる。そろそろ明け方に入ったのだろう、朝日がカーテンの隙間から細く病室内に差し込んで来て、鋭い刃か何かの様に場を二分する。寝台に上体を起こしている『病人』と、それ以外の二人とを。或いは明けた朝と明けそうな夜とを。
 珍しくも、大好きなマヨネーズ嗜好を揶揄されても反論する事なく土方が目を逸らしたので、銀時はその腕に繋がる点滴を何となく見遣ってから、壁際に佇んでいる沖田の方を振り向いた。すれば沖田は態とらしい仕草でかぶりを振ってみせる。
 「過労じゃねェかって診断でさァ。実質終わった所とは言え、未だ捕り物の最中だったんでねィ、いきなり倒れたってんで近藤さんがそりゃもう慌てちまいやして」
 「………あの人ァちっと過保護なんだよ。第一倒れちゃいねェ、立ち眩みがしただけだ」
 沖田に客観的に説明されるのは堪え難かったのか、土方は葛藤に似た表情を未だその横顔に保ちながらも正直にそう言って寄越した。恐らくは不甲斐ないとかみっともないとか己を責めているのはその様子からも明かだったので、銀時は安堵した内心を出さず「へぇ」と然程に関心もなさそうに相槌を打つのみに留めておいた。
 土方はふんと態とらしく鼻を鳴らしてそれに応え、自らの左腕に繋がれた点滴のチューブをさも忌々しげに軽く揺らしてみせる。泡を食って駆けつけた後では、最悪の想像まで巡らせ心配をしていた本心を隠し立てをするのも馬鹿馬鹿しいとは思ったが、銀時が無用に騒ぎ立てたり心配する素振りを見せなかった事に、土方はどうやら少し安心したらしい。
 犬猿と称される二者を同じ空間に置いているにも関わらずその空気は荒れないが、晴れもしない。それが沖田の狙った展開だったのかどうかは知れないが、彼はそこで漸く興味を失ったらしい。時刻を確認する様な素振りをすると、「じゃあ俺はそろそろ戻る事にしまさァ。口喧しいのが居ない間休日を満喫させて貰いますぜィ」と言って手を振ってみせた。
 「てめぇな、今日がいつ休日になったんだオイ!?」
 「安心して下せェ、俺ァいつでも休日ですから」
 「安心出来る訳ねェだろうが!」
 青筋を立てる土方に全く頓着しようともせず、とっとと部屋から沖田は出て行って仕舞い、残された銀時はまあまあと形ばかりでも土方を宥めるポーズを取りつつ、その座す寝台へと近付いて行った。
 憤りの遣り場を失った土方は本当に疲れた様に顔面を掌に埋めていたが、銀時の接近を感じたのかちらりと指の狭間から恨みがましい視線をこちらに向けて来る。
 「……てめェも下らねェ総悟のお遊びに引っ掛かってんじゃねェよ」
 大方、土方さんが死にそうだとでも言われたのだろうが、怪しさ以外の何も無ェだろうが。
 そうぶつぶつと早口で付け足すと、顔と掌を引き剥がしてその動作でゆらりと揺れた点滴のチューブを目で追った。
 「過労なんてな。……ったく、みっともねェ話だ」
 愚痴にも似た言葉は自らに向けて吐き出されていた様だったので、銀時は黙って見舞客用のパイプ椅子を引き寄せてそこに腰掛けた。
 土方は真選組の為に己が使い減らされる事を決して厭わない。寧ろそれを苦とは思ってもいないし、負になる可能性に気付いてさえいないだろう。
 「ま。何にしても無事で良かったわ。銀さん結構心配性なんだからあんまヒヤヒヤさせないでくんない?」
 「…………総悟が何言ったのかは知らねェが、あいつの言う事をいちいち間に受けるなよ。見ての通り俺ァ何とも無ェんだからよ」
 己の不甲斐なさに噛んでいた唇を薄く開いてそう言うと、土方はまだ量の残る点滴を見上げた。銀時も何となくそれを目で追って、栄養剤の類なのかほぼ無色の水を湛えたその袋を見る。
 ぽたぽたと滴るその滴が、細いチューブを通って土方の腕の中、血管の中へと流し込まれて行く。それは肉体的な疲労や栄養状態を補填するものではあるのだろうが、彼の心中に常に降り積む疲労の根源を取り除いてはくれない。
 それでも、身体が動くならそれで、と土方ならば言うだろう。動く限りは戦う事も歩む事も決して已めはしない。年齢の割には若く苛烈な精神の持ち主だ。
 それは決して死に向かう戦いではなく、何かを護る為の戦いなのだとは知っている。それでも銀時は時折我侭にも案じては怖れを憶える。平和な世界で殉死に程近い場所に立ち続ける土方を惜しまずにいられない。
 尤も土方に言わせれば、銀時の方こそ次から次に厄介事を背負っては傷だらけになって来て、土方を心配させるのだそうだが。
 「無理すんな、って言っても無駄なんだろうけどよ」
 ほろりと溢れた言葉には自らを省みた苦笑が乗った。土方も銀時の様子からそれを察したのか、ほんの僅か目元を緩めて笑う。
 「まあ、無駄だろうな」
 細めた目を彩っていたのは、疲労を示す様な陰。だがはっきりと銀時の方を向く土方のその眼差しは酷く静謐で真っ直ぐであった。残酷な程にたった一つの意志しか見ていない、そんな目だった。
 だから、いつも銀時は何も言えなくなる。
 「……心配なんてテメェらしくねェぞ、万事屋」
 「…………だ、な」
 もしもそれを口にして仕舞えば、己の抱えた何かが根幹から破綻して行く様な心地がして、銀時は脳裏に形を作り始めていた思考を忘れて仕舞おうと思った。







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