けだものたちの百の企み / 4 俯せにした身体の、膝を立てさせ持ち上げた尻を両手でしっかりと掴んで、好みの挿入角度を選ぶ。それからは直ぐに挿れずにゆっくりと、ローションでどろどろに濡らされて指で丹念に解された孔を見定めながら態と嬲ってやる。指の腹で孔の口を弄ったり、勃ち上がった性器を辺りに擦りつけてみたり。 「オイ…っ、も…、はやく、」 そうしてやると大概の場合土方は焦れて、乞う事を若干悔しそうにしつつも、お互い様だろうとばかりに銀時を促し煽って来る。それは解り易い罵声だったり、腰をもどかしげに揺すったり、睨み付けながら口角を持ち上げてみせたりと、様々な態度で銀時を楽しませてくれるものだった。 今回は自らの背後に手を伸ばして、震える指先で銀時の性器を探ろうとして来た。その侭放っておいて見ているのも面白そうだったが、積極的にもどかしさを示す土方のその様子が愉しくて銀時は、ふ、と満足気な息を吐き出すと己の性器を、挿入を待ち望んで震える後孔へと宛がった。 解り易いのが良い。これが決して何らかの情や曖昧な興味や気紛れから生じたものではないのだと、欲望が剥き出しであればある程よく知れる。 「そんなガッつかなくてもくれてやるって」 尻肉をさすって宥める様に言うと、後ろに向けられていた土方の手がぱたりとシーツの上に落ちた。そうして続く衝撃を待つ様に、落ちた手指がシーツに深い皺を刻むのを見てから、銀時は一息吐くとゆっくりと孔に腰を寄せて行く。 ぬる、とした感触が張り詰めた先端を滑らせて、襞の集中した入り口をこじ拡げて行く。 「っく、うぁ、あ、、」 土方の指が更にシーツを強く掴んで、息を詰めた全身が強張る。この瞬間が銀時は好きだった。他人の臓腑に無遠慮に入り込むなんて、刃かこれでしか味わえない。 それは快楽と背徳感と達成感の入り交じった薄ら昏い感触。寸でまで生きていたものを仕留める罪悪感は無く、迫る解放感には期待すら抱く。 この快楽は同時にその肉を喰らう事を許された権利を噛み締める為の時間でもある。血と脂の乗った旨い肉を目の前にした時の様に自然と口中に唾が涌いてくるのを抑えられない。 肉と粘膜とが擦れる、柔らかくて湿った感触が凶器の尖端を包み込んで、次の瞬間には銀時は堪らず腰を一息に押し込んだ。「──あぁ!」悲鳴としか言い様のない声を上げる土方の背にのし掛かる様にして、掴んだ尻を押さえ込んで生殖の欲求の侭に身体の奥を目指す。 「あ、…ッ、あぁ、あ、…っ、う」 「ふぅ…、」 シーツを掻き寄せて膝をがくがくと震わせて、深い挿入の息苦しさに口をはくはくと無意味に上下させて呻く土方とは裏腹に、銀時は自らの下生えが孔の入り口に到達するまで押し込む事の出来た達成感に暢気に大きな一息をついた。 広がった孔の口は薄ら赤くなってひくひくと苦しげに呼吸をしている様で、中の肉筒の粘膜はしっかりと銀時の性器をくわえ込んでいる。強すぎる刺激ではないが、柔らかくじわじわと性感を与えて来る体内に、銀時の本能は射精感を欲して腰を動かす事を促して来る。 「っひ、ンんん!」 その本能的な欲求には逆らおうともせず、銀時が一旦ずるりと腰を引けば、性器を食む土方の肉はそれを拒む様に吸い付いて来て、堪らない快感を与えてくれる。 孔に填り込んでいる肉の棒がある程度抜け出た所で、再び奥まで押し込む。それだけを繰り返す単調な動きに土方はひっきりなしに悲鳴めいた声を上げて、全身を小刻みに震わせながらもそこから快楽を貪り始める。 単調だった動きを時々角度を変えたりねじ込んでみたりと工夫してやれば、土方の肉体はその度に反応を返して来る。ただ真っ直ぐ出入りするよりも、腹の方へと突き下ろされる方が感じるらしく、そうしてやると特に土方の返す反応はより顕著になった。挿れられる距離は短くなるが、その分孔の口や中の狭道が面白い様に蠢いて銀時の性器に快感を与えてくれる。 ふぅふぅと荒い呼気が歯を食いしばった己の口から漏れ出ていて、全身は酷く熱を持って熱くて暑い。安ホテルの一室にはそんな銀時の息遣いと、土方の嬌声と、粘膜を擦り上げる粘ついた水音と、肉のぶつかる音だけが響くばかりで他には何も無い。即物的で、だから酷く心地が良い。 獣の様な体位でまぐわう事で、人間である事さえひととき忘れて、己が誰であるのかも忘れて、ただただ気持ちの良いだけの行為に没頭していく。 「あぁっ、、ぁ、んッ、よぉずやぁ、もうっ、も、だめ、、、も…ッ!」 掴んだ枕に顔を埋めながら、くぐもった声で限界を訴える土方の腰が大きく跳ねた。瞬間的に仰け反らせた背は直ぐに撓んで、達してぼたぼたと精液を滴らせながら、土方の膝は立ってられずにハの字に開いて崩れて行く。 銀時はびくびくと痙攣する様に震えて崩れる土方の腰を掴み直そうとしたが、そちらに集中すると達しようと今正に昇り始めていた己の意識や動作が削がれて仕舞うので、思わず舌打ちした。 (ああクソっ、) 「ひ、ィあッ?!」 言葉を紡ぐのももどかしい。心の中でだけ悪態をついた銀時は土方の腰から手を放すと、シーツに両手をついて崩れかけていた土方の尻に自身の腰を体重を掛けて押しつけてぴたりと下肢を重ねた。その侭腰だけを揺すって、己が射精する為のあと一歩の刺激を、達している最中の土方の孔に求めて遠慮無く性器を揺さぶって抜き差しして体内へと突き下ろした。 「っや、あっ、ひ、ッあぁ!あーッ!」 上から押さえつけられて犯される体勢に、達して敏感になっている土方の身体が陸に揚げられた魚の様に大きく幾度も跳ねる。銀時はそれを抑え込んでただただ手前勝手にも思える快楽を貪り続けた。 「っふ、」 身体が感じている感覚を表す様に、土方の、達する事を憶えさせられた後孔を蹂躙する銀時の性器を締め付けてうねる体内の悦さに、思わず笑う様な吐息が漏れる。 もうイケるな、と、上がる息の合間で考えながら、銀時は腰を思いきり土方の尻肉に押しつけ、性器を深い場所まで押し込みながら達した。幾度も吐き出される射精の快楽を、一瞬詰めていた息を長く吐き出しながら貪ると、締まる後孔へと最後の一滴まで出し尽くそうと胴震いをしてから腰を小刻みに揺すった。 「………」 土方はもう声も無く、開いた侭の唇から唾液の糸を引いた侭、連続で達したらしい快楽の強さに小刻みに身体を震わせているばかりで、横向きに頭を転がした侭ぐたりと俯せて動かない。 よく男性器の事を剣だの棒だのと譬えるが、こうして同じ性器を持っている筈の男の身体をイかせて精液を注ぎ込んでいると、己の『武器』で敵を仕留めた様な、妙な満足感が沸き起こる。 下衆の発想だな、と思いながら、銀時が長い射精を終えて漸く勢いを失った己の性器をゆっくりと土方の体内から引き抜くと、「あ…っ」と土方が抜けて行く性器の存在感を惜しむ様に、無意識に出た様な上擦った声を上げた。 くわえていた性器の形を失った後孔はまだ口を開いて、散々擦られ赤くなった淵からごぷんと酷い音を立ててまだ白い精液を吐き出していく。 身体を起こして一息をつくと、銀時は脱力した様に伏している土方の顔を覗き込んで見た。彼はまだぼんやりとした様子でいて、緩く開かれた唇には普段見ない様な安らかな笑みさえ浮かんでいる。 「満足?」 いつも通りにそう問いてやれば、土方は薄く涙の膜の張った目をゆっくりと銀時の方へと向けて、それから「きもちよかった…」とこれまたいつも通りに、寝言の様にはっきりとしない呂律で呟くのだった。 これが利害の一致から始まって、そして今でも続いている結果。 「そ。今日も励んだ甲斐あったわ」 ティッシュを数枚箱から抜き取って自身の始末をしながら言うと、銀時は脱ぎ捨てた自らの下着をベッド下に乱雑に散らばった衣服の山から探り出し、足の指で器用に摘んで拾い上げる。座った侭で下着を片足づつ通して穿いてから振り向いてみるが、伏せた侭の土方の方はまだ余韻──と言うよりは疲労か──に動く気配は未だ無い。放っておいても後始末ぐらい自分で出来るだろうと思っているのと、以前戯れにしつこく弄ろうとしたら強烈な膝頭を鼻に食らったと言う忌々しい憶えもあり、銀時は事後の土方には余り触れない事にしていた。 だが、今日は何となく手が動いた。ぼうっとしている横顔の、汗やら唾液やらその他色んなものに濡れて光っている膚がいやに目についたのだ。 煙草を盗み取りに来た訳ではない銀時の手の接近に、土方のぼやりとしていた眼球が動いて、こちらを見た。 「………?」 不思議そうな目に見つめられて、銀時は居心地の悪さを憶えた指先をついと逸らすと、土方の頬に貼り付いていた髪をぴんと弾いて避けてやった。 くっついて気持ち悪そうだったから、とでも言えば良かったのか。そうすれば目など合わせずに済んだのだろうか。 解らなかったが大した事でも無かったので、銀時は肩を竦めるとシャワールームへと向かった。かいた汗もこびりついた欲の名残も荒々しい獣の時間の残滓も面倒くさい考えも、早く洗い流して仕舞うのが一番だ。 。 ← : → |